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異世界ポイ活おじさん【1〜2話】

1.

「保有魔力量が0? それで、一体どうやってこれから来る脅威に立ち向かえるというのか! ええい、このような者は必要ない! どこから紛れ込んできたのか分からぬ! つまみ出せ!」
「お待ちください国王様! 判断が性急すぎます!」
「だがこいつはスキルも保有しておらん! 居るだけで役立たず確定だ! 話にならん!」
「良いですかお父様、よくお聞きください。魔力0の人間は珍しく、王宮魔導士達が欲しがります! 見目もよいとなれば奴隷の道も開けましょう。すぐに捨てるのでは勿体なさすぎます! 何かしらお金に変えるべきではないですか!?」
「う、うむ。そうであるな。私が悪かった。だからそのように怒りに囚われるのはやめなさい。せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「いやですわー、お父様ったら」

今、目の前で髭の立派なおじさんと、その孫くらい年齢が離れている女性が真っ向から立ち会って怒鳴り合っている。
俺の他にも三人、格好から見て学生だろう、俺と同様のポカンと間抜けズラを晒していた。

突然こんな場所に連れてこられ、年功序列で魔力保有量を調べる儀式を受けた途端にこれである。

「こほん。魔力0という方はこの世界でもとても珍しい存在です。お父様はこれからお話しすることを前倒しして決断を早まりました。ですがすぐに追い出されることはありません、ご安心くださいませ」

言い争いに勝ったのか、女性が息を荒くしながら、柔らかく微笑んだ。
さっきの言い分は全部聞こえてるので今更だが、どうにもこの国の人たちは俺たちを利用するつもりでここに呼び出したので確定だろう。

「さっき俺の身柄はどこかに高値で売り捌くって聞こえ……」
「気のせいです!」

絶対嘘だ。だって目が全然笑ってないもん。
まだ大丈夫だとはいえ、王様とやらの他にも懐疑的な視線が散見される。
この場にふさわしくない異物、そんな目が俺を貫いて来る。

「おお、この者の保有魔力量は1万と高い! 勇者だ! 我が国に勇者が来てくれた。名を改めて聞こう」
「俺の名はダイゴ、|宇曽田太鼓《ウソダドンドコドーン》、ダイゴは魂の名だ!」

なんとも香ばしい名前だ。偽名を名乗りたくなるのもわかる。うんうんと俺も頷いておく。俺の本名は千代見。|千代見涼《チヨミリョウ》。あだ名は調味料で、脱サラ後は料理再現系配信者として活動していた。数字は全くと言って良いほど伸びなかったが、それは同業他社が多すぎたからと自負している。

「皆、ドンドコドーン様に盛大な拍手を!」
「ダイゴって呼べって言ってんだろ!」
「ですがスキルを使う時、皆本名を名乗られます。それに偽名を扱うと、スキルの効果が落ちるのです。是非本名を使われますよう」
「くっそー!」

親がDQNだと大変だな。絶対学校でそのネタで擦られ続けただろう。
とはいえ、そのネタで盛り上がれるのは俺よりも上の世代、ちょうど彼らのご両親世代か。親がDQNだからこそつけられたとも言える。その後、子供がどんな生活を送るとか考えが及ばなかったのだろうか?

次は華奢な女の子。先ほどのダイゴ氏よりも強い光を放った。

「これは! うおっまぶしっ」

その場にいた全員が光が収まるのを待ち、そして鑑定結果を見て王様が驚愕に目を見開く。

「保有魔力量50万!? これは英雄の誕生じゃー! 名は、名はなんという?」

それを聞き、女の子は俯きがちになる。
先ほどダイゴ君が名前で大恥をかいたように、彼女もまた似たようなあだ名をつけられたのだろう。

「|片尾瀬風男《エアーマンガタオセナイ》、フウとお呼びください」

無理があるだろ! 女の子にその名前は!
女の子なのに名前に男を入れるんじゃない!

俺はその子以上に親のDQN具合に苛立ちを覚えていた。
自分が今後どうなるとか知ったことか!
俺は今、DQNネームの名付け親に強い苛立ちを覚えていた。

女の子は名前を告げた後、ダイゴ君から肩を叩かれていた。
同じDQNネームをつけられた者同士、固い絆が生まれたようだ。

その能力の差はざっと50倍もあるが、俺とは50万倍ある。
国から持て囃されるわけである。
続いてもう一人が前に出る。

彼は保有魔力量は8000とそこまで多くなかったが、名前が特徴的だった。

「僕は|温穂月《ぬるぽガッ》、ライトって呼んで」
「よろしくな、ライト」
「頼りにしてる、ダイゴさん」
「フウちゃんも一緒に頑張ろう」
「是非、偽名でもまともにスキルを使える道を探しましょう」

三人はDQNネーム繋がりでガッチリ固まった。
俺をのぞいて。

「で、おっさんは?」

ダイゴ君が異物でも見るように促した。

「千代見涼、君たちとは程度こそ違うが調味料なんて渾名で呼ばれてたぜ。これ、名刺」
「料理再現系ユーチューバー?」
「あ、私知ってます! 代用素材オンリーで美味しいラーメン作る人ですよね! お母さんが喜んでました。これなら私にも出来るって」
「俺は君たちの名付け親に強い憤りを持ってるけどな」
「生まれは、仕方ありませんよ。ネーミングセンスは有りませんでしたが、私にとっては優しい親でした。もう会うこともありませんが」

フウちゃんは、どこか懐かしむような、ホッとしたような顔で元の世界の記憶に、硬く蓋をした。
今はまっすぐに前を向いて、偽名で活動できる術を探すようだった。

俺も現実に立ち向かわなきゃな。



2.

王城での対応は、魔力量によって変わった。
フゥちゃんなどは王族と同様に。
ほか二名も貴族の偉い人クラスの扱いだ。
それに対して俺の扱いときたら。移す価値もなしってか!?

「オッサン、何か固有スキルもらってないの?」
「あるにはある」
「その歯に何か詰まった言い方、割とハズレ引いた?」

ライト君、君結構口悪いって友達に言われない?

「ああ、なんというか。みんなも一度は目にしたことあるようなやつだよ」
「なになに? どんなの」
「ポイント活動。要は求められた活動をするたびにポイントが増えていく。その増えたポイントがお金になったり、クーポンになっていくやつだ」
「え、それって結構あたりじゃない? 歩くだけでもポイント貯まるんだよね?」

何も知らない人はそう思うのだろうが、内情を知ってる人はゲンナリとした。君もやったことあるか、ダイゴ君。

「オッサン、それってポイント換算の比率がおかしい奴か?」
「お、やったことある人かな?」
「どういう事?」

よく分からないフゥちゃんに説明するように、俺はスキルの利用法を述べた。最初こそワクワクとしてた表情が、みるみる可哀想な人を見る目になる。
わかってたよ、同情されるのは。

「あの、強く生きてください」
「俺たちヌルゲーしてるから。じゃっ」
「オジサン、ドンマイ」
「そうやってすぐ見放す! 助けてくれよ! 同郷だろ!?」
「いやー、足手纏いはちょっと」

俺のスキルがあまりにも大器晩成型過ぎるからってこの手のひらの返し方はショックを受ける。

そりゃ1000歩あるいて100ポイント。
ステータスを+1上昇させるのに500万ポイント、スキルの獲得には1000万ポイントが必要だ。お荷物待ったなしである。
だが、忘れてないか?
この中で唯一料理ができる存在を!

「仕方ないか、じゃあ俺は出て行くよ。日本食が恋しくなっても諦めてくれ。俺はなんとか現地食材から再現して生きてくから」

言うなり、ガッと肩を掴まれた。
フゥちゃんである。

「嫌だなー、涼さん。冗談ですよ〜、本気にしないでくださいよ」
「フゥちゃん、正気?」
「別にオッサン養わなくたって日本食くらい手に入るっしょ?」

まだ現実感に湧かない男子二人に、フゥちゃんが迫る。
この子、見た目通りおとなしいと思ったが、割と周囲を圧倒させる圧力を放つ子だ。それとも保有魔力のなせる技か?

「二人とも甘いよ! いい、日本食ってね、結構な技術の結晶なの。適当に足して合わせた程度じゃ再現できないの。でもこの人なら、再現料理でなんとかしてくれるって信頼がある! 料理とかあまりしない私が、真似しただけでお店の味になるって言ったらわかる!? この人は頼りなく見えるけど、普通にフォロワー2万人は居る配信者だからね?」
「おじさん、見かけによらずにすごい人?」

見かけによらずは余計だぞ、ライト君。

「フゥちゃんが認める腕があるとは思えねーが、メシで困ったら相談に乗ってくれるか?」
「できる限りのことはする。それ以外にポイントの稼ぎ方も確かめたいしな」
「それじゃあ、一次協力者としてよろしくな!」

ダイゴ君、それは途中で裏切るって聞こえるが、そんなことないよな?

そんなこんなで俺は一時的な協力を得た。
まさか異世界生活2日目で俺に速攻頼ってくるとは思わなかった。
世界が変われば食事も変わる。

この世界は俺が思ってる以上に原始的で、魔法の万能具合が知ってる異世界のどれとも違っている。
知ってる世界というのは漫画やアニメ、小説なんかだ。
まんま日本食が食える、日本文化が栄えてる異世界というのは何かとある。

けどここにはない。それが判明する。

「毎日毎日木の実ばかり! 頭がどうにかなりそうだぜ!」
「味は美味しいんですよ? けど満足感というんですかね? そういうものが圧倒的に足りないんです!」
「僕達、結構贅沢してたんだって身に沁みる気持ち。おじさん、これどうにかできる?」

この世界の食事は野菜、果実、木ノ実オンリー。
そのまま生で齧り付き、つぐしてジュースにするなどの加工はない。
保存も何もかも魔法で解決してしまえるからこそ、加工して長持ちさせようという工夫がなかった。

最初こそ、食糧難かと思った。
だが栄えてる国で、これが贅沢だと信じて疑わない王族。

最高級のもてなしは果実、最低限のおもてなしが野菜。
その差は魔力保有量にあった。
果実は魔力保有量が高く、それを摂取するだけで満腹度が高いのだという。

これには現代っ子も不満顔。
だがこれには俺も困惑するほかなかった。

皆の言う旨みを、俺の舌は感じられなかったのだ。
もちろん満腹感すら得られない。
その理由は、保有魔力が0だからではないか? と決定づけられた。

「味覚の死んだ料理人に物を頼むのは無理だね」
「涼さん、どうにか出来ませんか?」
「無茶を言うなと言いたいが……なるべく似たような味わいを再現してみたいと思う。これにはみんなの味覚が必要だ。それと味見だな。本当なら俺が自分の舌で確かめたいが、こればかりはどうにもならん」

こうして俺と学生たちの味覚検証会が始まった。
まるまる5日かけて、ソースカツの味覚を再現した時は男子たちに胴上げされた。
やっててよかった料理再現配信者。
けど、固有能力の方がもっぱら無能なので、追い出されるのも時間の問題か。

学生たちと無能の俺が仲良くしてるのを、王族があまり快く思ってないのを、視線で感じるからな。

旅立ちの日は近い。
追い出されるか、自分から出て行くか。
学生たちに慕われてるからと、魔力保有量0の俺の居場所はここにはなさそうだ。

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