こんにちは、旭(あきら)です。
現在連載中の『彼女と私は時給1万円の関係です』の100話到達を(勝手に)記念して、ささやかながら短編を執筆いたしました。
とっくに過ぎてしまいましたが…2月はバレンタインの時期ということで、今作はバレンタインをテーマにしています。
ぜひ、お楽しみいただけますと幸いです。
* * *
朝から教室内が色めき立っている。
別に騒がしいこと自体は、何ら珍しいことではないけれど。
普段と比べて落ち着きがない理由、それは何と言っても、今日がバレンタインデーだからに他ならない。
何やかんやで世間を賑わせてはいるものの、所詮はただチョコを贈り合うだけの風習で特別感なんてない、という認識でいた。今までは。
渡す相手もいないし、そもそもまともなチョコ一つ用意できるほどの経済的な余裕すらなかったから。
数個しか入っていないお菓子がありえないほど高額だったり、手作りするとしても材料費やラッピング代が必要だったり。
お金のかかる行事なんだなーと他人事のように軽視していたけれど。
今年は少しだけ、バレンタインに染まりきったこの空気に便乗することにした。
「ねーねー」
隣の席を覗き込む。
何かあったらすぐ絡みに行ける近さにいるのはありがたい。
以前より会話をする機会が増えて、さらに仲が深まった――と思っているのは私だけかもしれないが。
呼びかけに反応した雪平は、面倒くさそうに顔をしかめている。
「……なんだよ」
「雪平は私にくれないの?」
「は? 何を」
「チョコ」
「やるわけねーだろ」
「えー。ほしいなー、雪平からのチョコほしいなー」
「物乞いすんなッ。てか声デカい!」
「何かくれたら黙ってあげる」
「…………チッ」
お昼休みの喧騒の中でもしっかり聞こえる音量で舌打ちすると、盛大にため息を吐いて鞄の中を漁り始めた。
"あげない"と言っていたくせに、ちゃっかり用意してくれていたなんてツンデレが過ぎる。
何をくれるんだろうとワクワクしながら待っていたら、ぶっきらぼうに手を突き出された。
「……ほら」
雪平が持っていたのは、クマの顔の形をした棒付きの丸いチョコ。
子どもが喜びそうな、というより、正真正銘子ども向けのお菓子だ。
私がうんと小さかった頃、お父さんに"買って"と泣きながら何度もせがんだほど欲しかったチョコ。
確か、誕生日に一度だけ買ってくれたことがあったっけ。
滅多に食べられなかったお菓子の、あの仰天するほど甘美な味を今でも覚えている。
おそらく誰もが一度は口にしたことのある国民的チョコを前に、いろんな意味で感動してしまった。
「やった。ちょー嬉しい」
「そんなに喜ぶほどのもんか? ……子ども向けのやっすいチョコなのに」
「これ、個人的に思い入れがあってさ。それに、何を貰うかじゃなくて、誰に貰うかが重要じゃん」
もちろん、誰であろうと物を与えられるのは嬉しいけれど。
それが親しい相手だったら、より特別感が増す気がする。
「じゃあ、私からのお返し」
「別にいらな……って、あたしがあげたやつじゃねーかッ!」
恥ずかしげに紅潮していた顔が一変し、鬼のような形相を見せる。
完全にふざけていると思われているけれど、私としては至って真剣だ。
「お前どういう神経してんの? 人があげたものを自分からのプレゼントとして本人に返すって」
「違う違う。ほら、私も偶然同じチョコ用意してたの」
「何でこれが被んだよ……!」
いろんな意味で感動した理由の一つがこれである。
驚くことに、世の中に数多あるチョコの中で、雪平がくれたものと私が用意したものが全く同じになるという奇跡が起きた。
当然ながら、裏でこっそり調べて合わせようなんてサプライズは考えていない。
本当に偶々、同じメーカーの同じチョコの、同じキャラが被ったのだ。
ちなみに、この棒付きチョコはクマ以外にもパンダやブタ、ヒヨコなど、いろんな動物の種類がある。
私が持っているクマと自分が持っているクマを交互に見ながら、何とも複雑な表情を浮かべている雪平の肩にポンと手を置く。
「同じチョコでも、"私があげた"っていう付加価値があるじゃん」
「そんな価値いらん」
「まぁまぁ。食べないなら誰かにあげてもいいし」
一度、バレンタインに誰かとチョコを交換するという行為を体験してみたかった。
雪平の態度を見る限り、明らかに喜んではいないものの満更でもなさそうだし、とりあえず渡せて良かった。
後で食べようと思いポケットにしまおうとした時、不意に視線を感じた。
「…………」
いつの間にお手洗いから戻ってきた木崎さんが、羨ましそうに私と雪平のチョコを凝視している。今にも涎を垂らしそうな顔で。
時間も時間だし、お腹が空いているのかな。
「木崎さんの分もあるよ」
「ほんと!?」
雪平とは対照的に、心底嬉しそうな笑顔を向けてくれる。
健啖家の木崎さんは、食べ物なら何でも喜んでくれそう。
「わたしもチョコ持ってきたんだ。二人にもあげるね」
「二色にはあげなくていいと思う」
「いーや。せっかく用意してくれたんだから喜んで頂きますけど」
雪平の妨害を掻い潜り、木崎さんからのチョコを受け取ることができたのは、お昼休みが終わる直前だった。
放課後、生徒会活動が終わるまで図書室でのんびりしていた私のスマホに、一通のメッセージが届く。
そこには『生徒会室に来て』と短い一文が。
すぐさま椅子から立ち上がり、目的の場所へすっ飛んだ。
「なにこれ」
生徒会室に入って放った第一声がこれ。
真っ先に言及したくもなる。
会長用のデスクの隣に、大量の紙袋が置かれていたのだから。
会議はすでに終わったようで、ここに夕莉以外の生徒会メンバーはいない。
夕莉はというと、まだ仕事が残っているのか、デスクで作業をしていた。
手は動かしたまま、さらっと返答する。
「お菓子」
「は、これ全部?」
「そうよ」
チラッと紙袋の中を覗いてみる。
市販のものや手作りと思われるお菓子が、これまた大量に入っていた。
思考が一瞬停止する。
現実を受け入れられない、いや、受け入れたくない。
もしこのお菓子が全部夕莉への"あれ"だったら――
「えーっと…………なるほど、全校生徒に配るやつだ」
「残念だけど、全て私宛てのもの」
「んなバカな」
肝が潰れるとはまさにこのことで、文字通り開いた口が塞がらなかった。
……うん、でしょうね。
夕莉のファンクラブがあると聞いていたから、なんとなく予想はしていたけれど。
それにしても、現実でこんなに貰ってる人初めて見た。漫画の中だけかと思ってたわ。
中学時代、一番モテモテだった男子ですら、ここまで貰っていなかった気がする。
ここがお嬢様学校だからなのか、夕莉の人気が異次元レベルだからなのか。
個人的には前者であることを願いたい。
ひとまず、顎を押し込んで開いた口を無理やり閉じる。
夕莉の一仕事が終わるまで、近くのソファーに座って待つことにした。
いくら凝視したところで無くなりはしない紙袋たちは、私が夕莉の家まで持ち運ぶことになる。
荷物持ちは、彼女の護衛兼お世話係である私の役目だから。
暇潰しに、作業に勤しむ夕莉の姿を眺めていたら、ふとある疑問が浮かんだ。
本当は知りたくないけれど、同じくらい知りたい気持ちもある。
葛藤している間に、口が勝手に動いた。
「夕莉はさ、今までチョコ何個貰ったことある?」
「……さあ。数えたこともないわ」
え、なに、数えようとも思えないくらいの量を貰ってたってこと? どんだけモテてんのよ。
……しかしまぁ、紙袋が大量に積まれているこの光景を見せつけられたら、数える気になれないのはお察しできる。
にしても、どうすんのこれ。
まさか一人で全部食べるつもり?
……さすがにそれはないか。
夕莉の綺麗な肌にニキビができてしまうだけでは済まなくなる。
想像するだけで胃もたれしそうだなと戦慄しながら、無意識にため息が出た。
「……絶対いくつか本命入ってんじゃん」
ぼそっと、心の声が漏れる。
こんなに貰っているのだから、一つや二つ本命が混ざっていてもおかしくはない。
現に、夕莉をそういう目で見ている子を一人は知っている。
夕莉が私のことを好きなのはわかっているけれど、彼女宛てのプレゼントを見ると無性にモヤモヤした。
「大丈夫よ」
独り言が聞こえたのか、優しく諭すような声で夕莉が反応する。
作業が終わったようで、デスクの上は綺麗に片付けられていた。
隣に腰を下ろしてじっと目を見つめたあと、私の頬を軽く撫でる。
「私には奏向しか見えていないから」
ぶわっと、一気に体温が上昇した。
「そう……ですか」
咄嗟に視線を逸らす。
密かに嫉妬していたことを見破られたような気がして、急に恥ずかしくなった。
私だけがドキドキしているこの状況が、羞恥心に拍車をかける。
そういうセリフはもっと、躊躇いながら言ってもいいんじゃないかな……。
そんなに余裕綽々な態度をとられると、逆にからかわれているのではないかと思えてくる。
「奏向だって、たくさん貰っていそうだけど」
フォローのつもりで言ってくれたであろう言葉に、堪らず苦笑する。
「まさか。親からだってくれたことない」
そもそも友達が少なかったのもあるけれど、今までバレンタインというイベントを謳歌した試しがなかった。
基本的に二色家では年中行事にあやかるという概念がなく、節分だろうがクリスマスだろうが特別なことは一切しない。
あったとしても、誕生日をお祝いするくらいだろうか。
プレゼントはあったりなかったり。
バースデーケーキなんて贅沢すぎて買えなかったから、お麩一つにロウソク一本を刺していたのはここだけの話。
「でも今年は二つも貰っちゃった」
そのうちの一つは、半ば強引に巻き上げたと言っても過言ではないけれど。
学校で友達からチョコを貰ったのは、今年が初めてかもしれない。
「……誰から?」
穏やかだった夕莉の表情が僅かに曇る。
声のトーンが低くなったのは気のせい……?
特に隠すようなことでもないし、正直に贈り主を教えた方がいいか。
「雪平と木崎さん」
「……そう」
鋭かった眼差しが、安心したように柔らかくなる。
夕莉も私が誰からチョコを貰ったのか、気になったりするんだ。
二人以外の名前を出していたら、どんな反応をしていたんだろう。
さっきまでの雰囲気からすると、ガン詰めされていた可能性もなきにしもあらず……。
「帰り支度をするから、もう少しだけ待っていてくれる?」
「うん」
幾分か上機嫌な様子で、夕莉はソファーから立ち上がった。
再び暇な時間が訪れて、手持ち無沙汰になる。
何気なくブレザーのポケットに手を突っ込むと、ある物に当たる感触がした。
そういえば、雪平から貰ったチョコをポケットに入れていたんだった。
それを取り出して、じっくり観察する。
言うまでもなく、この棒付きチョコはどこにでも売っている定番商品だし、私が雪平と木崎さんにあげたものと寸分の違いもない。
これを選んだ理由は、私が一番好きなチョコだったから。
自分の好きなものを友達と共有したかったんだ。
ラッピングをビリビリと開けて、躊躇いなく一口で食べる。
トリュフチョコ一個分の大きさだから、ちょうど口に収まりやすい。
懐かしい味が口の中を浸透していく――前に。
不意に顎を持ち上げられ、ぐいっと強引に顔の向きを変えられた。
何事? と脳の処理が追いつくより先に、私の唇が奪われる。
あまりにも不意打ちすぎるキスに、"何で?"と疑問が浮かんだのも束の間、夕莉の舌が口内に捩じ込んできた。
「……!?」
互いの舌の熱で、チョコがあっという間に溶けていく。
唾液と混ざってドロドロになった液体を、夕莉の舌にほぼ全て舐め取られた。
まるで、口の中にあったチョコを残らず奪い取るように。
甘さが感じられなくなるほど口腔をしつこく蹂躙されたあと、ようやく唇を離してくれた。
肩を上下させて呼吸を整える私に、夕莉が膨れっ面で咎めるような眼差しを向ける。
「私の目の前で、他の子から貰ったものを食べないで」
とんでもない嫉妬の塊だった。
「…………ごめん……なさぃ」
思わず声が尻すぼみになる。
夕莉のいる前で軽率な行動をとってしまった愚かさと、不意のキスにもかかわらず気持ちいいと感じてしまった淫らさに、感情がごちゃごちゃになる。
口に含んだはずのチョコはほとんど夕莉に奪われて、味も上書きされてしまった。
居た堪れなくなって萎縮していたら、またも顎を持ち上げられる。
しかし、今度の手つきは優しかった。
見つめ合うのも数秒、吸い寄せられるように唇がそっと重なり合う。
貪るような激しさとは対照的に、じっくり感触を味わうような柔らかくも濃厚なキス。
夕莉の下唇を軽く挟んだところで、ある違和感を覚えた。
何だろうと思いながらも、しばらく夢見心地な感触を堪能する。
最後に舌先でちろっと舐めてから唇を離した。
くすぐったかったのか、夕莉は僅かにぴくっと顔を震わせてから、恥ずかしげな上目遣いで私を見る。
……やっぱり、感触が違う。
見た目では全然わからなかったけれど、触れてみると明らかに違いがある。
「リップ、変えた?」
私の問いかけに、今度は夕莉が顔を赤く染めた。
「……どうしてその方法で気付くの」
「いつもと味が違った」
彼女のリップを食べているわけでは断じてなく。
風味というか、肌触りというか、唇を合わせるとそういう感覚が敏感になる。
「何で変えたの?」
「だめだった……?」
「ううん。いつも以上にふにふにしてて気持ちいい…………あ。もしかして、これ?」
「……?」
「私へのバレンタインのプレゼントって、夕莉からのキス?」
「っ! ちがっ……」
狼狽したように耳まで真っ赤になった。
半分冗談で言ったつもりだったけれど、見事に真に受けたようだ。
もし本当だったとしても、それはそれで嬉しい。
おねだりしたら、もっとしてくれるかな。なんて下心満載な願望を抱きかけた時、夕莉が鞄から何かを取り出した。
「……これ、私からのプレゼント」
シックな色の包装紙に包まれた、薄い長方形の小さな箱。
見た目といい紙の質感といい、高級なものであることは明白だった。
最も望んでいた相手からの贈り物に、今日一番の笑みが浮かぶ。
高いとか安いとか関係ない。
たとえ箱の中身が空だとしても、バレンタインデーに夕莉から物を貰ったという事実が何よりも嬉しい。
「開けてもいい?」
「ええ」
受け取った手のひらサイズの箱を、なるべく綺麗に開けていく。
包装紙を解いて蓋を外すと、いろんな形をした合計六個のチョコが、仕切りの中に一個ずつ入っていた。
丸とか四角とかハートとか、見ているだけでも面白い。
「食べてもいい?」
「もちろん」
隣で夕莉に見守られながら、チョコを一つ口に含んだ。
「うま」
脊髄反射で声が出る。
人生で初めて体験した味だった。
口に入れた瞬間にとろけて、舌触りが滑らかで、それでいて甘さはくどくなく、食べ終わったあともほのかにカカオの風味が香る。
……これが上物のチョコか。
一度この味を覚えてしまったら、普通のチョコには戻れなくなりそうで怖い。
高級な食べ物に慣れていない私は、一つ食べただけでも充分満足できたけれど、どうせならもっと嬉しくなることをしたいと思った。
「ねぇ、夕莉も一緒に食べよう。私だけ楽しむなんてもったいないくらい美味しいから」
贈り主に勧めるのもおかしな話だけれど。
こんなに美味しいものを独り占めするのは、本当にもったいない気がして。
夕莉は私の提案に一瞬驚いた表情を見せたものの、嬉しそうに微笑しながら頷いてくれた。
「……食べさせて」
そして、甘えた声でねだられる。
普通に箱を差し出そうとしていたのを、咄嗟に引っ込めた。
なるほど。こういうのは、食べさせてもらいたいと思うもんなのか。
確かにお互いドキドキしそうだし、行為がなんだかカップルぽい。
気を取り直して、チョコを掴み、手を添えながら夕莉の口元まで持っていく。
しかし、恥ずかしげに視線を逸らすだけで、なぜか口を開けてくれない。
「夕莉?」
「奏向の口から……が、いい」
しまった、配慮が足りなかった。
"あーん"じゃなくて口からの方をご所望…………口から!?
待って、えっと……それはつまり、さっきやられたみたいな……く、口移しってこと?
「奏向」
急かすように名前を呼ばれる。
羞恥と戸惑いで頭の中が大混乱に陥る中、追い討ちをかけるように夕莉がさらに近付いて、私のブレザーの袖をきゅっと掴んだ。
縋るような熱っぽい目で見上げながら。
ここまで来ておいて、恥ずかしいからムリなんて断れないし、そもそもさっきやられて気持ちよくなっちゃってたし……。
あーもうっ、どうにでもなれ!
今さらこんなことでウブになってどうすんのよ。
覚悟を決めて、掴んでいたチョコを自分の口に入れる。
固形のままがいいのか、少し溶かしてから移した方がいいのか……とか考えているうちにもう溶け出してきた。
夕莉の頬を包み込むように手で添えて、彼女の口を自分のそれで塞いだ。
半分以上液体になりつつあるチョコを、舌で送り込む。
口の隙間から溢れないように、少しずつゆっくりと。
夕莉の口内に舌を侵入させると、ねっとりと蠢くものが絡まってきた。
口腔の至る所に舌を擦りつける。
二人の熱で完全にチョコが溶けていく。
口の中に甘さが広がって、とろけるような感覚が脳を支配する。
流し込んだチョコを残らず受け取ったあとも、私の舌を執拗に犯してきた。
攻守が逆転して、いつの間にか夕莉が貪るように私の唇を弄んでいる。
口移しがとうに終わったことも忘れて、無我夢中で快楽を求め合った。
どれほどの間、唇を重ね合わせていたかはわからない。
どちらからともなく体を離すと、不意に静寂が訪れた。
まだ足りないような気もするし、心が満たされるほど満足できたような気もする。
思いのほか熱烈なキスをしたせいか、今になって羞恥心がぶり返してきた。
なかなか目を合わせられずにいたら、嬉しそうな声で夕莉が呟いた。
「――甘い」
チラッと彼女の方を見やる。
ちくしょう、可愛い。
「あっ……実はね、昨日夕莉のためにとっておきのお菓子作っておいたんだ。だから早く帰ろ」
こんなタイミングでさらっと言うつもりじゃなかったけれど、この変な気まずさを打開するには致し方ない。
昨日の夕方、彼女の家で夕飯作りのお手伝いがてら、バレンタインで渡すお菓子をこっそり作っていたのだ。
杏華さんがつまみ食いをしなければ、今頃冷蔵庫で眠っているはず。
地球がひっくり返ってもそんなことはしないだろうけど。
「わかったわ。楽しみにしてる」
ほんのり頬を染めながら、夕莉は無邪気に笑った。
お菓子を食べた彼女がどんな反応を見せてくれるのか、私も楽しみだ。
Fin