• 異世界ファンタジー

「魔道士と遡言者」の覚書

 第七回こむら川小説大賞に、「魔道士と遡言者」なる小説で応募いたしました。主催者のこむらさき氏、並びに闇の評議員諸氏には素晴らしい機会をいただき感謝の念に堪えません。
 本記事では、備忘録をかねて作品についての解説を記します。大きくネタバレを含みますのでご注意ください。

1. コンセプト
 1万字以内の短編ということで、いわゆるヒロイックファンタジーの形式をとりました。異質な世界で、英雄が現れ、悪い奴をシバき倒す。そして英雄はいずこともなく去ってゆく。そうした様式を、景山の求める手触りで描きました。

2. 構成
 魔道士が独酌する酒場から始まり、助けを請う少年が現れ、彼の奪われた過去を追憶するという流れになっています。短編の規模で時系列を並べ替えるのはテンポと可読性の上でリスクがありますが、主人公である魔道士グステルの造形を最初に見せることを優先しました。

3. 世界観について
 はるか遠い未来の地球で、因果律が軽率に乱れ狂い、異能者や怪物が跋扈する「毀 (こぼ) たれた世界」です。下記のみずがめ様のように、人類の想像の産物であるはずの星座の神々が「蕃神 (外から来たる神)」として具現化しています。
 短編の尺ではごく断片的にしか語れませんが、何となく良くない方向に向かっている殺伐とした世界、くらいが伝われば上出来と思います。

4. 固有名詞について
 物語の鍵となる遡言 (そげん) は、未来に言及する予言の逆として考えた造語です。予言と語感も似ているし、我ながら上手いこと考えたな!などと思いきや、最近の鳴潮というゲームに「遡言」が登場するようです。よさげな思い付きにはだいたい先駆者がいるものです。
 また、異質な世界であることを印象付けるために、説明なしの固有名詞を複数登場させています。メヂヤ騎士、〈渡り屋〉がそれに相当します。こちらも可読性を下げるリスクがありますが、世界観に奥行きを持たせることを意図したものです。ちなみに、メヂヤは昔ブイブイ言わせてた強国で、〈渡り屋〉はこの過酷な世界を股にかける武装隊商のことです。

5. キャラクター
・魔道士グステル
 造形は、「擦り切れているが斜に構えてはいないおっさん」です。一見人情に乏しそうな堅物が、内には剛直な熱を秘めているという魅力を描きたかったものです。「魔道士」と位置付けただけあって、当初は魔法のみで戦うイメージでした。しかし、クライマックスを派手にしたかったので刀を振り回すことになりました。彼が刀に纏わせた「紅炎」は太陽のような恒星表面で発生する現象で、フィラメント状の高温プラズマが噴出したものです。英語のプロミネンスの方が一般的な呼び方でしょうか。

・ユリウス少年
 グステルが「こういうキャラを書きたい」でできたのに対して、ユリウスは物語を駆動する要素から逆算して書きました。グステルは極めて決断的な人物として描写したかったので、物語の要素として必要な「葛藤」はユリウスが一手に引き受けています。
 また、「戦力としてあてにできなかった人物が一矢報いる」という展開が大好物ですので、最後は遡言者にとどめを刺す役割にしました。

・遡言者(そげんしゃ)
 遡言を語ることで、周囲の過去を好き放題に変える異能者です。短編ですので、可能な限り「絶対に倒さねばならぬ敵」として印象付けられるように描写しました。結果、複数の方から邪悪さを評価するご感想をいただきました。満足のゆく造形に仕上がったと思います。
 あらわに名前をつけなかったのは、「名前を言い当てると弱体化する怪物」型の伝承を踏まえ、非人間的な脅威であることを印象づける意図がありました。

・みずがめ様
 キャラクターといってよいか微妙ですが、便宜上ここに記載します。水源 (みなもと) の村の守護神であり、ユリウスが自らに刻んだそのしるし (ルーン) は遡言者を打ち破る鍵となりました。みずがめ様は、現実のみずがめ座が遠い未来に神格としての実体を得て地上に現れた、という設定です。みずがめ様のルーンである「ぎざぎざとした二本の平行線」は現実のみずがめ座のサインです。

5. 反省点
 光栄なことに、楽しんでお読みいただいた読者諸氏がいらっしゃる (と期待しています) 手前、自らネガティブなことを申し上げるのも恐縮です。ですので、山ほどある中から 2 点だけ抽出します。

・尺不足
 1万字以内に盛り込める要素の量を過大に見積もった結果、描写しきれなかった部分がいくつかあります。特に、みずがめ様周りです。「黄道より降り立った旧き蕃神」と描写することで、作品世界が未来の地球であることを仄めかしたかったという意図があります。が、本当はもう少し情報を入れたかったところです。
 また、エピローグも相当駆け足となり、村人が全滅していた理由を示せませんでした。これは、遡言者が「全員殺して必要なときに生き返らせればよい」としたからです。とはいえ、完成版のラストも短い余韻が乾いた印象を与えて悪くないのでは、と思っています。
 いい設定を思いついた!で軽率にねじ込むのはやめましょう。たいへんよい勉強になりました。

・スケジュール
 おまえは参戦を決めた日の自分に「執筆は計画的に」と3億回は言われたはずだ。

6. 余談
 近況ノートには下書きの機能がありませんので、こういう長文を書くことは想定されていない気がしてきました。

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