Vtuberのオタゴンです。
東京都生まれ。『熊本くんの本棚』で第4回カクヨムWeb小説コンテストキャラクター文芸部門大賞を受賞。著書に『熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス』(KADOKAWA 第10回Twitter文学賞国内編第3位)、『京都東山「お悩み相談」人力車』(PHP文芸文庫)、『遅番にやらせとけ 書店員の逆襲』『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』(KADOKAWA)がある。
木村(仮)という名に見覚えはないだろうか。 給食の残ったゼリーをかけてじゃんけん大会に出場し、半ば諦めのなか繰り出したパーが多勢のグーを押しのけ、ゼリーをつかむに至った男である。木村(仮)は実はそんなにゼリーを食べたいわけでもなく、ただ皆の狂騒の中に自らも混じりたかっただけであった。ある者は嘆く。ある者は悔しさに下唇をかむ。ある者はぎこちない笑顔で勝利を祝福する。木村(仮)は手にした「ぶどうゼリー」の冷たさが、自らのこととは考えられなかった。自分は、一体何のために戦ったのか。はたして、これは勝利と呼ぶべきなのか。ゼリーを誰かへ譲渡しようにも、それを譲渡した相手に重しを押しつけるだけのようで、気が進むわけもなかった。誰かが食べるわけにもいかない。これは自分が食べねばならないのだ。木村(仮)はゼリーの蓋を開け、震える右手を左手で支えながら、スプーンを差し込む。ゼリーは決して木村(仮)のスプーンを拒むことはしなかった。ゼリーだけが、この世で中立なのだ。木村(仮)は目を閉じ、息を吸う。そして目を開き、ゼリーを口に運ぶ。ゼリーをすするその音は、さながら獣の慟哭である。胸が苦しいのは、けっしてゼリーが喉へ雪崩れ込んできているためだけではないだろう。のちに木村(仮)はあのときのゼリーを「責任の味がした」と表現した。木村(仮)は誰にも見られぬよう、そっと涙した。 あと、全く関係ないけど、小説とか書いてる。 短編 「芽吹く森」完結 長編 「アフロンティア〜片山小太郎伝〜」連載中 なにとぞ、よしなに。