遥side
「これ、本当かなぁ……」
一週間ほど前、僕宛に一通の手紙が届いたのがコトの発端だ。内容を要約すると、ハロウィンパーティーを開催するからコスプレして是非参加してね(ハート)とのこと。一体誰が、と差出人の名前を探したところ、『サクヤ』と書かれていた。
サクヤ、とは誰だったかと一瞬考えたが、そう言えばこの間行った喫茶店の店主の名前がそんな名前だった気がするとすぐに思い出した。
数回しか会ったことがないはずなのに何故僕を招待してくれるのだろう、と疑問にも思ったが、あの人はこういう突飛もないことをやりそうだな、という結論に納得してしまった。
サクヤさんも良い人だし、楽しそうだから参加してみようかな。そう前向きに捉えて、それなら恋人のサラにも声をかけようかと決めたところで、封筒からもう一枚紙がヒラリと落ちてきた。
『P・S 今回のパーティーは招待した人だけが参加できるものなので、お一人でお越しください。』
わあ、サクヤさんにはお見通しってことか。驚きだね。
さて、誰かと一緒に参加できないとなると、サラも招待されていることを願うしかないだろう。っていうか、どんな基準で選ばれているんだろうな。
そんな不安六割、楽しみ四割の中、その日を迎えることになった。
…………
あれから何のコスプレをしていくか考えたが、イチ高校生が自由に使えるお小遣いもそれほど多くはないからと『黒猫の着ぐるみパジャマ』を着てきた。これなら今日が終わっても普段使いに良いからね。少し奮発して触り心地には拘ったつもりだ。
チリン……
喫茶 新月に続く扉を開けると、どうやら僕が一番乗りらしい。他の人の姿は見えなかった。
「あ、いらっしゃい。遥くん。今日は来てくれてありがとうね〜!」
一番乗り(仮)の僕を出迎えてくれたのはここの店主であり手紙を送ってきた張本人、サクヤさんだ。
いつもは仮面をかぶって長袖長ズボン姿の彼──彼、で良いんだろうか?はたまた女性だったりするのか?分からん──は、今日は半袖半ズボンらしい。そこから覗く手足は球体関節のような模様が入っている。人形の仮装、凝ってるなあ。そう感心してしまった。
「こんにちは、サクヤさん。あの……こんな感じの仮装でよかったですか?」
「勿論! 可愛い猫さんだね!」
「あ、ありがとうございます……」
面と向かって褒められると照れるなあ。頬をかきながらそれを誤魔化してみるが、それすらも見透かされていそうで恥ずかしくなった。
チリン……
「あ、今度は誰かな?」
誰かが来たみたいだ。僕の知り合いだと嬉しいけど……と願ってはみたが、現れたのは見知らぬ人だった。
「瞳ちゃん、よく来たね!」
「こんにちはー。」
黒のストレートヘアに白いノースリーブのワンピース姿、そして右顔面を覆う赤いペイント──血糊とかだろうか──の姿で現れた、目が特に綺麗な見知らぬ美少女。
これは……幽霊の仮装だろうか? 随分雰囲気がある。本当の幽霊と言われても納得してしまいそうだ。
「アハハ! 幽霊の瞳ちゃんが幽霊の仮装って……! そのまんまじゃん!」
「いやあ、幽霊の今くらいしかできない仮装かなって!」
「確かに!」
……聞かなかったことにしよう。本物の幽霊だなんて。うろ覚えだが確かにハロウィンは死者のお祭り的なイベントだったような気がするし、幽霊が参加していても何らおかしくは……
チリン……
と、そうこう言っている間にまた誰かが来たらしい。初っ端から幽霊がやって来たんだ。次はどんな人が来るか気になってしまうのも仕方なかろう。……さすがに僕以外幽霊とかじゃあないよな? 少し不安になった。
「今日、であってますよね……?」
「あ、藍ちゃんいらっしゃい!」
恐る恐る入ってきたのは全身真っ白な儚気美少女。髪も服装も羽も白、その頭の上にある輪っかで『天使』のコスプレだとすぐに分かった。
「こんにちは、サクヤさん。」
「こんにちは〜。よく来たね。その仮装は誰かに見繕ってもらったのかな?」
「う、サクヤさんにはお見通しですか……。そうですね、私としてはシーツでも被ってお化けの格好で来ようと思ったんですけど……皆に止められてしまって。」
「あは、過保護な音霧の皆らしいね。」
「むむむ……私は強いのに……過保護……」
「まあ、能力値はそうかもしれないけど。それでも色々巻き込まれてるでしょ?」
「むむむ……反論できない……」
こんなか弱そうな見た目なのに、強い……? ちょっと意味分かんない。脳みそがバグりそう。取り敢えず普通の人ではなさそうだ。
チリン……
え、これ以上カオスになるの……? 顔が引き攣りそうになりながら扉の方に顔を向ける。
「サクヤ! 来たぞー!」
「どうもー。」
悪魔っぽいコスプレをした金髪美女と、キョンシーコスの茶髪……男? の二人が入ってきた。それも入ってきた瞬間にお互顔を見合わせて『誰……?』と呟いていた。いや、一緒に入ってきたでしょうに……?
「やあやあいらっしゃいレタアちゃん、マロンちゃん。」
「サクヤ、この扉は特殊な魔法でも使っているのか? 入ってくる直前までワシは一人だったはずじゃ。」
「ああ、ど○でもドアみたいな感じで色んな世界に通じているからねぇ。違う世界から同時に入ってきたんじゃないかな?」
サクヤさんの例えに僕と幽霊さ……瞳さん?は納得したように頷いた。が、天使……藍さん?とレタアさん?とマロンさん?は首を傾げた。もしかしてこの三人はニホン人ではないのか?
「あれ、藍ちゃんは一応ニホン人でしょ。……っていってもテレビあまり見ないのか。」
「そうですね。気持ち的に見る余裕が無かったとも言えますけど。」
藍さんって、どんな暮らしをしているんだ? と勝手ながら心配になったが、そういえば今は過保護な人が周りにいるらしいから大丈夫か、とこれまた勝手に安心した。
「まあ、一言でいえば、扉の形の転移装置みたいなものと考えてもらって構わないよ。」
「へえ……。ワシにも作れるだろうか……それならアレをこうして……」
「ふぅん、随分発達したもんなんだねぇー。」
レタアさん、作ろうと思って作れるもんなんですかね? マロンさんの反応は普通だ。普通の異世界人なのかもしれない。……普通の異世界人って何だ?
チリン……
「すみません、遅れました。」
「あ、シスイちゃん、いらっしゃい。」
今度やって来たのは水色の髪を靡かせた、魔女コスの美少女だった。
「珍しいね、シスイちゃんが遅れるって。まあ、まだ約束の時間前なんだけど。」
「いやあ、私はジャックオランタンの格好をしようと思ったのですが、珈夜さんが『それではシスイ様の美しさが最大限に引き出されません!』と仰って……着替えさせられました。」
「アハハ、シスイ様崇拝者の珈夜ちゃんらしいね!」
「私を慕ってくれているのは、純粋に嬉しいです。」
「そりゃあ良かった。」
周りの人に止められた人、二人目。黒のレースが上品に見えるワンピースは、このシスイさん?に良く似合っていた。崇拝者さんのセンスの良さに(勝手ながら)舌を巻いた。
チリン……
「お、最後の子だね。」
「すみません、遅れました!」
「エンレイちゃん、いいよいいよ〜、まだ始まってなかったから!」
今度やって来たのは白い髪と肌を持ち、それと反対に真っ黒なウエディングドレスを身に纏った美少女。顔や首元、腕にかけて所々ツギハギのようなメイクが施され、真っ黒な口紅が死人らしさを引き出していた。……生きてる人、だよな?
「仮装をどうしようか悩んでいたら、事情を知ったサクラさんを筆頭に色々着せられて……遅れてしまいました。こんな感じで良かったでしょうか……?」
「お疲れさん。ウンウン、良い感じ! 似合ってるよ!」
「良かった……」
他の人に選んでもらった人、三人目。だがこの中で圧倒的一番のクオリティの高さを誇る。エンレイさん?の周りの人の本気具合がありありと見せつけられたようだ。
「さて、皆様、今日はハロウィンパーティーという名の『主人公異文化交流会』にお越しくださりありがとうございます。主催のサクヤ、仮装は人形でございま〜す。皆様には思うままに楽しんでいただけると、こちらも嬉しく思います。料理も用意しましたので、食べながら飲みながら、好きにおしゃべりしてくださ〜い!」
サクヤさんの音頭を皮切りに、ハロウィンパーティーは始まったのだった。
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2話以降はサポーター限定公開します。