あっぱれ細川家

近況タイムマシン その①

友人からの招きで、上野の国立博物館平成館で催されている「細川家の至宝」展、夜の特別貸し切りイベントに行ってきた。

主催は高級自動車ブランド。これはアッパーな方々の集まりになるなと踏んで、夫もわたしもそれなりの身だしなみを整えて出かけた。
と言っても、光沢のある麻のスーツは20年以上前の咲也のおさがり。サンローランのパンプスはニャメのおさがり。バッグは母の年代物で、腕時計は最近のいただきもの。パールのネックレスは、ハタチの祝いに祖母からもらった。
すべて人様からの恩恵にあずかっていっちょあがりだ。(夫も、ネクタイとズボンおさがり。麻のジャケットはリサイクルショップで入手。似たようなものである。)

車メーカーのイベントだけあって、博物館の敷地内にも自家用車の乗り入れ可。ただし、ずらり並んでいるのは、そのブランドと、ジャガー、ベンツクラスの高級車。一台、富士重工のセダンで来ている勇気ある人がいたな。
そんな車を眺めるのも、楽しみのひとつだった。(サーキットに行っても、まずは駐車場の車を見てテンション上がるタイプ。)

内も外も、社員を総動員しているのではないかと思えるスタッフの多さ。受付を済ませてラウンジに進むと、いきなり美しいジュディ・オングさんが目に飛び込んできた。加藤タキさんもみえている。気がつけば細川護煕氏も間近に。
そんな中、わたしはシャンパンを、夫はオレンジジュースをいただき、軽食やお菓子をつまみつつ、開会を待った。
どれもおいしかった。フォアグラのムースのタルトとカツサンドが特に。

定刻となり、隣の講義室に移動。主催者側挨拶のあと、学芸員から今回の展示の見所の説明があった。期待に胸が高鳴る。
そしていよいよ二階の展示室へ。わたしたちはガイドツアーにまず参加。最初の解説は細川氏だった。細川家において、代々の跡継ぎが正月にしか拝めなかったという守護童子も、惜しげもなく姿を現している。いいのか!?

いや~すごい。すごすぎる。形容の言葉貧困で申し訳ないが、そうとしか言いようがないくらいすごい。
室町時代より連綿と続く武家、大名家の系譜。その歴代の当主が傀集したもの、自ら製作したもの、それら古今東西の銘品が、血統の誇りとともに圧倒的迫力を持って見る者に迫ってくる。

唯一現存する「錦の御旗」、関ヶ原の戦いで実際に用いた甲冑。120羽の山鳥の尾羽根をシンボルとする兜。晩年近くに招聘した宮本武蔵の水墨画と五輪の書(原本は現存せず、写し)、利休作の茶杓、黒楽や油滴天目などの茶碗、白隠禅師の書画。信長直筆の書状(オリガタの原点、折り紙礼法の姿がよくわかる)、唐三彩や白磁などの焼き物、国宝級の刀剣、能装束、仏像。・・・
博物学に親しんだ当主もおり、動植物の細密な図鑑まである。このテのものは、シーボルトがライデンに持ち帰ったものしかないのかと思っていた。
いやーあったのである。細川家に、こんな個人蔵のすごいのが。

そうかと思えば、先々代護立は天才コレククターと言われ(十代の面差しはひろぴんに似ている。夫もそう言った)、梅原龍三郎に安井曾太郎、大観、観山、小林古径、土田麦僊ら、近代洋画日本画の巨匠たちから、ルノアール、セザンヌ、マティスまで、名作がずらり並んだ。なんと大観と観山に合作させた寒山拾得、などというものまである。

うれしかったのは、大好きな、菱田春草の「落葉」があったこと。これも細川家の所蔵だったのか~。
以前五浦の天心美術館でも見たが、この絵の奥行きと、落ち葉一枚一枚やクヌギの木肌等の表現には目を見張る。会期前半には黒き猫も展示されたそうだ。
それにしても、横山大観天才! この人の絵を見るたびに思う。この、表現の幅の広さはなんだ!

今夜、教育テレビでこの展覧会を取り上げた番組があり、護煕氏への興味深いインタビューを聞くことができた。
曰く、かつては、武家の接待といえば茶会と能舞台へのいざないで、そこは情報交換の場ともなっており、文化が政治以上に重要な位置を占めていたのではないかとのこと。
権力を持つ人イコール文化的レベルの高い人、だったのである。すばらしい。

ガイドツアーが終わってからでは、全体をもう一度見て回るに時間が足りなすぎた。わたしたちは、ラウンジに戻って魅力的な軽食をつまむ間もなく、9時の閉館ぎりぎりまで会場を行ったり来たりした。

細川家、おそるべし。あっぱれ細川家。展示は6月6日までやっている。もう一度行きたい。

ほしかったが、金欠のおりから我慢した図録。なんと出口付近で各人に土産として手渡された。
ずっしり重い図録の横に、スマートな主催自動車ブランドの冊子。その二冊が紙袋に入っている。
なかなかやるな。この日車を匂わせたのは、これたったひとつだった。

一人一人を見送る会社の重役に、しっかりお礼を言って外に出る。外に立つ女性にも、いいものを見せていただいた、感激したと伝えると、「そう言っていただけると本当にうれしいです。今後ともよろしくお願い致します。」と、にこにこの笑顔になった。
残念ながら、今後よろしくお願いされることはまずないが・・。
しかしこのブランドの心意気には打たれた。今までさほど関心もなかったが、がんばってもらいたいと、心底思っている。
イベントは大成功ということだろう。



追記:ここで糸井重里が、細川護煕氏との興味深い対談を連載している。
   http://www.1101.com/hosokawafamily/index.html
   
    

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