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春にて

庭には、ブルーベリーの花が純白の如く白色の花を咲かし川沿いの横道には桜の花が堂々と咲き乱れる季節となった。風が吹けば舞い、鳥が飛び立てば散る儚く美しいこの花は幾百年も人々の心を魅了し続けている。なんの花もないコンクリートの耳は薄桃色に染まり新たな人々を歓迎しているようにも見える。
5、6年前、祖父とこの道の段差に腰を掛けて食べた焼き鳥の味が忘れられない。祖父が亡くなり3年経った今も彼の存在は色褪せない。私は今哀愁の年に駆られこの道を歩いている。生きていたら彼と歩いていただろうこの道も川沿いの道の舗装工事が行われ枯れ朽ちた桜の木が二本、寂しげに立っていた。思い出の匂いに誘われ私は一緒に焼き鳥を食べた段差に腰を掛けている。思い出の中では木陰に包まれ静かな場所であったが、そこは木漏れ日が清々しく花見を楽しむ人々が指折りで数えられる程度の人数しかいない場所だった。
一片の桜の花びらがスマートフォンの画面の上にひらひらと落ちてきた。その姿はまるで一人で花見に来た私のようでどこか悲しい雰囲気を纏っている。
祖父の存在が私の中でどれくらい大きかったのか、私は心の底から感じている。古い記憶はいつか色を失ってしまうのかそれは貴方次第だ。

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