『風神秘抄』萩原規子著 (再読)
久しぶりに読み返しました。
私の大好きな勾玉三部作に通ずる物語。
時代は平安時代後期。心の底から慕っていた源氏の御曹司・義平の死に絶望した源氏方の武士・草十郎が出会ったのは、処刑された源氏たちの魂を鎮める舞を舞っていた少女・糸世。笛の吹き手でもあった草十郎が、彼女の舞に自分の笛の音を合わせた時、不思議な力が……。
この小説は、本当に情景描写が綺麗だなと思います。
特に草十郎の笛と糸世の舞が合わさる場面は、実際に笛の音や舞が聞こえる訳ではないのに(当たり前ですが)、二人の奏でる音色と拍子の美しさが文章からすごく伝わってきて、魅了されます。私もそんな文章を書いてみたいものです。
文章も好きですが、何より登場人物が大好きです。
主人公の草十郎は、武士だけど笛を吹くことが好き。でも、いろいろあって人に聞かれたくないので、いつも一人、人気のないところで吹いています。まっすぐな若者ですが、自分を省みないこともあり危うい部分もある少年です。
糸世はちょっと気が強くて、よく笑い、よく泣くような、活発で可愛らしい少女。
この二人のやりとりが見ていて楽しいです。
主人公の草十郎、ヒロインの糸世ももちろん好きですが、もう一人、いやもう一羽魅力的な人物?がいます。それが鳥彦王。人間の言葉を喋るカラスです。と言ってもその言葉は草十郎にしか聞き取れませんが。
いつもあたたく草十郎を見守っていて、おしゃべりで、女の子のカラスに手を焼いていたりして……愛嬌もあるしとても頼もしい存在です。それだけに最後の結末は切なかったです…。
この物語には続きがあり、主人公は草十郎ではないですが、『あまねく神竜住まう国』というタイトルで単行本が出ています。こちらも読みましたが、この作者さんの小説は何度読んでも飽きません。とても尊敬している作家さんの一人です。