コーヒーについては、以前にも近況ノートで書いた気がするのですが、何をどの程度書いたか覚えてないので、ざっくばらんに書かせて頂こうと思います。
コーヒーは紅茶以上に、産地やブランド価値が露骨です。栽培に適した土地や気候だけでなく、品種やその後の加工も含めて膨大なバリエーションがあるためです。当然、紅茶同様に偽物を扱う人が多いです。違いとしては、紅茶は出荷元が嘘を吐くのに対して、コーヒーは末端の販売業者が嘘を吐いていることが多い気がします。
まずはそんなブランド理解の基礎として、品種から。
最低限、アラビカ種とロブスタ種(学術的な正式名称はカネフォラ種ですが、コーヒー界隈ではロブスタ種と呼ばれる)の違いくらいはわかっておくべきかと思います。アラビカ種は高級品、ロブスタ種は缶コーヒー用みたいなイメージでおっけー。このアラビカ種の中には優に100を超える品種があり、その単独種による商品もあれば、複数種を混ぜ合わせた商品もあります。
以下はアラビカ種に絞って書きますが、栽培に適した気候と立地は限られています。雨量が多く、標高が高く、水捌けがよいなどの条件が必要。地域別に言うと、
中米(パナマ・ジャマイカ・グァテマラ・エルサルバドル・ホンジュラス・コスタリカ等)
南米(ブラジル=世界最大のコーヒー生産国・ボリビア・ペルー・コロンビア等)
東南アジア(中国雲南省・インドネシア・パプアニューギニア・タイ等)
中東(イエメン=中世世界から現代に連なるコーヒーの起源国)
アフリカ(ケニア・タンザニア・エチオピア=植物としてのコーヒーの原産国・ルワンダ等)
の5地区が大雑把な分類かと思います。あとはハワイとかもありますけどね。
この5地区だけでも、味に大雑把な傾向があります。まあ、ペルーのコーヒーは中米に近かったり、エチオピアのコーヒーは中東に近かったりしますけど、それは地図見てもらえればおわかり頂けるかと。育てられている品種にも、ある程度の偏りがあります(国策で優先的に育てている品種が違ったりします)。で、そのうち何となく、「このコーヒーはこの地区っぽい」みたいのがわかるようになってきます。たとえば、コーヒーチェーン店がよく出すブレンドは、ブラジルっぽいことが多いですね。
この素材の地区傾向を決定づけているもののひとつが、豆の精製方法です。天候とか水源とか、発酵に使える微生物の種類とかで、出来ることがある程度決まってくるんですね。詳しくは書きませんが、ナチュラル精製、ハニー精製、ウォッシュト精製、スマトラ精製などが有名です。最近は嫌気発酵(アナエアロビック)と呼ばれる方法や、酵母を使った方法も盛んになっているようです。そして、仮に同じ農園が同じ木で収穫した豆を使っていても、これらの精製法で味も香りも激変します。売る方もそれをわかっているので、別の商品として売り出しています。
独自規格もあります。豆の大きさを選別し、欠点のあるものを除去し、更には味見をするところまであるようですね。ブルーマウンテンに「No.1」とか「No.2」とか書かれているのは、この独自規格内でのグレードを示しています。(同じNo.制度でも、ブラジルだと「農作物に完璧はない」という考えからNo.2が最上位だったりするのでややこしいです。最上位グレードひとつとっても、AAAとかSHBとかESHPとか国によって名称は異なり、完全に各国の独自規格で運営されてます)
焙煎方式は、ひょっとしたら生豆の品質以上に大きな差を生み出すかもしれません。熱風式・半熱風式・直火式・炭火式などの区分けのことで、それぞれ風味に特徴があります。また、必要な技術にも差があります。素人でもボタンひとつで操作できる焙煎もあれば、プロ中のプロみたいな人が徹底的にカスタマイズしないと真価を発揮できない焙煎もあります。
ただ、こうした事実は客に理解されません。焙煎方式にこだわったところで、宣伝効果は期待できないのです。そのため、焙煎方式に関しては、大抵のショップでは触れられることすらなく、豆が店頭に並びます。代わりに、色の違いで一目瞭然な「浅煎り」だの「深煎り」だのが前面に押し出されるわけですね。あれは各店舗が(自社の焙煎方法に基づいて)「この豆に一番適した焙煎はコレだ」というのを売り出しているわけですよ。
浅い方から順に、ライト→シナモン→ミディアム→ハイ→シティ→フルシティ→フレンチ→イタリアンなどと呼ばれます(他の分類もあります)。焙煎=加熱処理においては、火を沢山通すほど最終生成物は同じところに収束していきますので、差がつきやすいのは浅い方。従って、お高い豆ほど浅いところで勝負するのが普通です。最高級のゲイシャはミディアムかハイくらいまでの火入れで煎り止めするのが鉄則ですし、逆にスマトラのマンデリンなんかはフルシティ以上にガッツリ火入れをしないと真価を発揮できないなどの不文律があります。
焙煎された豆は、すぐに飲んではいけません。最低でも2日間、長いときは半月とか熟成させねばならないこともあります。恐ろしいことに、1日単位で味が変わってしまうからです。(旨味成分が最大に達するのは焙煎から48時間後だとか何とか)
理屈上わかりやすいのは二酸化炭素でしょうか。焙煎直後の豆は内部に大量の二酸化炭素を抱え込んでおり、これが抽出(お湯の浸透)の邪魔をして必ずぼやけた味になります。この二酸化炭素の発生量やガスが抜けるスピードは、明らかに浅煎り豆の方が少ない上に速く・・・浅煎り豆にお湯を注いでもそこまでモコモコ泡立ちませんが、深煎り豆にお湯を注ぐと豆が膨らむのはまさにこのためなのでして・・・豆の味がピークに達するのは浅煎り豆で2~10日(豆によって異なる)、深煎りだと5~20日(大抵は7~15日)という印象です。あくまで経験則ですけどね。
すなわち、焙煎後の豆は(茶葉と違って)品質を長期的に安定させることができません。ましてや挽いてしまったら、せいぜい数時間しかもちません。どうしてもその状態でキープしたければ、不活化ガス(ヘリウムとかアルゴンとか)を封入しておくとか、エージレスみたいなもので酸素を奪うなどするしかないのでしょうが、豆の内部で発生する化学反応まで止めることは不可能ですので、やはり劣化は避けられません(強いて言えば、不活化ガス封入+冷凍までやればいけるかも)。生豆の状態なら、温度管理さえちゃんとしてやれば年単位でももちますが、焙煎後は急速にピークがやってきて、間を置かずに劣化します。
これを裏返すと、チェーン店などの「味を一定に保つ」ことが大事な仕事では、焙煎は深煎りに寄せる方がよいということになります。浅煎りはちょっとしたことで仕上がりに差が出ますが、深煎りは割と簡単に同じ仕上がりを作れる上に、浅煎りよりは日持ちするからです。アイスコーヒーとかカフェオレに使われるのも深煎りで、これは冷たいほど苦味が際立ったり、クリームと苦味がいい塩梅に作用してまろやかさが増したりするからだと言えます。(この典型がスターバックス)
素材の話は以上として、次は抽出。
抽出にも色んな方法があります。王道のドリップだけでも、紙フィルター・ネルフィルター・金属フィルターとあって、紙フィルターひとつとっても漂白だとか無漂白だとか、円錐型だとか台形型だとかウェーブ型だとか種類があります。ちなみに、ゲイシャは香りが命のコーヒー豆ですが、紙フィルターは香りの主成分が溶け込んでいるオイルを吸着してしまうので、「ゲイシャに紙フィルターなどのもってのほか」などと言われます。
ドリップ以外では、サイフォン(コーヒーメーカー)とかフレンチプレスといった淹れ方もありますね。あとは(専用の抽出器具・専用の豆挽き機が必要になりますが)エスプレッソも独自の路線を貫いてます。当然、これらすべてで味が変わります。特にエスプレッソは完全に別の飲み物です。
紅茶に比べて差が出にくいのは、水質でしょうか。もともとの味と香りが強いので、紅茶や緑茶ほど神経質になる必要はない気がします。しかし、湯温にはめちゃくちゃシビアに反応します。個人的な経験ですが、93℃以上のお湯を使うと、どんな豆でも風味が死にますね。85℃で変な臭みが出ている豆を90℃に変えた途端臭みが消えたとか、逆に90℃でバランスの崩壊していた豆を85℃に変えた途端バランスが整ったとか、そんなのばっかりです。
お湯を注ぐスピードも影響します。というのは、序盤には酸味が出やすくて、後になるほど苦味が出やすいなどの傾向があるから。抽出成分によって、お湯に溶け出してくるスピードが違うので、こういうことが起こります。(酸味成分は比較的分子量の小さい酸性物質=水溶性物質であるのに対して、苦味成分はより分子量の大きい油溶性物質だったりすることが多いからだと思われます)
そして、抽出の核心となるもうひとつの要素が、豆の挽き方。粗挽きにするか細挽きにするかで、これまた当然のように差が出ます。粗挽きだと表面積が小さい(お湯が豆の内部に浸透するのに時間がかかる)ので、素早く溶け出てくる酸味とじっくり溶け出てくる苦味の差が大きくなります。細挽きだと表面積が大きくなって(お湯が内部にすぐ浸透するので)、両方一気に溶け出してくる感じです。このため、スッキリした味が好きな人は粗挽きで、コッテリした味が好きな人は細挽きでといった具合に差をつけることになります。当たり前ですが、豆の特性や焙煎具合によって、最適な挽き方は変わってきます。
というわけで、コーヒー沼も深いよというお話でした。紅茶とどっちが厄介かと問われると、その人の性格とかにもよるんじゃないですかとしか言えませんが・・・前回のコメント欄に「食べ物なしで単体で楽しむこともあるのが、日本茶とコーヒーです」と頂いた通り、日本茶とコーヒーは単体でも飲める完成度の高い飲み物であるのに対し、紅茶はどうしても(その強すぎる渋みゆえに)お茶請けがほしくなる飲み物だということは、知っておいた方が良いかもしれませんね。私自身、紅茶離れを起こした理由のひとつは、どうやっても渋みの完全除去はできないという困難に直面したからでしたし。(なお、苦味と渋みは別のものです。念のため)
ともあれ、コーヒーほどカスタマイズ性の高い飲み物はそうないということが伝わっていれば幸いです。そのせいで、私は気に入った豆を最低3kg買う羽目に陥ってるんですけどね。1kg程度では、試行錯誤しているうちに終わっちゃうんです。納得のいく焙煎方法が見つかるまでに、2kgくらい無駄になっちゃうこともあります。
あ・・・豆の保管方法とかもあったけど・・・もういいや。