「天翔ける白馬の婚約者さま」
最後まで閲覧頂き、誠にありがとうございました。
これほど長い話を書いたのは初めてで、燃え尽き症候群並に脱力しております。
こういった話を書こう! と書き始め、休憩を挟んで数ヶ月。
物語に大きな変更点はありませんが、少し設定を変えた箇所があるため、やや修正が必要かなとは思いつつ。自己満足に足りる話が書けたかなぁと思っております。
少しコミカルな感じから、徐々に深刻さを増していく話が大好きなので、好きに忠実でありました。
この物語は、一人の少女が「良い子」を捨てて、「悪女」となるお話です。
主人公ライネリカは、快活で甘えん坊。通り一辺倒の礼儀作法は弁えていますが、廊下は走るわ、すぐ感情が表情に出るわ、とても第二王女たる威厳はありません。
お読みになった方には、不快感を覚える方もいたかもしれません。少女の周囲がチートばかりなので、本当に何もできない子供だと評価してくださったのなら、それはそれで思惑通りだったりします。
ライネリカは愛され甘やかされ、何不自由ない生活を謳歌していました。
周囲は彼女を、蝶よ花よと甘やかし、世の中の薄汚さから極力遠ざけ、籠の中に囲いこみました。
あなたは良い子。あなたは優しい子。あなたは可愛い子。あなたは愛しい子。
だから国の為に死になさい。
彼女は「悪女」になる以外に、道はなかったのです。
「良い子」でいては、ライネリカは死ぬのです。
彼女が平穏無事に死ぬからこそ、皆は幸福で、生きることを渇望するほど、皆は不幸になるのだから。
そんな理不尽なお話を目指したつもりです。
ライネリカを守護する六人の『騎士』は、ライネリカ以上に魅力的に見えるよう、試行錯誤しました(バラとリンドウはちょっと違いますが)。
特殊な生まれであるライネリカは、ほぼ全ての民に死を願われています。
その中で理由など関係なしに、愛情を注ぐ存在がいることを印象付けたい狙いがありました。
あなただから、わたしはあなたを大事に思う。
その強い思いが、お読みくださった方に伝われば良いなと考えています。
婚約者として登場するフィーガスは、極力、白馬の状態でライネリカに絡ませたい気持ちで書きました。
まぁ白馬だと、思うよりなんにもできなかったんですが……。
せっかく異種恋愛譚のタグで書いているのだから、ちゃんと異種でなければ、と粘りました。
種族間の違いとして埋められないものを、少しずつ、互いに歩み寄っていける関係性。ほんの僅かでも表現できていれば良いなと願います。
それが異種間恋愛の醍醐味かなぁと。
一貫して注意していたのは、フィーガスの使う力を「魔法」と表現しない事でした。
フィーガスは神の子、神の末席設定。そもそも神様の使う力は「魔法」と言わないのでは? 概念がないのでは? と思った次第です。
人間側もシガリア鉱物を使い、さまざま試行錯誤する様子を描きましたが、鉱物が万能すぎるだけ。人間そのものにはなんの力もない、普通の人間です。
なので魔法と形容しないよう、気をつけました。
余談ですが、物語の途中に出てくる、神の国とを繋ぐ門の建設に関する場面は、巨人のド●ン最終ステージの気持ちで書いていました。
え? 例えが古い? 神に近づきすぎた人々は、神の反感を買う戒めです。
けしてハッピーエンドのお話ではなかったと思います。
メリーバッドエンド寄りかな。
ライネリカは結局、生きるために国を裏切り、育ての家族を切り捨て、婚約者とも会えない日々を送ることになります。
だって彼女は「悪女」だから。
それでも父母の為に生き続けたい、だからこそ婚約者に死を望まれ続けたい。
世間の目から見たら、どうしようもない「悪女」でも、幸せになりたい。幸福を願うために、他の全てを諦めるのだとしても。
ライネリカの存在は、死こそが正義。生こそが悪。
だから抗い傷ついて、助かりたいと逃げ出し、生涯をかけて祈り続ける一人の少女の結末となりました。
涙するライネリカの複雑な心情を、少しでもお読みくださった方が感じ取ってくだされば、嬉しいです。
最終話で彼女のその後を少し描きましたが、フィーガスの存在を仄めかす描写は、一切省きました。
白馬の婚約者がどれほどエイリスに会いにきたのか、本当のところは定かでないように。
それでもエイリスには、周囲の人々にも、最後までお読みくださった方にも、誰にも邪魔できない日々が確かに存在したのでしょう。
それはまさしく幸福であったのだと、そう願います。