最近幼馴染で恋人の真澄の様子がおかしい。
なんだか冷たい気がする。
昼休みのお弁当は一緒に取ってくれるけれど、放課後デートに誘っても「今日は忙しい、用事がある。」と断り。
土日の休日にデートに誘っても「その日は用事がある」と、これもまた断られてしまう。
部活がある日は仕方がない。
それに部活がある日は当然私も部活に参加している。
真澄は野球部で、私は野球部のマネージャーの一人なのだから。
家は隣同士なので、幼い頃から互いに行き来していて、互いの両親公認の仲でもある。
あとは結婚……まで秒読みというところなんだけれど。
法律が変わって成人が18歳となり、結婚も性別平等という事もあり性別を問わず婚姻は18歳からとなってしまったおかげで、まだ結婚は出来ないという事くらいか。
3年生になり、春の大会も終わってあとは夏を残しているのみだった。
春の大会は惜しかった。春の成績が夏のシード校を決めるために、出来るだけ上位にいければシード校になれる。
うちの学校は惜しくもベスト16まで残る事は出来たので、夏の大会はDシードにはなれるはず。
それもこれも真澄を始め、部員全員の成果だ。
マネージャー達の黄色い声援が普段の練習を頑張れる秘訣だとか言っていたけれど、そんな単純なものではないと思う。
男子校でない限りは大抵の学校は女子マネージャーがいる。
女子マネージャーと付き合っている部員も世の中には多い。
うちの学校も5人いる女子マネージャーのうち3人は部員と突き合っている。あ、付き合っている。
真澄はうちのエースピッチャーで、入学した直後にはすぐにベンチ入りするほどの選手だった。
中堅校でもあるうちの学校で入部即ベンチ入りって、正直凄いと幼馴染兼恋人としても嬉しかった。
私たちは生まれた時からお隣さんなのでその付き合いはほぼ人生と同じ。
正式に恋人になったのは中学からだけど、中学卒業の日に大人の階段も上った。
真澄の他にも中学時代名を馳せた人が数人いて、近年毎回シード権争いはするんだけどなぁというチームが、確実にシード権は取れるくらいにはなった。
1年の春はベスト8、夏はベスト8、秋はベスト8、と1年の時は8ずくしだった。8ざんまい!ってね。
2年の春はベスト4、夏はベスト16、秋はベスト8と、これまた平均すれば8だった。
真澄は1年の時は背番号17だったけど、1年の秋からは背番号が11になり、2年の秋からは1番となっていた。
投球回数も17時代で3番目、11時代で1番目と背番号の割には出番が多かった。
実質1年の秋からエースなのでは?という扱いだった。
それだけ素晴らしい出来で、幼馴染で恋人な真澄だというのに……
これまで周囲からも結婚式には呼んでくれよな~と声を掛けられる程の仲なのに、なぜか最近……真澄の態度が素っ気ない。
そう、なんだか最近彼が、真澄が冷たいのだ。
これは浮気か?若しくは他に好きな人でも出来た?と疑いを持ったことがないわけじゃない。
いけない事だとわかっているけれど、スマホの中身も確認しているけれど、痕跡は全くない。
真澄の両親にスマホ複数台持ちをしていない事も確認済だ。
まだ18歳にはなってないので、自身では契約は出来ないし。
学校で他の女の子とそれっぽく仲良く話しているとかも、見てないし聞いていない。
今日は部活がない日だ。働き方改革に次いで、学校の部活改革のおかげというか、せいというか……
一週間の総部活動時間が定められた。
平日は平均3時間まで、夜は照明設備がある場合に限り21時まで。そうでない場合は19時までと定められている。
冬季はまた異なるがそれはそれ。
土日は合計で5時間までと定められている。
ただし、自主練はその限りではないが、自主練はあくまで自主練なので5人以上が集まった場合は部活動と見なすとも明記されている。
限られた時間、限られた環境、限られた練習量で如何に実力を身に着けるか、それが部活動である。
野球でいうところのシニアリーグ、サッカーでいうところのユースチーム出身の、さらに県外からの生徒が集まる学校に有利なイメージが強いのと、部活動時間の多さが社会問題に発展したために定められた国全体の部活動規定となっている。
だから今日は部活動がないのだ。間の水曜日は一斉下校の日なのだ。あくまで野球部はだけど。
そして私が何気なく野球部の部室の扉を開けるとそこには……
筋トレ用のベッドに仰向けになっている真澄と、それに覆いかぶさっている一人の男性。
よく見るとそれは良く知った野球部員の一人だった。
背番号1番と2番のバッテリー……所謂《《女房》》役である捕手の|矢尾板耀《やおいたよう》が、ストラックアウトの「5」の的である真澄の中心を、秋沙雨のように突きまくっているところだった。
あ、やおいだよう……