• 恋愛

<覚書>

※その内使うシーン


 その日、アーサーは大変機嫌が良さそうだった。
 元々普段愛想よく笑顔を振りまく人ではあるが、カサンドラの目にも珍しく映る。

 ”ウキウキ”という擬音が聞こえてきそうだ。

「アーサー様、何かあったのですか?」

 昼下がりの午後、アーサーの私室で一緒に過ごしていたカサンドラは、不思議に思って尋ねてみた。

「この間、キャシーにはレベリオ公国の事を話したよね?」

「はい」

 東の隣国の一つで、クローレス王国が建国された時代から東の山脈で国境を接している。
 国交がないわけではないが、隘路を通っての交易のみの関係で、王室同士のやりとりは薄く長年疎遠だったはずだ。

 先日、何故かレベリオ公国の王様がアーサーとカサンドラの結婚式に参列したい旨の打診があったそうだ。
 峻険な山脈に砦を造るなどの挑発行為を行っていた彼の国の清々しい掌返しに、アーサーは苦笑いしていたのだけど…

「実はラルフがレベリオの人達と交渉を行っていてね。
 面白い取引をしてきたんだよ」

「面白い…ですか?」

「そう。
 今ではクローレス王国でも廃れた風習なのだけど、レベリオやケルン王国には王族の結婚式に神聖な獣――ユニコーンを誓いの場に立てるという習わしがあるんだ」

「まぁ、幻想の一角獣!」

「クローレスではユニコーン召喚の術式が失われていて、こちら側(人間)の儀式に来てもらうということは難しい状態だった。
 今回は特別にレベリオから召喚士をクローレスに派遣してもらう話がついたとラルフから報告が上がっている。
 私達の結婚式にユニコーンを喚びだす段取りをしてくれるそうだよ」

「…そうなんですか、わたくしにはよく分かりませんが…
 とても豪華なお式になりそうですね」

 要は、失われた慣習の一つが自分たちの結婚式で復活する、ということなのだろう。
 カサンドラにはあまり実感がなかったが、アーサーがこんなに楽しそうに話をするという事は、想像の埒外の朗報なのだろう。

 古式ゆかしい結婚式とはどんなものか、カサンドラには想像もつかないのだけど。

 自分達の結婚式のために、他国の人がお祝いに来てくれるのはありがたい話である。



「もしもクローレスでユニコーン召喚の方法が蘇ったら、皆さんの結婚式にも喚んでいただけると良いですね」




「……。
 ――そうだね」


 


  ユニコーンは女神ヴァーディアに仕える神獣とも呼ばれている


  白馬のような形を持つその獣は
  清らかな乙女の前で
  一本角を擁する頭を垂れる






 他意のない発言が、別の人間を激しく追い詰めることになるとは

 カサンドラも全く想像できないことだった。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する