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メモ4




「実は、店長からお話は聞いていたんです。お客様が心に傷を負っていると、だからお客様に付くことになる嬢にはNGに触れない程度に精一杯癒やしてやって欲しいと。常連である朝倉様からお願いされていたようでして。」


朝倉はいつそんな事言ったのか、疑問に思うが時間はいくらでもあった。
休憩時間に話をした後、昼休みや午後の休憩時間等電話の一つも出来たはずである。

事実、朝倉は昼休みにお店に連絡を入れていた。
自身のお気に入りの嬢であるほたるの空き時間が21時過ぎからだったために、一次会二次会と時間を潰す事になった。

朝倉からしてみたらほたる嬢とプレイ出来るし、美味いもの食べてメイドさんに癒されて真仁を元気付ける事が出来れば一石二鳥どころか、一石四鳥状態となる。

ちゃっかり自分も満たされるのだから、楽しむに決まっていた。

朝倉はその予約と共に、後輩を連れて行く、料金は自分が払うからその時に空いている嬢には精一杯のサービスをさせてもらって癒やしてやって欲しいと。ついでにあそこも企画外だよとも伝えていた。

「詳細までは先程聞くまで知りませんでしたが、女性にこっぴどくフラれたので癒やしてあげて欲しいと店長から言われました。あと、君は指名取れてないんだから、これを機に指名取れるようにかんばりなさい。でもだからといって禁止事項には手を出さないように、とも。」

「禁止事項に手を出しちゃったけど、大丈夫?延長したことで少しは落ちつけたかわからないけど。」

「また当店をこご利用になる際には一考いただけるとありがたいですが、私にそこまで魅力があるとは思えませんし、自覚してます。でも、もし次があるなら一生懸命尽くします。」

なんだか話が重くなってきたなと真仁は感じていた。
しかし、真仁の中では渚が気になっていたのも事実。
いくら癒やしてあげて欲しいからと言われたからといってあそこまでするか?
いくらあわよくば指名取れるからといってあそこまでするか?

真仁が処女というものを昇華しすぎなのかはともかく、NG行為をしてまで真仁のためにあんな事までするか?

いや、単純に真仁は渚という女の子が気になってきていた。
容姿も態度も物腰も含めて、真仁にとってストライクだった。

さらに渚の事情に同情した部分もあるかもしれないが。
何よりも、肌を重ねた時の柔らかさはとても忘れられるものではなかった。


少なくとも、またお店利用しても良いかなと思っていた。

急行電車で四駅、各駅停車でも六駅。
会社帰りに来れない距離ではない。

数時間前までは女なんて、と考えていたのに今ではそこまで落ち込んではいない。
簡単にまた行けるという事が、真仁の心の隙間に入り込んでいた。


「これ、私の名刺です。」
渚が差し出してきたのは嬢なら誰もが持っているお店の名前がカムフラージュされた名刺だった。
「喫茶初心」
うぶ、ではない。しょしんである。
なんとも愉快なカムフラージュだなと真仁は思った。

裏を捲ると渚と書かれた判が一つ押されている。
5回の利用毎に五千円までのオプション無料か、五千円以上のオプションの五千円引きというサービスとなる。
中々太っ腹な事であった。
10回毎なら良くあるだろうサービスだが、5回毎は流石にサービスし過ぎでは?と疑問に感じでしまう。

「他店との競争も激しいって事か。」
真仁は納得する。

忘れ物がない事を最終確認すると、渚は終了の連絡を入れる。
後はホテルを出てそれぞれの道へと別れるだけ。

名残惜しつつも303号室を後にした。
賢者タイムに一服するのを忘れていた事を思い出す。

それ程までに渚との時間が有意義だったという事だろう。

フロントに鍵を返却すると、次回500円引きのチケットを受け取る。
フロント前に置いてある飴を二つ取った。
メロン味とイチゴ味。

真仁が渚の前に手を出すと。

「メロンとイチゴどちらが好き?」

「メロン味をいただきます。」
渚はメロン味の飴を受け取ると封をあけて口の中に押し込める。
人差し指で奥に頬張る仕草が少しエロティックだった。

真仁は残されたイチゴ味の飴を口に入れる。
口の中にイチゴの甘い香りが漂った。

自動ドアが開けば夜の喧騒がそこには広がる。
ラブホテルが数件立ち並ぶこの道は、目的を同じくする男女ばかりが通る。

「今日はありがとうございました。」
渚は真仁の正面に立ち、深々と頭をさげる。

そして顔を上げると一歩前に出て踵を上げて爪先立ちになる。
そのままさらに近付き、「ちゅっ」と唇を重ねた。

渚の口からはメロン味が伝わり、真仁の唇からはイチゴ味が伝わった。

キスはレモン味と表現することはあれど、二人のキスはメロンとイチゴだった。

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