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ボクだけ女装を強いられるダンジョン配信生活①

 ボクが生まれるずっと前。
 この世界にはダンジョンと言うものが出来た。
 その時に大勢の人がなくなっちゃって、それでも前向きに生き延びて、今があるんだってお父さんもお母さんも言っていた。

 ボクも大きくなったら立派な探索者になるんだって、子供心に思ってたっけ。

 でも、その後。
 ダンジョンを巻き込むほどの災害があって、ボクの両親は行方不明になっちゃった。

 巻き込まれたのは世界中に巣食っていたダンジョン。
 それが同時多発的に膨張、今まで一般装備で倒せていたモンスターが巨大化するという現実を突きつけられ、ボクたちは疲弊する事となった。

 あれから7年。
 人々はアームドアーマーというアームドユニットを使いこなすことで人類はダンジョンを再び支配下に置くことに成功した。

 現探索者の必需品。
 今日向かう学園ではその取り扱いについての説明のほかに、実際に装着してモンスターと戦う訓練もあるんだって。

 その他に、例のあの子達との約束もある。
 お互いに連絡先を教え合って、当時のあだ名でやり取りを行っている。さすが新今どんなことをしてるかまでは書き込まない。
 それは出会った時の楽しみにしておきたいからだ。

 そして各地で成長してきた成果を、この学園で見せるのだと息巻いた。

「レイ、準備できたか?」
「あ、はい」
「緊張してるのか?」

 震えるボクにねぎらいの声。

「いえ、これは武者震いです」
「そうか、武者震いか。なら大丈夫そうだな。お前は線が細いから、ガタイのいい奴らから舐められるんじゃないかと爺は心配なんだ」

 卯保津家。それがボクを引き取ってくれた家族の名前で、飯男さんは今でも現役の探索者だという。
 それと巨大ダンジョンの探索者ギルドのギルドマスターであらせられる。ボクは緊張というより、恐れ多さの方が優っていると今日まで口に出せずにいた。

 ボクなんかがそんな偉大な人物の家族になれてしまえていいのかと、そういう気持ちでいっぱいだからだ。

「もう! おじい! レイちゃんが怖がってるでしょ!」
「男同士の話に女が首を突っ込んでくるな、バカ孫が」
「バカはそっちでしょ、このゴリラ!」
「誰が……ゴリラだってぇ?」

 飯男さんとの間に入ってきたのは、ボクと同い年のルリちゃん。
 飯男さんのお孫さんに当たる子だ。
 だからお互いを「バカ孫」だの「ゴリラジジイ」だのと軽口を叩き合っている。

 あまり家に居ない飯男さんの事をルリちゃんも心配しているらしいのだけど、いざ本人を目の前にすると素直になれないらしい。
 飯男さんも文句を言われる思い当たりがあるので、それを受け流してる。むしろやり取りを楽しんでさえいるので、ボクもあまり仲裁に入る事はやめたんだよね。

「そろそろ始業式始まるよ。いこ、ルリちゃん」
「そだね。行こっかレイちゃん」

 ちゃんはやめて。せめて君で。
 ボクは男の子なんだからね!?

 ボクのそんな願いは届かず、電車に乗って学園へ。

 合格発表後、送られてきた腕時計式デバイス。
 これが学園内外での記録装置となるらしい。

 聞いた話では、探索者も持っていて言わば探索者の証みたいなものだ。

 けど学園生は腕時計だけ。
 そこにベルトを付け加えて本来のアームドアーマーは完成する。
 腕時計はその時の認証用アイテムなのだ。

 その他に、街から街の移動時に翳すことで紐付けしてある口座からの引き落とし機能もある。
 そう言った機能は今のご時世では珍しくもないけど、子供のうちから口座を持てるのもダンジョン学園ならではの計らいだ。

 なんでも卒業試験が実際のダンジョンにダイブして、該当モンスターを駆除することもあるとかで。失敗した場合、どこで消息をたったか管理するためのものでもあるみたいだね。

 後付けでこんなものができたのは、やっぱりあの時にダンジョン災害の行方不明者があまりに多かったからだと思う。
 行方がわからない、だけじゃ責任の追求を逃れられなくなってしまったんだね。

 だからこんなGPSつき時計を支給しちゃうのだ。
 探索者になりたい人は沢山いる。
 モンスターを倒してお金持ちになりたい人以外に、ボク達みたいに、行方不明になった両親を探しにいきたい人なんかも。

「レイちゃん、緊張してる?」
「武者震いだよ」
「女の子が武者震いっておもろー」
「ボクは男の子だが?」
「そうだっけ?」
「そうだよ」

 長い髪は好きで伸ばしてるのだ。
 これがあの子達との再会の証だからね。
 決して男装ではないよ?
 似合ってないってよく言われるけど。

 ボクは昔から男物の服装が壊滅的に似合わなかった。
 線が細く、色白で、童顔。
 昔から女子に間違われてた。
 けど、ボクはれっきとした男の子!

 今日会う子も男の子だから、どれだけかっこよくなってるかちょっとだけ心配だったりする。
 
 そして最寄駅から降りて、似た様な制服がちらほら見える。

「やっぱ探索者になろうって人はみんなギラギラしてるねー」
「あそこの人なんて背景に薔薇を背負ってるよ!」

 そう錯覚してしまうほどのオーラ。
 学園の制服を身に包んだ美少女がそこにいた。
 凛とした姿はまるで枯れた大地に芽吹く一輪の薔薇を想像させる。
 何者にも手折られることなく生き延びてきた芯のある野花。
 彼女を表現するならそんな言葉が相応しいだろう。

「めちゃくちゃ注目浴びてるね。巻き込まれたら遅刻しちゃうかも」
「それは一大事だ」
「じゃあ、少し遠回りだけどこっち行こ?」
「わわっ」

 腕を引っ張られ、なんならお姫様抱っこされるボク。
 本来ならする側なのに、されてドキッとしちゃうのはルリちゃんが男勝りだからというわけではないだろう。

 ボクだっていつかはこのくらい!
 そう思って7年が経過した。
 ボクなりに成長はしたと思っているけど、ルリちゃんからの評価は当時から変わってない気がする。

「ふぅ、到着! ちょっと見られちゃってたけど平気だった?」
「生きた心地がしなかったよ」
「死んでないからヨシ!」

 何を見てヨシって言ったのさ。
 卯保津家の人々は生きてるだけで丸儲けというスタンスのもと生きてる。だからたまに会話が噛み合わない時があった。

「わ、すごい人だかり!」

 そして学園の前で、風紀チェックでもしてるのかと思うほどの人だかりができている。その中心には、美の化身みたいな白衣姿の少女が人待ちをしていた姿が映った。

「わ、すごく綺麗な人。さっきの人もオーラがすごかったけど、こっちは優雅さが匂い立つほどね!」
「それ、褒めてるの?」
「同じ女として負けられないって嫉妬の表明かな?」
「よくわかんないや」

 校門前は人だかりがすごかったので、ルリちゃんと一緒に大人を呼んで蹴散らした。
 遅刻したら責任をとってくれるのか?
 そう訴えれば大人は生徒を蹴散らすのに同意した。

 ボクの訴えというより、ルリちゃんの威圧に屈したのは多分気のせいだろう。
 それが事実だとしたら、ボクはこの学園でやっていけるか心配になってしまうから。

「ようやく校庭ね。クラス表は校舎前だったっけ?」
「うん、入学パンフレットにはそう書いてあるよ」
「レイちゃんは準備万端でえらいねー。きっといいお嫁さんになるよ?」
「ボクはお婿さんになる予定しかないけど?」
「じゃあ、あたしがお嫁さんになったげる。ぐへへ、今夜は寝かせないぞー、なんちゃって」
「ボクたち家族じゃないか」
「冗談よ、冗談。そんなに後退りしないでってば」

 いや、誰だって涎垂らしながら卑猥な目で見下ろし、両手をわきわきされたら逃げると思うよ?
 ギリギリで家族だったから後退りですんだってことを理解してほしい。

「ここにも目立つ人が居るね」
「憎らしいほどの美人で顔面を取り替えたいほどの衝動に駆られるわ」
「どうどう、落ち着いてルリちゃん」
「おや、君たちも新入生かな?」

 そんなやりとりをしてると、先ほどのクール系美少女が声をかけて来た。

「え、ええ」
「だったらどうだっていうのよ!」

 朝から負けっぱなしのルリちゃんはすっかり喧嘩腰だ。
 
「よければ私のも手伝ってくれないか? どうにも多くの中から探し出すのは得意ではなくて」
「そういうことならボク得意だよ」
「ちょっとレイちゃん!」
「レイ?」

 クール系美少女は何かを考えながら呟く。

「それで、お名前は?」
「ああ、私の名前はマコト。獅子王マコトだよ」
「え、マコくん!?」
「私をそう呼ぶとはやはり君がレイか」
「わ、わー! 久しぶりだね! すっかり見違えちゃって!」
「そういう君こそ、随分と女の子らしくなった」

 ん??

「ちょっと、レイちゃん。1人だけ懐かしがってないで紹介して!」
「あ、そうだね。マコくん、この子はルリちゃん。僕の居候先のお孫さんでね」
「卯保津ルリよ!」
「卯保津……もしかしてかのダンジョン災害で唯一生き残ったと言われる?」
「ゴリラジジイの孫っていう意味なら確かにそうね」
「そうか、レイはそこに預けられてたか。見つからないわけだ」

 マコくんはギリッと下唇を噛み締め、ルリちゃんを睨みつける。
 ルリちゃんの態度が気に入らなかったとか?
 まぁボクも慣れるまで7年を要したからね。

「そうか、私達も色々あった。チャットでは話せない極秘の事もある。詳しい話は女子寮で」

 んん??

「ねぇ」
「何かな?」
「レイちゃんは女の子みたいにかわいいけど性別上は男の子よ」
「え、そうなの?」
「そうだよ。ボクはマコくんが女の子だって知ってひどく狼狽えてる」
「だって、てっきり……えぇ?」

 マコくんはひどく狼狽した後、ボクとルリちゃんを交互に見た。

「何か事情があるんならお話聞くよ? レオくんやハカセにも聞きたいこといっぱいあるから!」
「そうだね、どこから話せばいいことか。わかった、他の2人とは既に合流してるから先に事情を説明しておくよ。そして、また出会えて嬉しいよ、レイ」
「うん、ボクも」

 ボクたちは握手をして、その場は別れたのだけど。
 奇しくも全員が同じクラスだったため、すぐに顔を合わせることになった。

「あ、今朝のオーラ集団!」
「あはは、まさか同じクラスとはねー」
「これはますます説明が難しくなるな」

 どこか困った様な顔で、マコ君は自己紹介を発表した。
 そこで知る新事実。

 彼、もとい彼女達は。
 最近名を上げてるダンジョン配信者『ヴァルキリーズ』のメンバーで、スポンサーを持つプロだと言うことを。

 この学園にはとある目的のためにやってきていることを表明。
 あわよくば新メンバーの加入を見込んでいると発表した。

 性別は女性であること。
 そしてダンジョン内での食糧調達が可能であること。
 そして現段階でSランク相当の彼女達に付いていけるほどのタフネスを求められた。

 発表後、チラチラと僕を見るマコ君の顔はどこか寂しそうだった。
 ねぇ、それってボクが女の子だったら良かったのにって顔じゃないよね? ねぇ?

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