サポ限で載せていた閑話を一般公開。
時系列は考えなくて大丈夫です。
勘違いゴリラさんのお話。
今後サポーター限定コンテンツは四期生の決起集会など軽めの話を載せるかも
全くサポーター限定コンテンツを触ってなかったので。。。申し訳ありません。
ちなみにそれらもいずれは一般公開するので、お金出してギフトなどはしなくて大丈夫と思います。
なんというか毎月くれていた人がいるので罪悪感が。。。
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如月沙羅はいつものよう無線イヤホンを耳につけた。
親友と待ち合わせのお洒落な喫茶店。
服装は白のブラウスにハイウエストスカート。現役女子高生ながら少し大人っぽい見た目に合わせた落ち着いた服装だ。
テーブルに広げられた参考書とノートからもその真面目さは伝わってくる。
だがスマートフォンから聞こえてくるのは今若者の間で流行りの曲……などではなくとあるVTuberの軽妙なトークだった。
あまりに軽妙すぎて笑ってしまったり、力が抜けてテーブルに頭をぶつけたことが何度もある。
今も想定外の方向からきたボケ発言にガクッときて頭をぶつけかけた。
「……相変わらずこの娘は」
ハッキリ言って勉強には向かない動画だ。
でもそのVTuberの配信を聞き終わったあとは無性に『私も頑張らないと』という気にさせられる。
だから新しい配信があれば必ず聞くし、お気に入りの動画はヘビーローテーションで聞いていた。
聞いていないと落ち着かないので自分でも少し危ないかもしれないと自覚している。
でもやめられないのだ。
思い込みが激しく依存体質気味。
そのせいで大きなトラブルを引き起こしたことがある。
高校生には重すぎる失敗と反省と後悔。
一生背負う覚悟の自責の念は今も抱えている。
それなのにまた依存かと自分に呆れる。
寄りにもよって自分が人生を狂わせてしまった相手に依存しているのだから本当にダメすぎる。
今は本人から許されていた。
メッセージアプリでも連絡を取り合っている。
友達と呼べる関係。
事件前とは比べてはいけないほど良好な関係だ。
和解前なら相手に失礼で、あまりに恥知らず。罪悪感から友達になりたいとは思えなかった。ただ謝りたかった。それが自己満足だとしても。
だから今があるのは奇跡なのだ。
依存するのも仕方がない。
依存といっても配信をヘビーローテーションで聞いているだけだし。
そんな自分への言い訳を重ねていると耳元のイヤホンが無断で誰かに操作された。
途端にスマートフォンから漏れるVTuberの声。
『いいですか! ドラゴンブレイクはただの対戦カードゲームにあらず! 無駄に壮大なストラテジーゲームの側面が強いんです! 泥沼化すると一回デュエルに三十分以上かかることも多い。流行らないのも当然です! でもやってみると面白いんですよ!』
「あっ……ちょっと……もうっ! いきなりなにすんのよ!」
慌ててスマートフォンを操作して動画再生を止める。
そして音漏れの犯人である幼馴染の小野寺弥生を睨みつけた。
「真宵アリスちゃんの布教活動? 街中にアリスちゃんのトークを轟かせるの」
「ただ私を辱めたいだけでしょ!」
とぼけた返事をしやがった弥生は笑うだけで反省の色は皆無。
迷惑をかけた。お世話になった。本当につらいとき傍にいてくれた。あのとき自分みたいなダメ人間を見捨てないでくれた。
大恩人で親友の幼馴染様だが、こういう悪戯好きなところだけは好きになれない。
「……なによにやにやして気持ち悪い」
「気持ち悪いは酷くない? 相変わらず聞いてるんだ。愛だな~と思っただけなのに」
「愛ってあんたも見ているでしょ。真宵アリスの動画」
「そりゃあもちろん! 同じ高校の仲間で元クラスメートだし、我が校の出世頭でアイドル。VTuber真宵アリスのファン歴は沙羅よりも長いよ。というか私はクラスメート時代も普通に友達だったし。誰かさんのフォローのために謝り倒したからね。ね? 顔も名前も覚えられてなかった勘違いゴリラさん」
「……うぐっ」
「いや~あの時の沙羅は正直きつかったよ。というかイタかったよ。典型的な高校デビュー失敗作。何度も縁切ろうと思ったもん」
「……その節は大変にご迷惑をおかけしました。お詫びにケーキセットを奢らせていただきます」
「えっ? ホント! ありがとう! でも自分で頼むからいい。奢らせるため急所突きしたわけじゃないし。私たち親友だし、一方的にタカる関係になりたくないし」
「じゃあなんなのよ……一体」
あまりの言われようにテーブルに突っ伏す。
弥生も向かいの席に座った。
「親友の状態確認? アリスちゃんのおかげで復調した。周りからの風当りも弱くなった。社会復帰できた。遅れた勉強も取り戻そうとしている。でもこうしてたまに内面抉らないと前みたいになられるの嫌だし」
「……そんな気軽に内面を抉らないでほしい」
「気軽じゃないよ? 割と本気だよ。勘違いゴリラ時代のアンタのことを私は本当に嫌いだったし。今にも自殺しそうなほど弱っていた時も実は内心自業自得だと思っていたから。本当に自殺しそうだったから言わなかったけど」
「……弥生酷過ぎない? 泣いていい?」
「泣くな! アリスちゃんに元気をもらうのだ! でもここで言い返せるなら大丈夫だね。言っておくと今の沙羅のことは好きだし、ちゃんと親友だと思っているから安心して。ちゃんと伝えたい言葉は伝えられるときに伝える。大事なことだよね」
「そりゃあどうも」
憮然と答えるしかない。
弥生とは昔から仲のいい幼馴染。
だが中学時代でもここまでズバズバ言う関係ではなかったと思う。
知らなかった幼馴染の性格に救われてもいるが、もう少し手心を加えて欲しい。
「そう言えばうちの学校で流行っているよねVTuber」
「いいことじゃない」
「になろうとすること」
「……普通に考えて無理でしょ」
「アリスちゃんの例があるから安直に考えて試すけど、全然見向きもされないんだって」
「……はぁ」
呆れてモノも言えない。
身近な成功者が現れると自分もできると勘違いする。
それは仕方がないことではあるのだろうが釈然としない。
『真宵アリスが成功したから自分も成功できるだろう』
そんな甘い考えでVTuberになろうとするなら嫌悪する。
自分が真宵アリスと……いや結家詠と対峙したからわかる。
結家詠は普通ではない。
イジメていたときは単純に逃げ足が速いだけ小動物かと思っていた。
でも違った。
大きな問題にならないように立ち回られていただけ。
相手にされていなかったのは私の方だ。
顔も名前も覚えられていなかったことからもわかる。
反論されたときその強い瞳に押された。口では勝てないと思った。
だからとっさに手が出た。
それもビンタではなく自分が得意とする掌底だ。
口で負ける。いや口でも気迫でも負けたと思ったから過剰な暴力に出たのだ。
冷静に振り返ることができる今だからわかる。
結家詠は当時から強かったのだ。
VTuberとしての成功も輝ける場を見つけただけ。
少し調べればわかるがVTuberになりたがる人は多い。
だが誰かの成功を後追いしても成功できない厳しい世界だ。
それこそ強い個性がないと難しい。
「でも沙羅ならVTuberになれるんじゃないの?」
「はあ? なに言い出すのよ」
「勘違いゴリラVTuberになる。これだけで今ならスタートダッシュ成功だよ? VTuberになればアリスちゃんとより近しくなれるよ」
「……また試しているでしょ。本当にやめてよね。確かに憧れてはいるのかもしれないし、仲良くなりたいとは思っている。けど自分のためにあの娘を利用するような最低のクズになりたくない」
「やっぱり今の沙羅が好きだわ。長い付き合いの中で今の沙羅が一番好き」
「もう……今日はなんなのよ一体」
「さっきアリスちゃんの配信を聞きながら笑っている沙羅を見てね。もう明るく笑えるようになったみたいだから大丈夫かなと思って。だから今日はとことん弄るつもりなのだよ親友」
「ありがとう……私は今日で弥生との友情を考え直したくなったわ。親友」
まだ学校での風当りは強い。
お前らのせいで学校の評判が落ちた。
迷惑だ。
なぜまだ在籍しているの?
恥ずかしくないのかな。
そんな声は消えることはないだろう。
全てを投げ出して逃げ出して。
新しい場所でやり直す選択肢もあった。
それでも私が逃げなかったのは純粋な被害者ではなかったからだ。
悪いのは自分。
自分が加害者だった自覚がある。
学校から逃げ出せば一生最低の自分を抱え込んでしまうと思った。
最低の自分は明るく笑えるだろうか?
暗い笑みを浮かべていないだろうか?
笑顔が歪んでいないだろうか?
自覚はなかったが今の私は明るく笑えているようだ。
なら自分の選んだ道は正しい。
親友からの好きという肯定の言葉は気恥ずかしくて。
顔をそむけたがとても嬉しかった。