人生はつらいことばかりだ。体裁や責任が背中にはりついてまっすぐ轍に沿って進むことしかできない。でもたまに、深い青の平坦な道に雷が落ちる。膝から崩れ落ちるぐらい面白い出来事が起こるのだ。私はその瞬間のために生きている。悩みをすべて吹き飛ばす衝撃を求めてゆっくり歩く。天任せ。私の人生であと何回それを体験できるのだろうか。できることなら多くあってほしいと願う。それは、私だけじゃなくすべての人類も同様に。だから私の人生で面白かった出来事を誰かにシェアしたい。私の話が誰かの雷になれるかもしれないから。
ep.1. 父の目覚め?
私が大学に入学したころ母がスマートフォンを購入した。きつめのピンクのスマホ。母とは今までメールでやり取りをしていたが、これを機にLINEでやり取りするようになった。母はカメのスピードでフリック入力をして私によくLINEを送ってくれた。覚えたての言葉をすぐ使いたがる年頃の高校生みたいに。でも、使いたがりなだけじゃなくて、ちょうど私が大学で一人暮らしを始めたころだったので心配なのもあったのだろう。
送ってくる内容は至ってシンプルだった。
「最近お父さんが〇〇市に転勤になって暇そうにしてます。」とか、
「お姉ちゃんが仕事が辛いみたいで大変そうです。」
とか。
いや、なんで敬語なん?と思ったが特にツッコんだりはしなかった。支離滅裂な長文を送ってきたりしたこともあったが、共通して言えるのは実家で起きた出来事ということだった。
そんな中ある出来事が実家で起こる。後日実家に帰って詳細を聞いたが、どうやら父がパンツにこだわっていただけというしょうもない出来事だったことが分かった。なんでもユニクロで発売されているエアリズムのパンツを買って履いた父が、その履き心地にいたく感動して自分の今持っているパンツをすべてエアリズムのパンツにしたいと言い出したらしい。そのパンツというのが、黒色で、向こうが透けて見えるぐらい、なんなら履いたらブツが見えてまうやろってぐらいうっすいボクサーパンツだった。このパンツの履き心地を父は、
「これすげぇんだぞ!!履き心地がめちゃくちゃいいんだ! まるで履いてないような、ノーパンのような履き心地なんだ!」
と、言っていた。いや、ノーパンの履き心地はむしろ気持ち悪いだろと思ったし、いい大人がパンツを力説する姿を見たくもなかった。
要は、最近父がエアリズムの黒くて薄いパンツにご執心だということだった。母はそれを伝えようとして、何も知らない私に唐突にLINEを送ってきた。
『最近、お父さんが黒いスケスケのパンツを履きたがっています。』
えーーー!!!父ちゃん急に目覚めちゃったの!?てか、そうゆう癖ある人だったの!?息子は大学に行って一人暮らしを始めたし、あとは余生を好きに生きます的な??
大混乱。そのあとすぐ電話をかけた。
母よ、言葉足らずにもほどがあるよ