【終章後半部分の時系列となります。第141話読了後にお読みいただくことを推奨いたします】
セオは聖王国に、パステルはロイド子爵家に(色を失っている状態)。
それぞれ会えない日々を過ごしています。
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「――七夕祭り?」
「ええ。東方の島国に伝わる祭事なのだそうです。奥様が王都にいらした時に、東方からいらしたという商人の方からそのお話を聞いたそうですよ」
私はエレナから、七夕にまつわるお姫様の話を聞いた。
機織りの仕事をしていた姫君と、牛飼いの仕事をしていた青年のお話だ。
愛し合う二人は夫婦になったが、仕事をしなくなってしまったために神様が怒り、天の川によって隔てられてしまった。
そして、一年に一度、七夕の日だけ二人は会うことを許されたのだという。
「民衆は、お祭りの日までに笹の葉に願い事を書いた短冊を飾るのだそうです。そうして飾られた願い事が天におわす姫君と青年に届くと、願いが叶うと言われているとか」
「願いが叶う……素敵ね」
「そこで! ジャジャーン」
エレナが持っていた箱から取り出したのは、小さく細長い紙片と、花瓶に飾れそうなサイズの小さな笹だった。
「奥様が、子供たちのためにと仰ってご購入されたそうですよ。玄関にこれより大きい笹を飾ってありますが、お部屋から出られないお嬢様のために、一本分けさせていただきました」
エレナは早速花瓶に笹を挿し、飾ってくれる。
「短冊は五色あって、それぞれの色に意味があると言われているのですが――お嬢様がお使いになるのは、きっと黄色の短冊ね。文机に置いておきますよ」
エレナは笑顔でそう言い残して、私の部屋から出ていった。
「愛し合うばかりに、周りが見えなくなって引き離されてしまった二人、か……」
自然と心に浮かんでくるのは、セオのことだ。
私たちは引き離されてしまったという訳ではないが、会いたいと思ってもすぐに会うことが出来ない今の状況を、天の姫君と重ねてしまう。
「一年に一回、たった一晩だけの逢瀬……二人はきっと寂しいでしょうね」
なのにその状況を嘆かず受け入れ、民衆の願い事を聞き入れ叶えてくれるという姫君。一体、どんな人なのだろう。
甘い蜜月に心奪われてしまったけれど、本来はよく働き民衆のことも気にかける、優しく立派な姫君だったのかもしれない。
それとも、姫君と青年が願いを叶え続ければ、いつか天の神様に許してもらえる日が来るとか、そういう言い伝えなのだろうか。
「私は……どうだろう」
私は――引き離される前の姫君と同じく、自分のことばかりで、周りが見えていないのではないか。
守られるばかりで、魔力の回復を待つことしか出来ない今の自分が、ただただ悔しい。
セオは、私との未来だけじゃなく、聖王国や大陸の未来のために、今も頑張っているのに。
「私に、出来ること」
天の姫君は、きっとネガティブなことを望んでいない。
私に出来ることは何かないだろうかと、考えてみる。
「私はセオやメーア様たちのように、たくさんの人に手を差し伸べることは出来ない。私に出来ることは、セオや、みんなを信じることだけ」
私に出来ることは、たったそれだけ。
けれど、それでも、「信じる」ことは相手にとって大きな大きな力になるのだ。
だから、私が今すべきことは、信頼を伝え続けること。
そうして、信じて待ち続けること。
相手を不安にさせないことだ。
「……よし。書くこと、決めたわ」
私は立ち上がって文机へ向かうと、短冊にさらさらと願いを記した。
『大切な人たちが、笑顔でいてくれますように』
私はその短冊を笹の葉に吊るし、再び文机に向かってセオへの手紙を書き始めたのだった。
遠く離れていても、心はすぐそばにいる。
目を閉じて『永遠の絆』――首元のイエローダイヤモンドに触れると、心の中に色が溢れてきた。
*
夕方の終わり、夜のはじまり。
主人が不在の部屋の隅で、小さな笹に飾られた短冊から、輝く光が天に舞い上がっていく。
瞬く間に光は星になり、天を流れる川の一粒へと変わった。
――遠く離れた聖王国で、セオはふと空を見上げた。
美しい天の川を眺めていると、なぜだか心が温まってくる。
その顔には、自然と柔らかな笑顔が浮かんでいたのだった。
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お読み下さり、ありがとうございました!
木火土金水を表す、五色の短冊。
黄色の短冊には「人を信じる気持ち」「人を大切に思う気持ち」を願うのだそうです。
皆様の願いも、天に届きますように。
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