『おしえて!エリックさん』特別番宣回・後日談
―勝者の代償―
――黄泉チューブ株式会社・制作フロア。
分厚い防音扉が、勢いよく開かれた。
「――プロデューサー鬼ぃぃぃッ!!」
怒号とともに飛び込んできたのは、エリックである。
打ち合わせ中だった室内に、一瞬の沈黙が落ちる。
プロデューサー鬼はゆっくり顔を上げた。
「……なんだ、騒がしいな」
隣で作者がペンを止める。
「どうした、エリック? そんなに血相変えて」
「どうしたもこうしたもありませんよ!!」
エリックは机に手を叩きつけた。
「視聴回数勝負――勝ちましたよね!?」
おしえて!エリックさん
起点PV数2377-2812=435PV
雅閻魔大王の裁きの間
起点PV数198-472=274PV
「おめでとう~」
「おめでとう」
あまりにも軽い祝福。
一瞬、エリックは言葉に詰まる。
「リアクション薄い!」
ビシッと指を突きつける。
「なんで勝ったのに、新番組が秋以降なんですか?」
「……ああ、その件か」
プロデューサー鬼は当然のように頷いた。
「勝負契約書に書いてあるだろう」
「……は?」
「私の判断で『おしえて!エリックさん』を休止できる、と」
「……は?」
思考が止まる。
プロデューサー鬼は書類を差し出した。
「ほら」
震える手で受け取り、視線を走らせる。
――止まる。
「……あ」
沈黙。
「……あぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
「サインしてあるよな?」
「してるね」
「いやいやいやいやいや!!」
エリック、崩壊。
「なんですかこれ!? 休止前提じゃないですか!!」
「読まなかったのか?」
「読んでませんでしたよ!!」
「自己責任だな」
「ぐぅぅぅぅ……!」
歯を食いしばるエリック。完全にハメられている。
作者が楽しげに口を開く。
「まあまあ、エリック君」
「いや、まあまあじゃないですよ作者ァ!!」
「でもさ」
椅子にもたれ、静かに言う。
「番組、もっと面白くしたくない?」
「……え?」
「そのための休止だよ。今でも悪くない。でも――伸びしろはある」
「……」
「だから一度止めて、練り直すんだ。そして、そのために――君をプロデューサーに任命する」
「……は?」
口が開いたまま固まる。
「え、ちょ、ちょっと待ってください」
「君がおしえて!エリックさんの総責任者だ! プロデューサー鬼は雅閻魔大王様の番組に専念するんでな」
「……僕が?」
「そうだ。現場も企画もキャスティングも全部だ」
「……キャスティングも?」
「もちろん」
作者がにやりと笑う。
「新人のおにっ子女子アナの配置もね……」
「……!」
わずかに反応する。
「誰をどこに出すか、誰と組ませるか――全部、君次第」
「……」
追い打ち。
「彼女たちの事を知るために、夜の勉強会で距離を縮めるのも……仕事かもね?」
「……」
数秒の静寂。
「……まぁ」
エリック、咳払い。
「勝って当然でしたからね」
手のひら返し、完了。
「番組を面白くするためには休止も必要かと」
「ほう」
「さすがだな」
「ええ、未来を見据えた判断ですよこれは」
――完全に落ちた。
数日後――ザギンでシースー
「エリック! プロデューサー就任、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
高級寿司店。カウンター席。
エリックは上機嫌で寿司をつまむ。
「このトロ……やばいですねぇ……」
「経費だ、遠慮するな」
「最高です!!」
さらに――高級スナック。
「エリックさん、グラスどうぞ〜」
「ありがとうございます〜!」
おにっ子女子アナに囲まれ、ご満悦。
「いや〜いいですねぇ……現場の士気が上がりますよこれは……!」
「それは何よりだ」
「全部、番組の未来のためですからね!」
アナウンサーに接待をしてもらうと言う、完全にアウトな行為である。
誰も止めない、三人は心行くまで楽しんでいた。
だがその時――店の隅に、静かに佇む影があった。
黒衣。無表情。気配すら薄い存在。
死神ムラクモ。
グラスにも触れず、ただ見ている。
「……」
誰も気づかない。
だがその視線は、確かに三人の誰かに向けられていた。
笑い声が響く中、そこだけ温度が違う。
まるで――何かの終わりを見届けるように。
三人はまだ知らない、それが栄光の始まりか、それとも――裁きの序章かを。
そして、デキレース以外の何者でもなかった視聴回数勝負は、そのまま『おしえて!エリックさん』の休止で、静かに幕を閉じた。
だが番組を盾に、権限を振りかざし、都合よく解釈し、都合よく堕ちていった三人の代償は、まだ支払われていない――黄泉の理は、必ず均される。
静かにグラスを置いた、あの死神の視線が示すように。
いずれ訪れる、その時。
果たして彼らは、笑っていられるのか。
それとも――再びあの場所へと、呼び戻されるのか。
『雅閻魔大王 裁きの間』は、すべてを見ている。
今後の裁きの間に、乞うご期待。