• 異世界ファンタジー

非有の皇子×国境門

 中古馬車自体には元々、サスペンションというか、木の葉型をした金属製のリーフスプリングが組み込まれており、中古品なので金属疲労してないかを見てもらい、箱馬車の箱部分の座面に衝撃吸収のスプリングを仕込んでもらった。
 お値段改造費込みで一台3200万lb。本物の高級車だ。それが3台。あとは幌馬車のような物に、キッチンを取り付け、スプリングが効いた座面なども配置し特殊改造した荷馬車が2500万lb、商品が入っていると見せかけたフェイク用の荷車が2台。こちらも人が乗るし、幌を開いたら店舗展開ができるように改造し、ついでに移動中居心地が良いように中を調整してもらった特殊荷馬車1800万lbが2台。軒並み高級車だ。全ての馬車に軽量化の魔法陣が組み込まれており、それも高い一因に。あとは商品の仕入れ、食品の仕入れ…旅の生活に必要な物、馬具とか馬の餌とかの仕入れなど。那由多は金銭感覚がわからなくなってきました。

 そういえば、俺の身体が捨てられた時、3人の兵士が軍馬で1日ほど…とツクヨミが言っていたので、案外首都が近いのかと思ったら、お祖父様曰くなんと、貴族が…というか金を積めば使える転移門という物が各地にあるらしく、母様もお祖父様達も逃げる時に転移門が閉鎖される前に、門番の兵士たちを威圧と言う技で気絶させ、一番遠くに行く転移門へ這々の体で飛び込んだらしい。

 …母様も兵士を昏倒させる威圧を持っているのか…。え?獣化した時にもしやと思ってお父様の真似をしたら出来たのですって?お祖父様が素晴らしい戦闘感覚だって絶賛して、母様が、お父様の子ですからと喜んでいる。母様は褒められて伸びる子なんだな…俺の勝手な貴婦人像がどんどん崩れていく。

 いや話がそれたけど、貴族が使うってことはお祖父様達の知り合いがいて、騒がれるリスクもあるかもしれないので、皇城がある皇都まで純粋に馬車の移動になる。荷物は俺が粗方収納するが、馬車を牽引するグラニの脚に掛かってる。帝国の軍馬は縮地というスキルを持っているそうだがグラニはどうなんだろう。
 彼らの脚は太ましく、身体はでかい。北海道のばんえい馬を思い出す。が、脚はばんえい馬より長い。
 従魔契約の折に、お話し合いという力と力のぶつかり合いをしていたし…てか見た所、相撲のようだったけど。力自慢の馬の様だ。たまにアンダーザローズで主従同士力比べをしていて、一方が負けると次の対戦まで主従が逆転すると言う遊びまでしているし。馬達同士でも追いかけっこなどをしている。体力も十分にありそうだ。

 俺がいた地球の知識となるが、馬車移動は、人がジョギングする程度の速さの常歩で2時間、そして休みを挟んで2時と言うような旅だったらしいが、この世界はどうなんだろうか。話だけではわからないが、お祖父様たちも転移門で移動していたから詳しくはわからないが、およそ馬車移動ならば一月、二月以上かかるのではないかとのことだ。なので一般市民は、特殊な従魔がいない限り滅多に旅行をしないと聞いた。因みに空を駆ける従魔も居るそうだが、一般的ではないようだ。
 どうせ時間がかかるなら、赴いた先々でお祖父様たちを呪った相手の暗黒情報を垂れ流してやろうか。

 あとは、お祖父様達を変装させる為のアイテムを購入した。目の色と髪の色を変えてくれるイヤーカフ型の魔道具で、35万lbが48個。コレも地味ながらも高額に。

 母様は獣化のまま革鎧を着て護衛役、俺とティーモ兄様は商人の子のとして、商人役はお祖父様で、ちょっと高級な、俺がデザインを描いたもので作った衣装を着てもらう予定だ。お祖父様はちょっと貴族的というかカタイからなぁ。ちょっと心配だけど。お祖父様もお祖父様で商業ギルドのギルドマスターや副ギルドマスターを観察していたよ。
 母様にも獣化後のオシャレの為に、爪に砕けた小さな宝石や宝石の粉で簡単な花のネイルアートと言うか、飾りをしたらとても喜んでくれた。

 売る物も粗方仕入れたり、狩ったり、採取したりしたので、ザシークレットガーデンをダイナミック収納し、数ヶ月過ごしたこの地に別れを告げる。収納した後のザシークレットガーデン跡地には、ポッカリと大きな穴が空いているが、数ヶ月後、記憶の森の作用がこの地にどう作用するのか楽しみではある。

 この馬を入れた大部隊の転移はちょっと怖かったので、(端っこの人がいないとか起きそうで…)6組くらいに分けて、記憶の森のノートメアシュトラーセ帝国に一番近い場所をツクヨミに案内してもらって転移した。
 まず一組目を転移し、他に人気がないか様子を見て、荷馬車など収納していた大型のものを出し、グラニを繋いだりと出発の準備をしてもらう。
 その間に全ての人馬を転移し、山越えをしたらメアシュトラーセ帝国入国となる。入国の際必要になる物は、俺の商業ギルドカード一枚で何とかなるとはいえちょっと不安ではある。

 馬車に乗り込むと、グラニたちは軽快に走り出し順調に山を越える。馬や馬車自体が高級品なので、山賊などの無頼漢にも気をつけなければならないが、広域に【神眼】を展開し、赤い危険色が出たら、周りにいる護衛役の人たちに報告し、先回りして討伐してもらうということを繰り返した。

 捕まえた生きている賊たちは、使わないと思っていた捕縄術の唯一知っていた早縄で捕縛し、あとは死んだ者達は首をとり(ここら辺は俺は恐ろしくて見れなかった)幌馬車の後ろにある馬餌入れに入れようとしたら、グラニ達が怒り狂ったので(ごめんよ…)、有り合わせに作った檻に車輪をつけた不恰好な物に生首と共に放り込み、もしも要員のグラニに引いてもらい(めっちゃ嫌がっていた)程近い国境で引き渡す予定とした。

 グラニたちの速度はなんと言うか…思っていたより…いや馬車が壊れてしまうのではないかと思うくらい随分と早い。日が落ちる少し前には山を越え、もう国境に配置された兵が守る国境門まで来た。何泊か山で野宿をするのかと思っていたがグラニの健脚を侮っていたようだ。もしかしたら縮地の様なスキルを持っているのかもしれない。

 国境門では、衣服を着替えた成金商人風のお祖父様に抱っこされ、ギルドカードを持ちたい幼児を装って、お祖父様と共にカードを本物のカードの持ち主なのか犯罪者か調べる鑑定用なのかわからないが、言われた魔道具の上に置きしばらく待つ。この待っている間が緊張する。

 カード情報が異様に少ないので、門兵が実際にフマラセッパの商業ギルドに問い合わせをし、俺の…と言うかお祖父様を写したクリスタルの画像の中に俺もちゃっかり映り込んだ物をギルドに送って確認をとり、本物のカードで商人と言う事が保証されたようだ。危ない危ない。ギルドマスターに帝国に商売しに行くと言っておいてよかった。門兵が、疑ってすまなかったと、今後このようなことがないように、帝国で使える通行時に必要な書類などを発行してくれ(もしや優しい?)、人数分のツォルーを支払い、無事国境門を越え一同一安心した。

 捕まえた賊たちも、無事生首と共に門兵に不格好な檻ごとわたし、賞金などもいくばくか出るようだったが、そちらは商業ギルドの口座に振り込んでおいてほしいと残して緊張続きの国境門を足早に後にした。

 門兵に顔見知りがいた人も居たようで、馬車に引っ込んだりとなんとか長い間顔を見せないようにしたりしたようだ。他には門兵に積んでいる荷物を見せたり、怪しいものはありませんと内装などを見せたりして、隊商御一行は物凄く緊張したのだ。

 山越えを一日でやってのけたグラニたちを労いたいし、日が落ちる前に、国境門から少し離れた広場で今日の野営場所を設営することにした。

 休み休みとはいえ、一日中狭い箱の中にいたので身体がカタイ。スプリングが入っていなかった椅子だったらと思うとまた恐怖である。

 ツクヨミは糞女神に見つからない様に、山を超えた時点で俺の中の深層に潜り込み、自身を俺の魔力でコーティングしたようだ。ツクヨミが常時はっていてくれていたサンクチュアリもなくなったので、自前の光魔法の結界を薄く張ってみる。常時同じ厚さで張り巡らせるのは難しく、暫くの間帝国では、ティーモ兄様を巻き込み、一緒に結界の練習をしながら過ごす予定だ。

 俺たち箱馬車や荷馬車組は、改造馬車の座面を変形させてベッドにし、そこで眠れるが、護衛役たちがそれぞれ自分たちが眠るテントを張っている。俺は、頑張ってくれたグラニ達に新鮮な草と穀物、そして家の裏の聖水を与え、オヤツに記憶の森の果物をあげて労った。
 その間、クヴァルさん達が、キッチンカーとして改造した荷馬車で調理をはじめ、いい匂いが漂い始める。

 クヴァルさんたちは、以前教えた、香辛料を混ぜ込んだカレーを実行した様だ。キャンプと言ったらカレーって俺が言ったからかな?ついでにボアの肉でボアカツや唐揚げ、素揚げの野菜なども作っている。

 カレーにできる最低限の香辛料、
 ターメリック、クミン、コリアンダー、チリ
 の配合を教えたら、クッキングチームの女性陣がハマっちゃって独自にスパイスやハーブを足して研究をしまくったみたいだ。

 夜の帳が下りる頃、辺りにランタンの魔道具とテーブルや腰をかけれる丸太などを配置し、皆んなでカレーを食べた。素揚げした野菜や、カツ、唐揚げなども自分で好きにトッピングできるので、みなで絶賛し楽しみながら野外の食事を楽しんだ。たまに明かりに釣られて虫が来るがそこはまぁ風情ということで。

 暫くすると、遠くから門兵が数人馬で此方にやってきた。

 何かあったのかと、皆緊張し、自分の剣をそっと寄せて身構えたが、どうやらカレーの匂いに釣られてきてしまった様だ。

「その食べ物を売ってくれ」

 だってさ。
 お祖父様が持ち場を離れた門兵達に若干怖い顔をしつつも仕方がないと、クヴァルさんに頷き、パンか米が選んでもらってカレー一皿は俺が設定した値段500lbで、唐揚げは一つ100lb、豚カツは300lb、素揚げ野菜は1すくい200lbで販売したら、皆うまいうまいと5杯くらいガツガツ食べて帰って行った。作る方も大変である。香辛料やハーブは記憶の森でも採取出来たのでこの価格だが、後でクヴァルさんに設定が安すぎると言われてしまった。反省。
 帰った門兵の話を聞きつけたのか、夜も遅いのに他の門兵達がわらわらと、光に集まる虫の様に集まって来た。

 コレはチャンスなんじゃないかと思い、酒も少しだけ…良かったらと言って無料で提供し、帝国で店を開きたいのですが、とお祖父様にきりだして貰って帝国の様子を聞いた。
 門兵たちは酒で気をよくしたのか、公然の事実かはわからないが、皇帝が変わったからと言って上からの編成変更などの連絡はなく、自分たちは前皇帝の時と同じく、変わらない国境の運営をしている。皇都の様子はわからないとの事だ。
 お祖父様は、持ち場を離れてここまで来た時から門兵達に怒り狂っていたけど、前皇帝の時と変わらない運営と言うところでハッとしていた。新皇帝になったら編成や運営が全く変わらないはずがない。

 その時から…いやそれ以前にもう末端への指令形態が消失していたのかも知れない。
 前皇帝の時にはあったであろう国からの資金がもしかしたら出なかった中で、兵らに給料を出し、運営出来る国境の門兵を束ねる貴族に心当たりがあったのか、お祖父様は寄付まで申し出ていた。

 門兵達は頭に何故?という疑問が浮かんだ様だが、とりあえず了承し、上司を呼んでくると言うのをお祖父様が止め、お祖父様が貯めていた金銭の約半分を、この手紙と共に…と言って渡していた。裏面に名前が書いてあり、門兵が驚いて「お知り合いですか?」と聞かれて、古い友だと答えていた。
 門兵はお祖父様に敬礼をし、大事に金袋と手紙を抱えて去っていった。

 やがてカレーを求める門兵達が来なくなり、後片付けをして、明日の朝食の差簡単な仕込みをし、キッチンカーを閉めた。

 護衛役の人たちが交代で見張りをしてくれる様だが、俺も寝ながらできる様に意識して、薄く光の結界を全体に張ってみた。

 日課になったツクヨミへのおやすみの挨拶をして目を瞑る。明日は本格的に帝国内の移動となる。どんな事が起こるのか。不安と楽しみが半々といったところか。お祖父様はテントへ、俺とティーモ兄様、そして母様は仲良く川の字で箱馬車のベットで眠った。




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おいっ。なんかいい匂いが漂ってこないか?

確かに。なんだこの匂いは?



お前らどこにいっていたんだーーー!!!

お?あいつら隊長に叱られてるぜ。

我慢できねぇーーとか叫びながら馬を駆って出ていったもんなあいつら…

本当に泣くほど美味かったんですよ…値段も良心的で…

って言い訳してるな。そんなにうまいのか?俺らも行ってみるか?

隊長がまたうるさいんじゃないか?

じゃあお前はお留守番だな

おいっ!待て!俺も行く!!









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