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れが

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  • 22時間前

    航路分岐年代記・世界観解説⑨ 外惑星は「貧しい辺境」なのか?

    どうも、れがと申します。 前回は月、金星、火星について紹介しました。 今回はもう少し太陽から離れて、木星や土星などを中心とする外惑星圏について紹介してみようと思います。 「外惑星」と聞くと、なんとなく遠く離れた辺境という印象があります。 資源を掘る鉱山。 狭い宇宙ステーション。 危険な仕事をする労働者。 中央に搾取される貧しい植民地。 SFでは割と見慣れた構図ですね。 ただ、『航路分岐年代記』の外惑星圏は少し違います。 ■ 遠いけれど、貧しくはない まず外惑星圏には、とにかく資源があります。 水や氷。 核融合燃料。 揮発性物質。 希少金属。 巨大構造物を作るための資材。 こうしたものを採掘して、加工して、運ぶ。 さらに、それを行うための船を造り、修理し、燃料を入れ、人を乗せ、航路を維持する。 そうして何百年も経てば、単なる採掘基地ではなくなります。 木星圏などには巨大な都市があり、造船所があり、研究施設があり、独自の金融や保険、教育、社会保障まで存在します。 高所得の技術者もいる。 企業経営者もいる。 研究者もいる。 もちろん、普通に学校へ通って、店で働いて、家族を作って暮らしている人もいる。 つまり第一次太陽系大戦が起きる頃には、外惑星はすでに、 「地球から遠く離れた資源植民地」 ではなく、 自分たちだけでも巨大な社会を動かせるだけの富と技術を持った地域 になっています。 ■ それなのに、なぜ独立したかったのか ここが第一次太陽系大戦を考える上で重要なところです。 外惑星が内惑星へ反発した理由は、 「貧しいから豊かな地球へ反乱した」 ではありません。 むしろ、 「これだけ自分たちでできるのに、なぜ最後に決めるのはそっちなんだ?」 という問題です。 当時の人類社会では、内惑星と外惑星が非常に深く依存し合っていました。 外惑星から資源や燃料が来る。 内惑星から高度な技術や医療、金融、保険、法制度などが来る。 お互いが必要です。 ただ、その関係を管理する制度上の権限は内惑星側へ偏っていました。 航路を使えるか。 保険が適用されるか。 船や企業が認証されるか。 救難を受けられるか。 決済できるか。 平時には便利だった共通制度が、政治的対立の中ではそのまま圧力にもなります。 なので外惑星側にとって第一次太陽系大戦は、単に国境線を引くための戦争ではありません。 自分たちの生活について、最後に誰が責任を持って決めるのか。 そこを巡る戦争でもありました。 ■ 船を持つ人たちが強い社会 外惑星社会を考える上で、もう一つ重要なのが船です。 外惑星圏は広い。 都市と都市の間も遠い。 資源を採るにも、物を売るにも、人を運ぶにも船が必要です。 そのため、船団、船舶組合、造船会社、資源企業、保険会社、港湾などが社会の中で大きな力を持つようになります。 第一次太陽系大戦が始まった頃の外惑星も、最初から綺麗にまとまった一つの国家だったわけではありません。 自治政府。 企業。 港湾。 船団。 船舶組合。 地方軍。 いろいろな組織が重なっていました。 ところが戦争になると、食糧や燃料をどこへ運ぶのか、壊れた船をどこで直すのか、誰を救難するのか、どこを守るのかをまとめて決めなければいけません。 そうして戦争を続ける中で、それらを束ねる中央機構が成長し、外惑星連合という国家が実体を持っていきます。 ■ 独立を支えた企業は、その後どうなるのか そして歴史はここで終わりません。 第一次太陽系大戦から何世代も経つと、独立を支えた企業や船団、保険会社、船舶組合は巨大化します。 彼らは単に金儲けをする企業ではありません。 雇用を作る。 年金を払う。 学校へ資金を出す。 地域を開発する。 退役軍人を支援する。 船や航路を維持する。 外惑星社会そのものを支える存在になります。 なので外惑星の巨大企業は、 「政治へ影響を与える巨大資本」 であると同時に、 「自分たちの独立と繁栄を作った功労者」 でもあります。 この二つは普通に両立します。 そして、かつて内惑星の支配から自立した外惑星が、今度はその巨大な資本と航路網を使って、スプレンドールやテラスペィなどへ強い影響力を持つようになります。 すると今度は向こうから、 「あなたたちが昔、内惑星に文句を言っていたことと何が違うんですか?」 と言われる側になります。 歴史というのはなかなか綺麗には終わってくれません。 ■ 戦争が変わっても、船を造って運ぶ さらに時代が進んで、頭足人との戦争が始まります。 この頃の外惑星圏は、巨大な後方軍事経済圏になります。 艦艇を造る。 修理する。 燃料を作る。 資源を送る。 前線へ運ぶ。 SP356で艦艇が失われれば、また造って送る。 それが100年以上続きます。 もちろん外惑星の全員が軍需産業で働いているわけではありません。 普通の日常生活も続いています。 ただ、造船と物流の巨大なネットワークそのものが、人類全体の戦争を支えるようになる。 そのため外惑星側には、 「戦争で儲けているじゃないか」 という批判と、 「こちらが造船と輸送を止めたら前線そのものが崩れる」 という反論が同時に成立します。 どちらか一方だけが間違っているとも言い切れません。 ■ 外惑星圏とは、どんな場所なのか こうして見ると、外惑星圏を単純に「辺境」と呼ぶのはかなり難しくなります。 太陽からは遠い。 地球からも遠い。 でも、経済的にも技術的にも人類文明の中枢の一つです。 資源を採るだけではなく、加工する。 船を造る。 運ぶ。 保険をかける。 航路を維持する。 そして、それを何百年も続けてきた社会があります。 だから外惑星の歴史では、 「自分たちの生活は自分たちで決める」 という自治の意識と、 「この巨大なネットワークがなければ人類社会そのものが動かない」 という自負が、かなり強く残っています。 遠いから辺境なのではなく、 遠い場所同士をつなぎ続けることで大国になった地域。 外惑星圏は、そんな場所として考えています。 今回はこの辺で。
  • 1日前

    航路分岐年代記・世界観解説⑧ 月・金星・火星――地球の隣にも、別の世界がある

    どうも、れがと申します。 前回は内惑星圏、特に地球について紹介しました。 ただ、内惑星圏=地球ではありません。 月もあります。 金星もあります。 火星もあります。 しかも、現在主に作品を書いている3000年代から見れば、どれも「最近できた宇宙植民地」などというものではありません。 今回は外惑星へ行く前に、地球のすぐ近くにある三つの人類社会を少し紹介してみようと思います。 ■ 月――「宇宙植民地」と呼ぶには古すぎる場所 まず月です。 『航路分岐年代記』の歴史では、2090年代には月面資源開発が本格化し、2110年代には恒久的な月面都市や軌道工業施設が拡大しています。 例えば3500年の人間から見れば、月に人間が恒久的に暮らし始めてから1400年近く経っています。 ここまで来ると、 「地球人が月に作った植民地」 という感覚は、さすがにかなり薄いでしょう。 何十世代にもわたって月で生まれ、月で育ち、月で死んできた人たちがいる。 都市にも歴史がありますし、古い施設の上に新しい施設が作られ、それがまた何度も建て替えられているはずです。 人類最初期の宇宙開発史そのものが、日常生活の足元に積み重なっている場所と言えるかもしれません。 同時に、地球のすぐ隣にあるという条件も変わりません。 地球と月は、人類が宇宙へ進出した最初期から一つの巨大な経済圏として発達してきました。 なので月は、「地球から遠く離れた植民地」というより、人類が地球文明から宇宙文明へ変わっていく過程そのものを抱えている地域として考えています。 ■ 金星――人間が住めないなら、住める環境を作ればいい 次は金星です。 現代の金星は、地表温度約460度、約90気圧。 どう考えても、そのまま人間が暮らせる場所ではありません。 では、人類は諦めたのか。 諦めませんでした。 『航路分岐年代記』の金星圏には、「金星太陽光反射・集束軌道群」、通称「金星集光群」と呼ばれる巨大な軌道インフラがあります。 名前だけ見ると、ものすごく物騒ですね。 実際、『金星は二度燃えた』を読んだ方には、あまり良い印象がないかもしれません。 ただ、本来これは兵器ではありません。 金星へ降り注ぐ莫大な太陽エネルギーを反射・集束・配分し、環境制御や産業、生存基盤を支えるための設備です。 金星のような極端な環境で巨大な社会を維持するには、単に頑丈な都市を作れば終わりではありません。 エネルギーをどう扱うのか。 熱をどう逃がすのか。 どこまでを人工的に制御するのか。 そうした巨大な環境管理そのものが、社会の一部になります。 そして、ここが『航路分岐年代記』らしいところなのですが、 人間を生かすために作られた巨大インフラは、そのまま巨大な力でもあります。 平時には都市を支える設備でも、戦争になれば別の意味を持つ。 『金星は二度燃えた』では、まさにその問題を扱っています。 なので金星は、単に「ものすごく暑い惑星に頑張って住んでいる場所」というより、 「自然には住めない場所を巨大な技術体系によって生活圏へ変え、その技術への依存と一緒に何世代も暮らしてきた社会」 として考えています。 ■ 火星――外から水を運びながら、惑星を作り続ける 火星への大規模進出が始まるのは2140年代です。 月より少し遅いとはいえ、こちらも作中の主要年代から見れば1000年以上の歴史があります。 そして火星では、その1000年という時間そのものが結構重要になります。 『航路分岐年代記』の火星では、外から氷塊小惑星を運び込んでいます。 氷はもちろん水です。 生活用水にもなる。 農業や工業にも使える。 宇宙で巨大な社会を維持する以上、水はいくらあっても困りません。 ただし、火星へ氷を持ってくる理由はそれだけではありません。 投入された水や揮発性物質は、ものすごく長い時間をかければ、火星そのものの環境を変えていく材料にもなります。 つまり、一個一個の氷塊を見ると、 「今の火星社会が使う生活物資」 なのですが、 何百年、何千年という時間で見ると、 「未来の火星を作るための材料」 でもあるわけです。 今日必要な水を運ぶ仕事と、遥か未来の惑星改造が同じ物流の中に存在しています。 この辺りは、長い年代を扱う『航路分岐年代記』では結構好きなところです。 ■ 火星は「内惑星の端」でもある そして火星には、もう一つ重要な位置があります。 内惑星圏と外惑星圏の接点です。 外惑星には、水や揮発性物質、燃料、鉱物資源などがあります。 内惑星には、巨大な人口と市場、研究機関、高度工業、金融や行政機能があります。 当然、その間では大量の物資と人が動きます。 火星は地理的にも社会的にも、その流れの途中にあります。 外から来た資源を受け取る。 加工する。 備蓄する。 内惑星側へ送る。 逆に内惑星から外へ向かう人や物も通る。 なので火星は、単なる「地球の隣にある第二の居住惑星」というより、 内惑星と外惑星をつなぐ結節点 として発達してきた側面があります。 そして、つないでいる場所というのは、平時には便利ですが、政治的な対立が起きると非常に面倒な場所でもあります。 内惑星と外惑星が互いに依存しながら対立を深めていった第一次太陽系大戦前夜、両者の間にある火星がその影響と無縁でいられるはずもありません。 この辺りは、また第一次太陽系大戦そのものを詳しく紹介するときに触れたいと思います。 ■ 「内惑星人」という一言では括れない 作中では政治や戦争の話をするとき、地球、月、金星、火星などをまとめて「内惑星圏」と呼ぶことがあります。 でも、それは全部同じ社会だという意味ではありません。 月には、人類が初めて地球の外へ恒久的な生活圏を作った歴史がある。 金星では、人間がそのままでは暮らせない環境を巨大な技術体系で生活圏へ変えてきた。 火星では、外から資源を受け入れながら、今日の生活と遥か未来の惑星改造を同時に進めている。 そして内惑星と外惑星をつなぐ場所でもある。 重力も違う。 環境も違う。 都市の成り立ちも違う。 歴史も違う。 「内惑星圏」という言葉は政治や経済を説明するには便利ですが、そこで暮らす人々の日常まで一つにまとめてしまうには、少し大きすぎる言葉です。 前回、 「地球は人類世界の唯一の中心ではなくなった」 という話をしました。 でも、その地球のすぐ近くを見ただけでも、すでに1000年以上の歴史を持った人類社会がいくつもあります。 さらに太陽から離れていけば、その違いはもっと大きくなります。 というわけで次回は、木星や土星などを中心とする外惑星圏について紹介してみようと思います。 今回はこの辺で。
  • 9月14日

    航路分岐年代記・世界観解説⑦ 地球を離れた人類にとって、地球は何なのか?

    どうも、れがと申します。 前回は『航路分岐年代記』の人類がどこに住んでいるのか、という話をしました。 今回からは、それぞれの地域をもう少し詳しく紹介していこうと思います。 最初は内惑星圏。 地球、月、火星などを中心とする、人類文明の一番古い地域です。 ただ、この世界の地球について考えるときに少し面白いのが、 「人類が別の星に住むようになったあと、地球ってどんな場所になるんだろう?」 という問題です。 ■ 人類文明の「中心」だった場所 人類の宇宙進出は、当然ながら地球から始まります。 月へ行き、火星へ行き、外惑星へ進出し、さらにFTLを使って別の恒星系へ向かう。 その間にも地球や月、火星には人口と産業が蓄積され続けます。 大学、研究機関、病院、金融、法律、行政、文化産業、大規模な消費市場。 こういうものは、新しい植民地ができたからといって突然消えるわけではありません。 むしろ何百年も先に発展を始めたこと自体が、かなり大きな強みになります。 なので『航路分岐年代記』の内惑星圏は、 「宇宙開発が進んだ結果、時代遅れになった地球」 ではありません。 人類が恒星間文明になった後も、社会・経済・文化の巨大な中心の一つであり続けます。 ■ 宇宙時代でも、みんな宇宙船に乗るわけではない これは個人的に結構大事にしている部分です。 宇宙SFなので、どうしても登場するのは宇宙船の乗員、軍人、研究者、技術者などが多くなります。 ただ、それは作品でそこを切り取っているからです。 地球や月、火星の巨大都市には、普通に学校があり、病院があり、行政機関があり、店があり、娯楽産業があります。 宇宙船とほとんど縁のない仕事も大量にあります。 なので3700年代になっても、 「地球に生まれて、地球で学校へ行って、地球で就職して、そのまま一生を終える」 という人は普通にいます。 恒星間文明だからといって、全員が宇宙を飛び回っているわけではありません。 ■ では、地球は「首都」なのか? ここが少しややこしいところです。 長い歴史の中で、地球を含む内惑星圏は、人類社会を政治的に支配する特別な地位を失っていきます。 第一次太陽系大戦で外惑星側が自立し、その後は恒星間植民星系も成長します。 第二次太陽系大戦が終わる頃には、内惑星、外惑星、スプレンドール、ムンドゥス、テラスペィなどが、それぞれ政治的な主体として並ぶようになります。 つまり、 「人類は地球から生まれたのだから、地球が一番偉い」 では人類社会を動かせなくなっています。 ただし、政治的な特権を失うことと、中心性を失うことは同じではありません。 人口は多い。 巨大な市場がある。 研究機関も多い。 医療や金融、法律、文化にも長い蓄積がある。 何百年も積み上げてきた社会資本は、独立宣言や講和条約一枚で消えてくれません。 なので地球は、「人類世界の唯一の中心」ではなくなっても、「どうでもいい昔の故郷」にもならないわけです。 ■ 地球という巨大な文化財 さらに地球には、ほかの地域には絶対に作れないものがあります。 人類の歴史そのものです。 何千年も前の都市。 建築物。 美術品。 博物館。 大学。 そして、人類が進化してきた自然環境そのもの。 未来の技術で似た環境を作ることはできても、 「ここで実際に人類が生まれた」 という履歴まではコピーできません。 なので恒星間植民星系で生まれ育った人にとっても、地球は一種の文化的な原点として残り続けます。 一度くらい行ってみたいと思う人もいるでしょうし、地球の大学や博物館、歴史的な場所に特別な価値を感じる人もいるでしょう。 逆に、 「だから何なんだ」 と思う人も当然います。 ■ 「まだ地球が中心だと思ってるの?」 ここが内惑星圏の面白いところです。 地球側からすれば、 「人類発祥の地で、最大級の人口と研究、文化の集積がある」 というのは単なる事実です。 しかし、スプレンドールやムンドゥスで何世代も暮らしてきた人からすれば、 「だから地球が人類社会の基準になる理由にはならない」 という話になります。 地球の大学が名門だからといって、すべての分野で地球が最高なわけでもありません。 第二次太陽系大戦後には各地域の研究・教育も発達し、資源工学ならスプレンドール、生態系や医療ならムンドゥス、といった具合に専門分野ごとの中心が生まれていきます。 昔なら、 「最高の教育を受けたければ地球へ行く」 だったものが、 「何を勉強したいかによって行く星が違う」 になるわけです。 地球は特別です。 でも、特別だから上位に立つわけではない。 この微妙な位置が、恒星間時代の地球にはあります。 ■ 統一人類になった後も そして3568年、人類が統一された後には、内惑星圏も独立した国家ではなくなります。 ただ、それで地域の特色まで消えるわけではありません。 旧内惑星圏には、行政、研究、大都市生活などを中心とした文化が残ります。 一方で、統一から何世代も経つと、 「内惑星人だから」 という違いより、 「研究者なのか、軍人なのか、官僚なのか、民間企業で働いているのか」 という職業や生活環境の違いの方が大きくなっていきます。 地球は人類の中心だった。 その後、数ある中心の一つになった。 さらに政治的には、統一された人類社会の一地域になった。 それでも、人類がどれだけ遠くへ広がっても、 「ここから始まった」 という事実だけは消えません。 だからこそ地球は、いつまでも重要でありながら、いつまでも「自分たちが一番だ」とは言えない。 『航路分岐年代記』では、そんな場所として考えています。 今回はこの辺で。 次回は月と金星、火星について紹介してみようと思います。
  • 9月12日

    航路分岐年代記・世界観解説⑥ 人類は、どこに住んでいるのか?

    どうも、れがと申します。 ここまで歴史の話が続いたので、今回は少し地図を広げてみようと思います。 『航路分岐年代記』では、人類はすでに地球だけで暮らしているわけではありません。 月や火星、木星や土星の周辺はもちろん、太陽系の外にも人類社会があります。 では、実際どこに住んでいるのか。 今回は、この世界の人類圏をかなりざっくり紹介してみます。 ■ まずは太陽系 当然ながら、人類発祥の地です。 ただし、作中の時代には「太陽系=地球」という感覚ではありません。 大きく分けると、地球・月・火星などを中心とする内惑星圏と、木星・土星方面を中心とする外惑星圏があります。 内惑星圏には人口、行政、研究、金融、文化などが長い時間をかけて蓄積されています。 特に地球は、人類が恒星間へ進出した後も人類発祥地として特別な場所です。 一方、外惑星圏は資源、燃料、造船、輸送などに強い地域です。 「地球から遠い貧しい辺境」というわけではなく、それ自体が巨大な産業社会になっています。 むしろ、この二つがどのような関係を築いてきたのかが、以前紹介した第一次太陽系大戦にもつながっています。 ■ 太陽系の外にも、大きな社会が三つある 人類はFTLを手に入れたことで、別の恒星系にも進出しています。 作中で特に重要になるのが、 スプレンドール ムンドゥス テラスペィ の三つです。 もちろん、これ以外の恒星系に人間がまったくいないわけではありません。 資源採掘や観測などのため、小規模な居留地が置かれている星系もあります。 ただし、数百年かけて人口、産業、政治、文化を育て、「一つの社会」と呼べる規模まで成長した主要な植民星系は、この三つになります。 ■ スプレンドール 三植民星系の中でも、かなり重要な位置を占める地域です。 資源と工業に強く、後の時代には軍事面でも大きな存在感を持ちます。 また、長い歴史の中で独自の共和主義的な政治文化や市民意識が育っています。 そして『航路分岐年代記』では、頭足人との最初の接触が起きるSP356もスプレンドール方面にあります。 そのため後の時代には、対頭足人戦争の最前線を長く背負う地域にもなります。 資源大国であり、軍事大国であり、同時に長期間前線を抱え続けた社会。 この辺りがスプレンドールを考えるときの大きな特徴です。 ■ ムンドゥス ムンドゥスは少し毛色が違います。 強みになるのは、食糧、生態系、医療、研究など。 もちろん軍事力がないわけではありませんが、「巨大な艦隊を持っているから大国」というタイプではありません。 むしろ、人類圏のいろいろな勢力から、 「あそこなら任せられる」 と思われるだけではなく、その信頼を交渉材料として使うしたたかさを持っています。 人道支援や救難、医療協力を引き受ける代わりに、航路や資源、研究協定などの条件を整えさせたり、自分たちの要求を通したりする。 そうやって、武力を用いずに発言力や影響力をじわじわと増し続けてきたわけです。 頼られる善意の拠点というだけではなく、必要とされる立場そのものを政治的な武器にする、少し嫌らしい強かさも持ち合わせています。 研究者や医師、人道支援、救難などの分野でも存在感が強く、人類社会の中では独特な立ち位置を持つ星系です。 ■ テラスペィ テラスペィは、造船や重工業に強い地域です。 船を造る。 直す。 必要な資材を作る。 そして、それらを大規模に運用する。 恒星間社会では、単に資源を持っているだけでは巨大な産業力にはなりません。 それを加工して、巨大な構造物や艦船として形にし、維持し続ける能力が必要になります。 テラスペィは、その部分に強みを持っています。 政治的にもかなり独特な歴史を持っているのですが、いずれこの地域を中心にした話を作ることがあるかもしれないので、今回はこの辺にしておきます。 ■ そして、小さな星系や拠点 ここまで紹介した場所だけで人類圏ができているわけではありません。 主要な居住圏の外には、採掘拠点、観測施設、中継施設など、小規模な有人拠点も点在しています。 ただ、ここで少し注意が必要です。 人類がFTLを持っているからといって、銀河中の星へ自由に植民しているわけではありません。 この世界のFTLには「航路」というかなり大きな制約があります。 そのため人類圏は、地図にインクを垂らしたように均等に広がっているのではなく、主要な星系と航路を中心に、枝を伸ばすような形で発達しています。 この「どこへ行けるのか」という問題は、経済にも政治にも戦争にもかなり強く影響しています。 これも詳しく話すと長くなるので、FTLについて紹介する回に回しましょう。 というわけで、『航路分岐年代記』の主要な人類圏をものすごく簡単にまとめると、 太陽系 + 三つの主要植民星系 + その周辺にある小規模な資源・観測拠点 という構成になっています。 ただし、同じ人類だからといって、どこへ行っても同じ社会があるわけではありません。 何百年も別々の場所で暮らせば、産業も文化も政治も、自分たちは何者なのかという意識も変わってきます。 地球から遠いから辺境。 資源が多いから鉱山の星。 そんな一言だけでは説明できない社会が、それぞれの場所にできています。 次回からは、この中の地域を一つずつ取り上げて、 「そこで何を作っているのか」 だけではなく、 「そこで暮らしている人は、自分たちの社会をどう見ているのか」 というところまで紹介していこうと思います。 今回はこの辺で。
  • 9月11日

    『解の消えたあと』完結記念――ガス巨星はどうやったら壊れるのか?

    どうも、れがと申します。 今回はいつもの世界観解説から少し脇道に逸れます。 ちょうど『解の消えたあと』が完結したので、『解の消えるところ』から続いてきたSP356封鎖計画について、作中でちょこちょこ出てきた数字の話をしてみようと思います。 この二作で人類がやっていることをものすごく雑に言うと、 「FTL航路を成立させている星系の質量配置そのものを変えて、使っていた解を消してしまおう」 というものです。 そのために何をするのか。 ガス巨星を一個、壊します。 ……だいぶ力技ですね。 今回は「なぜガス巨星を壊すと航路が消えるのか」という理論の話は横へ置いて、そもそもガス巨星ってどうやったら壊れるの? という話をしていきます。 ■ まず、どれくらい大きいのか 標的となる〈SP356-OG-01〉、通称OG1は、質量約31.8地球質量、半径約6.8地球半径。 水素とヘリウムを主体とするガス巨星です。 そして、3678年1月6日に実際にOG1へ到達した構造化弾体群の有効質量は、 4.11×10^18kg。 ものすごい質量ではありますが、OG1と比較すれば微々たるものです。 では、そんなものでどうやってガス巨星を壊すのか。 速度を上げます。 だいたい光速の80%まで。 ■ 0.8cまで加速するとどうなるのか ここまで速くなると、普通の「2分の1mv²」ではなく相対論的な運動エネルギーを使います。 計算すると、4.11×10^18kgを0.8cまで加速したときの運動エネルギーは、 約2.46×10^35J。 作中に出てくる数字ですね。 ただし、このエネルギーが全部「惑星を壊す力」になるわけではありません。 放射になって逃げるものもあれば、高速粒子や噴出物の運動などへ回るものもあります。 事後観測から推定された、実際にOG1の構造変化へ有効に沈着したエネルギーは、 4.65×10^34J。 全運動エネルギーの約18.9%です。 ■ それでガス巨星は壊れるのか? ここで出てくるのが「重力束縛エネルギー」です。 ものすごく簡単に言えば、 「その天体を、自分自身の重力で一つにまとまっていられない状態にするには、どれくらいのエネルギーが必要なの?」 という目安です。 OG1の場合、作中で使っているモデルでは、 約3.33×10^34J。 先ほどの有効沈着エネルギー4.65×10^34Jは、この約1.40倍になります。 じゃあ1.4倍も入れれば、ドカーンと一発で爆発して粉々になるのか。 というと、そういう壊れ方はしません。 ■ 第一波、第二波、第三波 構造化弾体群は、一発の巨大弾丸ではありません。 三つの波に分かれて飛んできます。 第一波の役割は、外層を電離・加熱して膨張させ、後続する弾体が入りやすい環境を作ること。 第二波が主力です。 異なる緯度、角度、深度へ大量のエネルギーと運動量を叩き込み、天体全体に衝撃を走らせます。 するとOG1の外層は複数方向へ噴き出し、内部の高密度領域もそれぞれ違う速度で動き始めます。 ただし、ここで終わると困ります。 ガス巨星には自分自身の重力があります。 一度ぐちゃぐちゃになっても、まだ互いに引き合っているので、残った物質が再び中心へ集まり、一つの天体を作り直す可能性がある。 そこで第三波です。 戻り始めた高密度領域へ別方向から運動量を与えて、再凝集しようとする動きそのものを崩します。 つまり、 第一波で開く。 第二波で崩す。 第三波で戻れなくする。 という三段構成です。 ■ なぜ「26分02秒」なのか 作中では、第一波の先頭が00時01分44秒。 第三波の最後が00時27分46秒。 全部で26分02秒です。 一方、OG1全体が大きな力学的変化へ応答する時間は、およそ42分。 つまり最初の衝撃を受けたOG1が、 「ちょっと待って、形を戻そう」 と重力で再編成している途中に、第二波、第三波まで全部入ってきます。 26分02秒というのは単なる演出上の数字ではなく、 ガス巨星が最初の攻撃に応答し終えるより早く、三段階の仕事を全部終わらせる ための時間でもあります。 ■ そして、惑星ではなくなる 最後にOG1がどうなるのか。 消滅するわけではありません。 着弾前は約31.8地球質量。 事後推定では、そのうちコンパクトな残留領域に残ったのが約11.8地球質量。 残る約20.0地球質量は、広域トーラスや噴出流などへ移っています。 なので、『解の消えたあと』第四話で描いたように、OG1は一度の閃光で消えるのではありません。 電離して白く光り、膨張し、複数方向へ噴き出し、戻ろうとした物質がまた押し流され、時間をかけて輪郭を失っていく。 物質そのものはそこにあります。 ただ、 「約32地球質量の、一個のガス巨星」 という状態ではなくなるわけです。 個人的には、惑星破壊というと派手な爆発を想像しがちですが、この「巨大な天体がゆっくり天体ではなくなっていく」という壊れ方の方が、この作品には合っているかなと思っています。 ちなみに、計画上必要とされた最低有効質量は4.00×10^18kg。 実際に届いたのは4.11×10^18kg。 差はわずか**2.75%**です。 これは成功確率や安全率ではなく、単純に最低成立質量をどれだけ上回ったかという数字なのですが、四十年以上かけて準備した計画の最後としては、なかなか嫌な数字ですね。 この辺りの「どうやってそんな弾体を何十年もかけて送り込んだの?」という話もかなり長くなるので、また別の機会にでも。 今回はこの辺で。
  • 9月10日

    航路分岐年代記・世界観解説⑤ 人類は集まって、分かれて、また集まる

    どうも、れがと申します。 前回は『航路分岐年代記』の歴史を、21世紀末から3700年代までざっくり紹介しました。 今回は、その年表をちょっと違う方向から見てみようと思います。 というのも、改めて人類史を並べてみると、似たような動きが何度か出てきます。 一つに集まる。 ↓ 広がる。 ↓ 分かれる。 ↓ 何か問題が起きる。 ↓ また集まる。 だいたいこんな感じです。 もちろん、実際の歴史はこんなに綺麗ではありませんが。 ■ 最初は「太陽系」という一つの社会だった 人類が地球から月、火星、外惑星へ進出していった頃、生活圏はどんどん広がっていきます。 ただ、距離が離れたからといって、それぞれが独立した社会になったわけではありません。 外惑星で資源を採掘し、内惑星で金融や研究、高度な工業を担い、それらを航路や物流で結ぶ。 人類の生活圏は広がっているのに、社会としてはむしろ巨大な一つのシステムになっていきます。 問題は、そのシステムを管理する権限が内惑星側へ偏っていたことでした。 ■ 第一次太陽系大戦――一つだった社会が分かれる その矛盾が限界まで来た結果が、第一次太陽系大戦です。 戦争後、外惑星連合は独立し、人類社会は複数の政治勢力へ分かれます。 2735年には太陽系連合も成立しますが、これは人類をもう一度一つの国家へ戻すための政府ではありません。 むしろ逆です。 「みんな独立したままでいいから、もう全面戦争にならないよう最低限の調整はしよう」 という仕組みに近いものです。 つまり、人類社会はここで一度かなり明確に分権化します。 ■ その後、人類はもっと広がる しかも人類は、その状態で恒星間へどんどん広がっていきます。 ムンドゥス、スプレンドール、テラスペィ。 新しい社会が育ち、第二次太陽系大戦を経て、それらも太陽系の各勢力と対等な政治主体になっていきます。 3074年から3422年までの約350年間は、この多極的な状態が人類社会の普通になります。 なので後世から見て、 「どうせ最後には統一人類になるんだから、各国の独立なんて途中経過だったんでしょ」 と考えるのは、かなり違います。 当時の人たちにとっては、複数の国家がそれぞれ主権を持つことこそ、何百年もかけて勝ち取ってきた秩序だったわけです。 ■ ところが、異星人と200年以上戦うことになる そこへ頭足人との戦争が始まります。 最初は各国が独立したまま共同で戦います。 共同作戦をする。 共同軍ができる。 兵站を共同化する。 航路や情報も共同管理する。 戦争に必要な行政組織も常設化する。 そうして100年以上戦っているうちに、 「共同で戦うためだけの組織」 だったはずのものが、人類社会そのものを動かせる巨大な機構へ成長していきます。 ここで面白いのが、第一次太陽系大戦でも似たことが起きている点です。 当時の外惑星社会も、最初から完成された一つの国家だったわけではありません。 自治政府、企業、港湾、船団などに分かれていた社会が、戦争を続けるために輸送、配給、修理、医療、防衛などをまとめて管理する必要に迫られます。 その結果、外惑星連合という国家が実体化していきました。 規模も状況も全然違いますが、 「生き残るために共同管理を始めたら、その管理組織が政治的な力を持つようになった」 という部分はよく似ています。 ■ そして、統一人類へ 対頭足人戦争では、この動きが人類圏全体で起きます。 最終的には、 「各国が独立したまま共同で戦う」 という状態から、 「人類全体について最終的な命令を出す主体を一つにする」 というところまで進みます。 当然、 「いや、何百年かけて中央から独立したと思ってるんだ」 という側もいます。 その対立が統合戦争となり、3568年に統一人類体制が成立します。 ものすごく大雑把に見ると、 集権 ↓ 第一次太陽系大戦 ↓ 分権 ↓ 数百年間の多極社会 ↓ 対頭足人戦争 ↓ 再集権 という流れです。 ■ じゃあ、これで人類は一つになったのか ……というと、ここで終わらないのが『航路分岐年代記』です。 人類を統一して最後まで戦おうとする人たちがいる一方で、 「もうこの戦争圏そのものから離れよう」 と考える人たちも出てきます。 そして3530年、統一人類体制が成立するより前に、最初の大規模な離航船団が出発します。 ここは結構重要です。 人類が一つになった後で、そこからまた分裂したわけではありません。 一つになろうとする動きと、そこから離れていく動きが、同じ時代に並行して進んでいます。 残った人々は統一人類へ。 離れた人々は、既存航路の外へ。 その後も離航船団は何度も出発し、それぞれが遠く離れた場所で独自の社会を作っていきます。 ■ 「分権」から「分航」へ ここから先は、それまでの分裂とは少し意味が違います。 第一次太陽系大戦後の内惑星と外惑星は、政治的には別れていても同じ太陽系にいました。 第二次大戦後の各植民星系も、別々の国家ではありますが、航路で結ばれ、交易し、人が行き来しています。 つまり、喧嘩して分かれていても、同じ人類社会の中にはいたわけです。 ところが離航した人々は、既存の航路網そのものから離れていきます。 数百年、数千年と経てば、政治制度だけでなく文化も社会も、場合によっては人類そのもののあり方まで違っていくかもしれません。 なので後世では、これを単なる国家の「分裂」ではなく、人類史そのものが別々の航路へ分かれていく「分航」と呼びます。 『航路分岐年代記』というタイトルにもつながる部分ですね。 こうして見ると、この世界の人類史は、 「集権と分権を繰り返した末に、最終的に統一された歴史」 ではありません。 集まって、分かれて、また集まる。 でも、そのたびに人類の活動範囲は広がっていて、前と全く同じ状態には戻らない。 そして最後には、「もう一度一つに戻す」という発想自体が意味を持たないくらい遠くへ、人類そのものが枝分かれしていく。 統一人類も、その長い歴史の中に生まれた一つの枝です。 人類史のゴールというわけではありません。 個人的には、この辺りが『航路分岐年代記』というシリーズを考える上でかなり大事な部分だったりします。 というわけで、導入としての歴史の話は一旦この辺で。 次回からはもう少し視点を狭めて、この世界の地域や技術、人々の暮らしなどを紹介していこうと思います。
  • 9月9日

    航路分岐年代記・世界観解説④ ざっくり年表――人類はどうやってここまで来た?

    どうも、れがと申します。 ここまで3回ほど『航路分岐年代記』の世界について紹介してきました。 ただ、このシリーズは現状書いている作品だけでも2700年代から3700年代まで、だいたい1000年くらいあります。 しかも、その頃には人類は普通に太陽系の外まで進出しているので、 「そもそも、そこに至るまで何があったんだ?」 という話もあります。 というわけで今回は、少し前史も含めて『航路分岐年代記』の歴史をものすごくざっくり紹介していこうと思います。 ■ 21世紀末〜22世紀――人類、宇宙へ広がる まずはかなり昔から。 2090年代には月面資源開発が本格化し、22世紀に入ると月面都市や軌道工業施設が拡大。 その後は火星、小惑星帯、さらに外惑星圏へと人類の活動範囲が広がっていきます。 この辺りから、人類は「地球に住んでいて、宇宙へ仕事に行く文明」から、「宇宙そのものに社会がある文明」へ少しずつ変わっていきます。 ■ 23世紀――AI群とFTL 23世紀になると、今度はAIが大変なことになります。 高度化を続けたAIが人類の制御を離れ、現在の作中で「AI群」と呼ばれている独立した知性が成立します。 さらにAI群は、人類にFTL――つまり超光速航法へ至る可能性を示します。 2290年代には初期FTL航行が実証され、人類はついに太陽系の外へ進出できるようになります。 ただし、人類が宇宙の好きなところへ自由自在にワープできるようになったわけではありません。 この世界のFTLは「航路」に強く依存しています。 そして、その航路情報にはAI群が深く関わっています。 この辺りはそれだけで一本書けるので、また別の機会に。 ■ 24〜26世紀――恒星間文明へ FTLが使えるようになると、人類は別の恒星系へ進出し始めます。 2310年代には後にムンドゥスと呼ばれる星系が発見され、2360年代にはスプレンドールが発見されます。 最初は小さな植民地だった場所にも人が移住し、産業が育ち、何世代も暮らすうちに独自の社会ができていきます。 一方、太陽系でも外惑星圏の開発が進みます。 問題は、社会が成長しても、それを動かす制度上の権限まで同じように移っていかなかったことです。 前々回にも書きましたが、内惑星と外惑星は互いに必要としているのに、その関係を管理する権限は内惑星側に偏っていました。 そして27世紀には、その不満がかなり洒落にならないところまで来ます。 ■ 2731〜2732年――第一次太陽系大戦 本格的な武力衝突自体は、およそ2年間。 ただし、その前から経済や物流、保険、認証などを使った対立は進んでいるので、実際の対立期間はもう少し長くなります。 この戦争の結果、外惑星連合が独立。 それまでの「内惑星を中心に太陽系全体を管理する」という秩序は大きく崩れることになります。 そして2735年、戦争後の人類社会を調整する枠組みとして太陽系連合が成立します。 名前だけ見ると統一政府っぽいのですが、実際には違います。 複数の独立した政治勢力が存在したまま、その間を調整するための連合体です。 ■ 28〜30世紀――人類社会、さらに複雑になる 第一次太陽系大戦が終わっても、人類の拡大は止まりません。 植民星系は成長を続け、2860年代にはテラスペィも発見されます。 そして、かつて内惑星からの自立を求めた外惑星連合も、時間が経てば巨大な経済力を持った既成勢力になります。 その影響力は、成長途中の恒星間植民星系にも及ぶようになります。 まぁ、一度支配する側とされる側をひっくり返したからといって、人間社会から上下関係そのものが消えるわけではないということですね。 ■ 3039〜3074年――第二次太陽系大戦 そうして起きるのが第二次太陽系大戦です。 こちらは第一次大戦と違って35年間続きます。 この戦争を通じて、スプレンドールやテラスペィといった恒星間植民星系が、人類圏の主要な政治勢力として本格的に台頭します。 3074年の講和以後、人類社会は太陽系の内惑星・外惑星だけでなく、複数の恒星間社会が並び立つ多極的な社会になっていきます。 ■ 3074〜3422年――約350年間の多極社会 ここは結構大事な期間です。 第二次太陽系大戦が終わってから、次の大きな転換点まで約350年あります。 人類はずっと戦争ばかりしていたわけではありません。 それぞれの国家や星系が独自の政治、産業、文化を育てながら、交易や研究、教育、人の移動ではかなり深く結びついた社会が続きます。 この数百年間を経たことで、「複数の独立した国家が存在する」という状態そのものが、人類にとって当たり前になります。 ■ 3422年――SP356事変 そして3422年。 スプレンドール方面の外縁資源星系SP356で、人類は頭足人と呼ばれる異星文明と接触します。 ただし、この年からいきなり「人類対頭足人の大戦争」が始まったわけではありません。 最初は未知の存在との接触であり、局地的な武力衝突でした。 それが何年もかけて拡大し、やがて人類と頭足人双方にとって存続に関わる戦争へ変わっていきます。 ■ 3430年以降――「永遠の殴りあい」 3430年頃には、もはやスプレンドールだけの問題では済まなくなります。 人類各国は独立したまま、共同で頭足人と戦うための軍事・兵站・情報・航路管理の仕組みを発達させていきます。 そして戦争は終わりません。 10年、20年どころか100年以上続き、やがて生まれた時から戦争をしている世代が何世代も続くようになります。 この長すぎる戦争が、俗に「永遠の殴りあい」と呼ばれるものです。 ■ 3530年代〜――離航と統合 戦争があまりにも長く続いた結果、人類内部でも考え方が分かれていきます。 この戦争を続けるために、人類全体をもっと強く統合するべきだ。 いや、そもそもこの戦争と既存の航路圏から離れて、別の宇宙へ逃げるべきだ。 3530年には、後者を選んだ最初の大規模な離航船団が人類圏を離れます。 一方、残った人類社会では共同戦争機構への権限集中が進み、3540年から統合戦争が始まります。 ■ 3540〜3568年――統合戦争 この戦争は、28年間ずっと大艦隊同士が殴り合っていたわけではありません。 「人類社会の最終的な命令権を誰が持つのか」を巡って、軍隊だけでなく物流、通信、決済、航路、行政など、社会そのものの支配権が争われます。 そして3568年、統一人類体制が成立。 数百年続いた複数主権国家の時代は、ここで一度終わります。 ■ 3568〜3678年――統一人類の時代 統一された人類は、頭足人との戦争を終わらせるため、人口、産業、研究、軍事、物流を一つの戦略へ投入できるようになります。 一方で、離航も止まりません。 統一人類が成立するのとほぼ同じ時代に、人類の一部は既存の人類圏から離れ続けています。 つまりこの時代、人類は「一つになる」のと「別々の歴史へ分かれる」のを同時にやっています。 そして3678年。 人類は、二世紀以上にわたって戦争の接点となってきたSP356の航路そのものを封鎖することに成功します。 ……というわけで、かなり無理やり圧縮しましたが、これが『航路分岐年代記』の大まかな歴史です。 ものすごく雑にまとめると、 地球から宇宙へ出る。 ↓ 太陽系全体へ広がる。 ↓ 恒星間へ広がる。 ↓ 揉めて分かれる。 ↓ さらに広がる。 ↓ また揉める。 ↓ 異星人と200年以上殴り合う。 ↓ 一部は一つにまとまり、一部は遠くへ逃げる。 となります。 ……人類、だいたい広がっては揉めていますね。 ただ、こうして並べてみると、この歴史には「広がる」「分かれる」「集まる」という動きが何度も出てきます。 しかも最後の統一人類体制が、人類史の最終形というわけでもありません。 この辺りは『航路分岐年代記』というシリーズ名にもかなり関わってくるところなので、次回は「集まる人類と、分かれていく人類」という視点から、この年表をもう一度見てみようと思います。 今回はこの辺で。
  • 9月7日

    航路分岐年代記・世界観解説③ 二つの太陽系大戦――同じ人類同士の戦争でも、何が違うのか

    どうも、れがと申します。 前回は、人類が宇宙へ広がっていくと、それぞれの地域に独自の社会が生まれてくるという話をしました。 そうなると当然、利害の違いも出てきます。 そして『航路分岐年代記』の歴史では、それが二度の大きな戦争にまで発展しています。 第一次太陽系大戦と第二次太陽系大戦です。 名前だけ見ると第一次世界大戦と第二次世界大戦みたいなもので、「一回やって懲りなかったので二回目をやりました」くらいに見えるかもしれません。 まぁ、実際また戦争しているので間違ってはいないのですが、この二つは社会的な背景が結構違います。 まず第一次太陽系大戦。 この時代の太陽系では、地球・月・火星などの内惑星圏と、木星・土星などの外惑星圏がかなり強く結びついています。 外惑星からは資源や燃料、大型構造材などが運ばれ、内惑星には金融、保険、法律、高度医療、研究機関などが集まっている。 お互いに相手がいないと困る社会です。 ただし、この関係は対等ではありません。 外惑星側も十分に豊かで、高度な産業と技術を持っています。 それでも、航路の認証や保険、金融など、人類社会全体を動かす重要な制度は内惑星側に集中していました。 では、なぜそうなったのか。 これは内惑星側が最初から特別に優れていたから、というより、人類の宇宙進出の順番が大きく関係しています。 人類はまず地球から月へ進出し、そこから内惑星圏、さらに木星圏へと活動範囲を広げていきます。 その後になって、ようやく外惑星圏や恒星間の植民星系へ進出していく。 つまり、社会の拡張は一気に全方向へ進んだわけではなく、地球、月、内惑星圏と木星圏、外惑星圏、植民星系という順番で進んでいったわけです。 そのため、最初に人類全体を結びつける必要が生まれた場所も、自然に内惑星圏になります。 航路をどう認証するのか。 遠距離輸送の損失を誰が補償するのか。 契約をどの法体系で処理するのか。 遠隔地の企業や政府に、どのように信用を与えるのか。 こうした制度は、後から参加する地域が増えるたびに新しく作られたというより、まず内惑星圏を中心に整備され、その後に外へ広がっていきました。 だから、外惑星圏が経済的にも技術的にも成長した後も、制度の中心だけは内惑星側に残り続けた。 お互いに依存しているのに、その依存関係を管理する仕組みは、先に発展した側が握っている。 これが第一次太陽系大戦の背景にあります。 なので、単純な「豊かな中央VS貧しい植民地」という話ではありません。 むしろ外惑星側からすれば、 「こっちも十分に社会を維持できるだけの力を持っているのに、なんで最終的な決定権はそっちにあるんだ?」 という話になります。 そして第一次太陽系大戦が終わると、この構造は大きく変わります。 内惑星側だけが人類社会の制度を管理する体制は崩れ、複数の政治勢力が並び立つようになります。 じゃあ、これでめでたしめでたしなのか。 もちろん、そんなことはありません。 人類社会は相変わらずつながっています。 金融も保険も航路も交易も企業活動もありますし、今度は恒星間植民星系まで成長してきます。 さらに面白いことに、かつて内惑星側の影響力へ抵抗した外惑星側も、何世代か経つと巨大な企業や金融、航路ネットワークを持つ既成大国になります。 そして、その経済力を使って恒星間植民星系へ強い影響力を持つようになる。 要するに、 「中央に支配されたくない」 と戦った側が、後の時代には別の地域から、 「いや、お前らが今やっていることは何なんだ」 と言われる側にもなっているわけです。 歴史というのはなかなか皮肉なものです。 この新しい社会の中で起きるのが第二次太陽系大戦です。 第一次大戦が、内惑星を頂点とする古い上下関係を崩していく戦争だったとすれば、第二次大戦は、その後に成立した多極社会の中で新しく生まれた支配関係をめぐる戦争でもあります。 しかも、この頃にはスプレンドールやテラスペィといった恒星間植民星系も、単なる遠い植民地ではなくなっています。 人口がいて、産業があって、軍隊があって、自分たちの社会を自分たちで維持できる。 当然、 「自分たちは誰かの所有物ではなく、一つの政治的な主体ではないのか」 という話になってきます。 そのため、二つの太陽系大戦はどちらも人類内部の主権や自立をめぐる戦争ではありますが、同じ構図の繰り返しではありません。 一度目の戦争で古い秩序が壊れ、その結果として生まれた新しい秩序の中から、また別の問題が生まれる。 そして、その問題を解決した後の社会にも、当然また別の問題が生まれます。 『航路分岐年代記』では、この辺りを結構大事にしています。 一度何かを解決したからといって、その社会が完成するわけではありません。 むしろ、その解決によって社会の条件が変わり、以前には存在しなかった問題が生まれることもある。 人類が星々へ広がり続ける以上、その繰り返しで歴史もどんどん枝分かれしていくわけです。 というわけで今回は、二つの太陽系大戦の違いについて、戦争そのものではなく、その背景にある社会から見てみました。 第一次太陽系大戦については、過去作の『依存圏の戦争――第一次太陽系大戦と連合秩序の形成』で、今回よりも詳しく扱っています。第二次太陽系大戦や、その後の統一人類体制についても少し触れているので、今回の話をもう少し掘り下げたい方は、そちらも見ていただければと思います。 今回はこの辺で。
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  • 9月7日

    航路分岐年代記・世界観解説② 人類が星々へ広がると、何が変わるのか

    どうも、れがと申します。 前回は『航路分岐年代記』がどんな未来を描いているシリーズなのか、という話をざっくりとしました。 今回はそこから一歩進んで、「人類が宇宙へ広がっていくと、社会はどう変わるのか」という話をしていこうと思います。 SFで宇宙進出というと、火星に都市を作ったり、別の恒星系に植民したりと、どうしても「人類が住める場所が増える」という部分に目が行きます。 もちろん『航路分岐年代記』でもそれは同じです。 ただ、個人的に面白いと思っているのは、その先です。 例えば地球から遠く離れた場所に資源採掘のための拠点を作ったとします。 最初は数百人、数千人程度の小さな拠点だったとしても、そこで資源を加工するようになれば工場ができます。 工場ができれば技術者が必要になり、物資を運ぶ船が増え、船を修理する設備も必要になります。 そこで働く人が増えれば、今度はその家族も暮らすようになります。 住宅ができて、学校ができて、病院ができて、店ができて、行政組織ができる。 そうやって何世代も経っていくと、いつの間にか「遠くにある採掘基地」だった場所が、一つの社会になっているわけです。 そして、ここから少し面倒な話になります。 その社会に住んでいる人たちは、そこで生まれて、そこで育って、そこで働いています。 当然ながら、「自分たちの社会をどうするのかは、自分たちで決めたい」と考える人も出てきます。 一方で、宇宙に社会を作ったからといって、何もかも自給自足できるわけではありません。 資源は外惑星から来る。 高度な医療は内惑星に頼る。 船を動かすには航路情報が必要。 交易には金融や保険や認証制度が必要。 つまり、遠く離れた社会が成長して独自性を持つことと、人類社会全体の相互依存が深まることが同時に起きます。 ここが『航路分岐年代記』の人類社会を考える上で結構重要なところです。 独立したいなら全部自分たちでやればいい、というほど簡単ではありません。 逆に、互いに依存しているのだから一つの政府が全部決めればいい、というのも簡単ではありません。 実際、外惑星圏は資源や燃料、造船、輸送などを担うかなり豊かな地域へ成長していきます。 なので、「貧しい辺境が豊かな地球に反乱した」という構図ではありません。 むしろ問題になるのは、 「これだけ自分たちで社会を動かせるようになったのに、なぜ最後に決めるのは遠く離れた人たちなのか?」 という部分です。 そして人類が恒星間へ進出すると、この問題がさらに大きくなります。 スプレンドール、ムンドゥス、テラスペィといった植民星系も、最初から完成された大国として宇宙に生えてくるわけではありません。 人が移住し、産業が育ち、世代が交代し、その土地で生まれた人間が増えていく。 そうして何百年も経てば、「地球から遠く離れた植民地」ではなく、それぞれ異なる産業や文化、利害を持った社会になっていきます。 距離が社会を分ける。 でも、技術はその社会同士をつなぐ。 つながっているからこそ利益も生まれますし、相手に依存もします。 そして依存しているからこそ、「誰が最終的に決めるのか」という政治の問題も生まれます。 まぁ、宇宙まで行っても結局こういう話をしているあたり、人間はあまり変わっていないのかもしれません。 『航路分岐年代記』では、宇宙進出そのものよりも、その結果として生まれた社会が何世代もかけてどう変わっていくのかを結構重視しています。 星が増えれば、地図に点が増えるだけではありません。 そこで暮らす人が増えて、それぞれの社会に歴史ができて、「自分たちは何者なのか」という意識が生まれる。 そして、その違いが次の歴史を作っていくことになります。 今回はこの辺で。 次回以降は、こうして広がっていった人類が実際にどこで暮らしているのか、それぞれの地域がどんな社会なのか、といった話にも入っていこうと思います。
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  • 9月7日

    航路分岐年代記・世界観解説① そもそも『航路分岐年代記』ってどんな世界?

    どうも、れがと申します。 せっかく近況ノートというものがあるので、今回から『航路分岐年代記』の世界観や設定について、作品本編のネタバレにならない範囲でちょこちょこ紹介していこうと思います。 初回なので、まずはそもそも『航路分岐年代記』とはどんな未来を描いているシリーズなのか、というところから。 このシリーズは、人類が宇宙へ進出していった未来の歴史を、いろいろな時代や場所から切り取って描いていくシリーズです。 シリーズそのものとしてはかなり広い年代を扱えるように作っていますが、現時点で作品として書いているのは、だいたい西暦2700年代から3700年代あたりになります。 人類はすでに太陽系の各地へ広がり、さらに時代が進むと地球や火星はもちろん、木星や土星などの外惑星圏、さらにはスプレンドール、ムンドゥス、テラスペィといった恒星間植民星系にも巨大な社会が成立していきます。 これだけ聞くと、宇宙へ進出した人類がどんどん版図を広げていくSFっぽく見えるのですが、『航路分岐年代記』で描きたいのは、どちらかというとその後です。 人類が宇宙へ進出したら、遠く離れた社会はいつまでも地球の言うことを聞いてくれるのか。 星系ごとに違う産業や文化が育ったら、それぞれの利害はどうなるのか。 そして、人類とは全く異なる知性を持つ文明と遭遇したら、それまで人類同士で争っていた国家や社会はどう変わっていくのか。 まぁ、宇宙まで行ったからといって、人間が急に仲良くなるわけではありません。 むしろ活動範囲が広がって社会が複雑になれば、「誰が決めるのか」「誰が負担するのか」「誰が利益を得るのか」といった問題も、それだけ大きくなります。 一方で、この世界の人々はずっと戦争だけをしているわけでもありません。 普通に仕事をして、学校へ行って、恋愛して、結婚して、子供を育てて、旅行へ行って、映画や音楽を楽しんでいます。 戦争が100年以上続いている時代であっても、後方に暮らす人にとってはそれが「世界の終わり」ではなく、生まれた時から存在している社会の背景だったりします。 個人的には、この辺りはかなり大事にしている部分です。 歴史というと、どうしても「何年に戦争が起きて、誰が勝った」という話になりがちです。 もちろん『航路分岐年代記』でも戦争はかなり重要なのですが、それによって仕事や教育や政治、人々の常識までどう変わっていったのか、という部分も含めて歴史として描いています。 なので、このシリーズには一人の主人公が何百年も活躍するような形の「本編」はありません。 ある作品では軍人を描き、別の作品では政治家や研究者を描き、さらに別の作品では、それまで歴史の中心にいなかった人たちを描く。 それぞれの物語は独立していますが、少し離れて眺めてみると、一つの出来事が何十年、何百年、あるいはもっと先の時代へ影響していることもあります。 『航路分岐年代記』というタイトルも、そういう長い時間の中で歴史が枝分かれし、その先にまた別の社会や物語が生まれていく様子を眺めていくシリーズ、くらいに思ってもらえればいいかなと思います。 今後の近況ノートでは、人類が暮らしている各地域やFTL航法、AI群、頭足人、軍事技術、未来の人々の暮らしなど、この世界を構成している要素を一つずつ紹介していく予定です。 本編を読んでいる方には「ああ、あれはこういう背景だったのか」と楽しんでもらえて、まだ読んでいない方にも「なんか変な世界を作り込んでるな」と思ってもらえるくらいの内容にできればと思っています。 というわけで、今回はこの辺で。 次回以降、もう少し細かいところへ入っていきます。
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  • 6月24日

    『金星は二度燃えた』完結しました

    どうも、れがと申します。 『金星は二度燃えた』、第6部「灰の講和」および最終話まで投稿しました。 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。 本作は、『航路分岐年代記』シリーズ第2作として、太陽系連合が成立するまでの前史を描く物語でした。 ただし、太陽系連合は理想的な統一国家として生まれたわけではありません。 火星投射、金星の二度目炎上、白昼、防衛戦、義勇艦船群、ムンドゥスの救難、スプレンドールの資源、内惑星の喪失感、外惑星の自由の重さ。 それらをどうにか条文に押し込め、もう一度同じ破局を起こさないために作られた戦後装置として成立します。 第6部では、戦争の終わりを「和解」としてではなく、「責任の置き場所を決める作業」として描きました。 金星被害を何と呼ぶのか。 外惑星連合をどう扱うのか。 義勇艦船群は英雄なのか、犯罪者なのか。 火星投射や灰経路や白昼を、誰がどこまで裁けるのか。 救済基金、検証委員会、監査、人道航路、植民星系の地位整理。 完全に裁けないものを、条文と制度の中へ沈めていく。 それが、本作における講和でした。 各部終了時点で掲載してきた登場人物紹介と用語補足についても、第6部終了時点版を本編側に投稿しています。 こちらは本編全体の内容に触れているため、読了後の確認用としてご利用いただければと思います。 『金星は二度燃えた』は、人類が外敵に出会う前に、自分たちの太陽系を焼いてしまった物語です。 そして同時に、焼け残った航路を、それでも使い続けるために作られた制度の物語でもあります。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
  • 6月15日

    『金星は二度燃えた』第5部「薄氷航路」完結しました

    どうも、れがと申します。 『金星は二度燃えた』第5部「薄氷航路」まで投稿しました。 第5部では、火星投射後の太陽系が、戦争を止めようとしながらも止めきれず、凍結線、監査船、再開照射、白昼関連航路、義勇艦船群、緊急統合艦隊へ進んでいく過程を描きました。 一時的な凍結合意はあります。 監査船も出ます。 人道航路も維持されようとします。 それでも、戦争は完全には止まりません。 現場には現場の理由があり、船には船の事情があり、各勢力にはそれぞれの恐怖と怒りがあります。 安全退避のための作業が、相手には凍結違反に見える。 救難や通信中継のために動く船が、相手には戦略航路の一部に見える。 守るための防衛線が、別の被害を生む。 第5部は、そのような薄い氷の上を、戦争と救難と政治が同時に進んでいく部分です。 そして、この部では金星が再び大きな被害を受けるところまで到達しました。 第1話から描いてきた金星の朝。 第22話で別の形を持ってしまった金星の光。 その金星自身が、戦争の中心へ引きずり込まれていきます。 また、第5部終了時点での登場人物紹介と用語補足を、本編側に補足回として投稿しています。 凍結線、監査船、白昼、義勇艦船群、白昼防衛戦、金星防衛線、二度目炎上などを整理しています。 補足は第5部終了時点までの内容に基づいています。 次の第6部では、燃え残ったものをどう呼ぶのか、誰が責任を負うのか、そして太陽系がどのような形で戦争を終わらせるのかを描いていきます。 引き続きお付き合いいただければ幸いです。
  • 6月8日

    『金星は二度燃えた』第4部「報復軌道」完結しました

    『金星は二度燃えた』第4部「報復軌道」まで投稿しました。 第4部では、オルキス事故後の非常配給と、そこから生まれる報復論、そして火星補水氷塊H系列・TH-7721、通称「青種」をめぐる動きを描きました。 この部で扱った中心の一つは、「何かを守るために作られた技術が、目的欄を書き換えられることで別のものになっていく」ということです。 火星を支えるための水資源インフラ。 通常なら、制動され、捕獲軌道へ入り、分割され、加工され、水として配分されるはずだったもの。 それが、戦時下の政治判断と技術運用の中で、少しずつ別の線へ外れていく。 ただし、誰かがいきなり「火星を壊そう」と叫んだだけで世界が変わったわけではありません。 非常配給表があり、死者名簿があり、補給計画があり、会議があり、技術照会があり、最終決議がある。 その積み重ねの先に、火星へ向かう軌道が変わっていきます。 第4部は、被害を受けた側が、今度は他者の生活基盤を傷つける側へ回ってしまう部分でもあります。 また、第4部終了時点での登場人物紹介と用語補足を、本編側に補足回として投稿しています。 青種、旧火星環境改造共同計画、制動照会、核パルス推進装置、火星投射など、用語が多い部になっています。 補足は第4部終了時点までの内容に限定しており、以降の展開には触れていません。 次の第5部では、火星投射の後も戦争は止まらず、さらに薄い合意と危険な航路の上を、各勢力が進んでいきます。 引き続きお付き合いいただければ幸いです。
  • 5月24日

    『金星は二度燃えた』第3部「消耗する航路」完結しました

    どうも、れがと申します。 『金星は二度燃えた』第3部「消耗する航路」まで投稿しました。 第3部では、戦争が日常化していく過程を描きました。 大きな会戦だけではなく、小規模交戦、臨検、破片被害、人道船団の遅延、船団学校の授業時間、食糧生産環の稼働率、共有図書箱、金星集光群の手動確認。 そうした細かい項目が、少しずつ生活の形を変えていきます。 赤い航路を見ても、全員が立ち上がらなくなる。 警報が閉じなくなる。 配給表から余裕が消えていく。 第3部は、戦争が「事件」ではなく「手順」として定着してしまう部分です。 同時に、金星集光群、火星方面優先出力枠、外惑星側生活基盤施設の扱いが、より大きな意味を持ち始めます。 生活を支えるはずのインフラが、どのような優先順位で動かされるのか。 その判断が、遠い場所の食卓や学校や培養槽にまで届いてしまう。 この部では、その危うさを中心に置きました。 また、第3部終了時点での登場人物紹介と用語補足を、本編側に補足回として投稿しています。 赤い航路、固定線、C-219、オルキス、余裕値、水予定表など、本文で出てきた用語を整理しています。 補足は第3部終了時点までの内容に限定しており、以降の展開には触れていません。 次の第4部では、失われた食卓と、その後に作られる新しい表が、さらに危険な軌道へつながっていきます。 引き続きお付き合いいただければ幸いです。
  • 5月17日

    『金星は二度燃えた』第2部「光の管制」完結しました

    どうも、れがと申します。 『金星は二度燃えた』第2部「光の管制」まで投稿しました。 第2部では、第1部で積み上がった航路、保険、救難、臨検の問題が、外惑星側の政治的な結集と、より明確な防衛行動へつながっていく過程を描きました。 外惑星側は、個別の港や船団として扱われ続けることを拒み、自分たちの名で船団や救難や防衛を扱おうとします。 一方で、惑星連合側はそれを正式には承認せず、あくまで秩序維持や防衛措置として対応しようとします。 また、第2部では金星集光群の運用も少しずつ変わり始めます。 金星の朝や太陽系各地の出力支援を担う巨大インフラ。 その運用に、火星方面優先出力枠や外惑星側生活基盤施設の分類といった、戦時的な優先順位が入り込んでいきます。 第2部は、外惑星側が「外惑星連合」として立ち上がる一方で、金星の光にも通常時とは違う意味が混じり始める部分です。 また、第2部終了時点での登場人物紹介と用語補足を、本編側に補足回として投稿しています。 外惑星連合、船団防衛権、戦時優先出力枠、人道船団枠など、このあたりから用語も増えていきます。 補足は第2部終了時点までの内容に限定しており、以降の展開には触れていません。 次の第3部では、戦争が大きな号令や一度の会戦ではなく、日々の航路、配給、救難、出力表の中へ沈み込んでいきます。 引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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  • 5月12日

    『金星は二度燃えた』第1部「書類の戦争」完結しました

    どうも、れがと申します。 『金星は二度燃えた』第1部「書類の戦争」まで投稿しました。 第1部では、砲撃や艦隊戦よりも前に、航路認証、船舶保険、救難タグ、臨検、船団運用といった制度や物流の変化から、太陽系内の対立が形を持ち始める過程を描きました。 外惑星側にとっては、船が止まることは生活が止まることです。 一方で、惑星連合側にとっては、航路や保険や臨検は秩序を維持するための制度です。 どちらか一方だけが最初から戦争を望んでいたというより、 それぞれが「正しい手続き」や「必要な防衛」を積み重ねることで、少しずつ引き返せない場所へ進んでいく。 第1部は、その始まりにあたる部分です。 また、第1部終了時点での登場人物紹介と用語補足を、本編側に補足回として投稿しています。 勢力名や制度名、船団・救難まわりの用語が多い作品なので、必要に応じて参照していただければと思います。 補足は第1部終了時点までの内容に限定しており、以降の展開には触れていません。 次の第2部では、外惑星側の政治的な結集と、金星集光群をめぐる運用の変化が、さらに大きな意味を持ち始めます。 引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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  • 5月5日

    『金星は二度燃えた』投稿開始のお知らせ

    『航路分岐年代記』シリーズ第2作、 『金星は二度燃えた』の投稿を開始します。 本作は、のちに太陽系連合が成立する時代を描く長編SFです。 舞台となるのは、人類がすでに太陽系外へ進出している未来。 しかし本作で描かれるのは、外敵との戦いではありません。 航路認証。 船舶保険。 救難タグ。 食糧船。 金星の光。 火星へ向かう氷。 文明を支えるための仕組みが、少しずつ政治化し、軍事化し、やがて戦争の形を変えていく。 そうした過程を、群像劇として描いていきます。 艦隊戦や大事件だけではなく、 書類、物流、食糧、救難、配給、航路、保険といったものが、物語の大きな軸になります。 前作『SP356』と同じ世界観に属する作品ですが、 本作単独でも読めるように構成しています。 『SP356』で描かれた時代から見ると、本作はかなり過去の物語です。 なぜ太陽系連合は、理想的な統一国家ではなく、どこか歪な戦後装置として成立したのか。 その起点にあたる物語になります。 また、各部の最終話と同時に、その時点での登場人物紹介と用語補足を本編側に掲載する予定です。 専門用語や勢力関係が多い作品ですが、本文を読み進めながら必要な範囲で確認できる形にしていきます。 人類は、外敵より先に、自分たちの太陽系を焼いた。 長い物語になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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  • 4月29日

    『SP356 最初の誤読』登場人物紹介

    どうも、れがと申します。 『SP356 最初の誤読』現時点での簡易な登場人物紹介です。 大きなネタバレは避けつつ、役割が分かる程度にまとめています。 ### エリオ・ヴァルケン SP356前進基地の現場指揮官。 冷静で実務的な軍人であり、曖昧な状況でも判断を止めません。 未知の異常に対しても、まず「前線で何を守るべきか」という観点から動く人物です。 ### リア・セファルト ムンドゥスから派遣された研究官。 外縁で起きている現象を、単なる障害ではなく「意味を持つ行動」として読み取ろうとします。 軍事的合理だけでは取りこぼされるものを拾おうとする立場にいます。 ### アナベル 前線実務と制度判断のあいだをつなぐ調整役。 冷静で整理能力が高く、曖昧な情報をそのまま扱うことにも慣れています。 現場と研究の言葉が食い違う時、それを前線で扱える形へ落とし込む人物です。 ### ミロシュ 契約部門側の実務担当。 利害と損得に敏感で、状況をまず「何が失われ、何が残るか」で見るタイプです。 軍人でも研究者でもない立場から、SP356の価値を別の角度で見ています。 ### サーイェト 異種族文明側の現場個体。 人類側から見れば未知の存在ですが、彼らにとってもまた人類は理解不能で危険な外部勢力です。 本作の異種族文明は、頭足類を思わせる身体構造と、人類とは大きく異なる感覚・表示体系を持っています。
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  • 4月25日

    『SP356 最初の誤読』第I部公開しました

    はじめまして、れがと申します。 『SP356 最初の誤読』第I部を公開しました。 この作品は、資源星系SP356外縁で起きた小規模な異常観測から始まる、ハードSF寄りの宇宙戦記です。 ただし、最初から派手な戦闘を前面に出すというより、監視・観測・判断・報告といった「前線で何が起きているのか」を積み重ねる形で進んでいきます。 第I部では、まだ何者とも知れない相手に対して、人類側がどう異常を認識し、どう解釈しようとするのかを中心に描いています。 この段階では、敵味方がはっきりしているわけでも、善悪が単純に分かれているわけでもありません。 ただ、何かがいて、しかもそれが「意味のある行動」をしているらしい、という不穏さだけが少しずつ積み上がっていきます。 作品全体としては、宇宙開拓、軍事、異種族とのファーストコンタクト、そして誤解と安全保障判断が戦争を固定化していく過程を軸にしたシリーズにする予定です。 ちなみに、本作で人類が接触する異種族文明は、頭足類を思わせる身体構造を持つ存在です。 ただし本作では、見た目そのものよりも、感覚器やコミュニケーションの違いが衝突の原因として重要になります。 少しでも気になったら、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。 感想や反応も励みになります。