<あらすじ>
騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなった老人(アロンソ・キハーノ)が、自らを遍歴の騎士と信じて、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(ラマンチャの騎士ドン・キホーテ)」と名乗り冒険の旅に出かける物語。(参考:Wikipedia)
<感想>
Fate/GrandOrderにて実装されたのをきっかけに読むことにしました。あらすじの通り、主人公は「現実と物語の区別がつかなくなった、自分を遍歴の騎士だと信じ込んでいる老人」のため、周囲の出来事を自分の信じる騎士道物語と強引に結びつけ、その「冒険」に遍歴の騎士として立ち向かう、という場面が非常に多くあります。しかしながら、それはドン・キホーテが信じ込む空想なだけでありここは現実。実際は狂った人間が現実の人間に迷惑をかけているだけ。そんなシーンを読むたび、始めは「もう早く正気に戻って田舎に帰りなよおじいちゃん……」と思いながら読んでいました。
しかし読み進めていく中で、次第にドン・キホーテ自身のその人柄や数々の冒険譚に心奪われ、「もっとこの騎士の冒険が見たい」と思うようになっていきます。
そこへやってくる<銀月の騎士>、サンソン学士との一騎打ち。ドン・キホーテは敗北し、田舎へ帰ることになってしまいます。始めの頃はあんなに「早く田舎に帰りなよ」と思っていたのに、このシーンを読んだ時に感じたのは「寂しさ」でした。騎士の冒険が終わってしまう寂しさ。ドン・キホーテが負けてしまった悲しさ。
その後ドン・キホーテは田舎へと帰還し、高熱で数日寝込んだ後、理性と正気を取り戻し元のアロンソ・キハーナというひとりの男に戻ります。そして彼はドン・キホーテだった自分を否定し、心から信じていた騎士道物語を否定し、そのまま永遠の眠りにつきました。
騎士道物語を否定したアロンソ・キハーナに対し思ったことは「どうしてそんなこと言うの?」という、やっぱり寂しさと少しの悲しさでした。死の淵に立つアロンソ・キハーナへ向けて必死に「そんなこと言わないでくれ」と懇願するサンチョへの共感が止まることなく溢れ出ました。
始めはあんなに「もうやめたらいいのに」「阿呆らしい」「人に迷惑をかけるな」と思って読んでいたドン・キホーテの騎士道物語だったのに、最後の時には「終わらないで欲しい」「まだこの素晴らしく美しい心を持つ老人の騎士道物語を魅せて欲しい」と思っていた。気づけばドン・キホーテのことが大好きになっていました。
名作と呼ばれ、今日まで愛され続ける作品。非常に素晴らしい物語でした。
以下、Fate/GrandOrder『死想顕現界域 トラオム』より。
何があろうと、ここで逃げるわけにはいかんのだ。
——ダメだ、譲れない。譲っては、いけないのだ。
——当たり前のことなのだ。人を、助ける。善き人であろうとすることは。
それは騎士以前、人間としての基本的な在り方だ。
今、立って戦えるのがワシであるならば、ワシは戦わなければならぬ!
「愚者の騎士、善良なる凡人」と、かの皇帝は彼のことを評した。
しかし、自らの身を危険にさらしてまで、死の危険に陥ってまで誰かを助けようとするその意気、眩しいまでの善の心。それを以って敵の前に立ったひとりの老人は。
十分に英雄たる資格があるのではと、そう思って止まないのです。