「あーダり〜」
「そんなことおっしゃらないでください」
黒槍担いだイケメンことオレと若い依頼人が森の中を彷徨っていた。
連勤で疲れた身体に鞭を入れながら足を動かし、それでもサボりたい欲がオレの魂から漏れ出て、結果ダラダラとゾンビのような足取りで目的地に向かっている。
本来ならこの時間は城のサボりスポットで怠けている頃なのだが、こうなっているのには訳がある。いつもの鬼畜王の仕業だ。
敵国との戦争準備をサボっていたことがバレたオレは、罰として大量の討伐任務を請け負う羽目になってしまったのだ!
そのせいでオレは貴重なサボり時間と休みを返上して働くことになってしまい、こうして依頼人のおっさんと虚しく歩いてるってわけ。
「ああ、可哀想なオレ……っ! 働けど働けど休みが訪れない、責任のある立場ってのは辛いもんだぜ……」
「自業自得ですよね?」
「うっさいぞ小僧。オレはこのまま帰ってやってもいいんだからな?」
「サボったら副団長様に報告するよう言われているのですが」
「馬車馬のように働きますので黙ってろください」
くっ、オレの脅しに屈しないとは……ッ! ただの生意気小僧ってわけじゃなさそうだ……ッ。
にしてもパワード改めドM国との戦争は碌なことがないな!? 終わっても終わっても新しい罰が来るんだけど! 罰則のわんこそばなんだけど!?
クソッ、いい加減どこかで辞めさせないとオレの優雅なサボりライフが満喫できない。通常業務に戻りさえすればいくらでもサボれるのに……!
てか単純にこれ以上辱め(メイド)を受けたり肉体労働(13連勤)させられるのはヤダ! 羞恥と過労に殺される!
罰で課せられた任務は首輪に直接命令を受けたものなのでサボることができない。この激務を終わらせるには全力で働くしか方法がないのだ。
観念したオレは、目の前で威嚇してくる山賊たちをとっ捕まえることに専念した。
「なんだコイツ! 二人でノコノコやってきたってのか!」
「飛んだ命知らずだなぁ!」
「バラして犬の餌にでもしてやろうか!? あぁ゛!?」
今回のターゲットはこの森の近くを通った馬車を手当たり次第に襲うことで有名な山賊ども。
見た目から粗野で不潔な野蛮人だということが丸わかりであり、中には服とも呼べない葉っぱだけで作った腰巻きを巻いてるだけのやつもいるようだ。原始時代からタイムスリップでもしたんか? オレのファッションを見習いな? 少しはマシになると思うよ?
いかにもオツムの弱そうな連中だが、身体能力は馬鹿にできないらしい。これまで多くの御者が被害に遭ったので討伐隊が組まれたこともあったのだが、全て返り討ちにあったのだとか。
冒険者や貴族のお抱えだけではどうしようもできなくなり、遂に騎士団にお鉢がまわってきたと。
「やっぱ国最強のオレがいないとダメだな、国民はもっとオレに感謝するべきだ。具体的には可愛い女の子を派遣してくださいいつでもウェルカムです」
「人格終了ゴミカス騎士団長に頼み事なんて……ッ、本当に、本っ当にしたくなかったのですがッ! 我々にも生活があるのでやむを得ず……!」
「やっぱ帰っていい?」
「副団長様に言いつけますよ?」
即座に殲滅行動を開始する。
タダシにチクるという恐怖がオレの身体を支配し動かしたのだ。だってアイツ容赦ないんだもん、たまにクズマリス国王より酷い時あるし。餡を体に詰め込むとか。
もう二度とフォアグラになる気はないので、ここは逆らわずに従順さをアッピールしておこう。
次々と山賊たちを蹴散らし半分くらいになったところで、オレより三回りくらいデカいハゲが出てきた。コイツが親玉か?
「ナカマ ケガシタ。オデ オマエ コロス……!」
「おいやっぱコイツらタイムスリップして来たろ!? この喋り方は流石に原始人だって!」
「シネ――!」
子供二人分くらいの大きさの馬鹿デカ棍棒を振り下ろす原始人。
しかしそれをあっさり受け止めそのまま吹き飛ばす。
頭を強打した原始人はその場で動かなくなった。
「親分がやられた!?」
「やべぇぞどうすんだこれ!?」
「終わった……」
おっ、やっぱアイツが親玉か。
んじゃあとは消化試合だな、さっさと片付けて帰るとしm……。
「狼狽えてんじゃないよッ!!」
動きを止める山賊たち。
動揺を制したその声は、森で根強く大輪を咲かせるアマリリスのような力強さを持っていた。
倒れた仲間をかき分け、声の主であろう女がオレの前に姿を現す。
その女は――爆乳だった。
溢れんばかりの乳を無理矢理サラシで抑え込んでいるようだが、抑えきれていない肉が上下にはみ出しておりとてもエロい。
一瞬オレを睨みつける鋭い視線と目が合ったが、すぐさまはみ乳に視線を奪われてしまう。
なんて着こなししてやがる……ッ! これが原始ファッションだとでもいうのか はみ乳最高ッ!
「アタシが囮になる! その間に、さっさと親分を連れて逃げな!」
「それじゃあ姉御が!?」
「フンッ、みくびってんじゃないよ腰抜けども。アタシがそう簡単に捕まるとでも思ってんのかい?」
「…………ッ! すんません、どうかご無事で!」
「……ったく、世話の焼ける奴らだよ」
「待たせたね。さぁ、最後まで悪あがきさせてもらうとしようかッ!」
五秒で決着ついた。
「さぁて、敵に捕まった女がたどる末路なんて分かりきってるよなぁうへへ」
「くっ! 殺せ!」
「どっちが悪者かわからないですね。とりあえず通報しておきます」
「おいやめろよ。これは勝者の特権だろうが」
「仮にも騎士が捕虜に陵辱することを特権としないでください。だからクズ団長とか言われるんですよ?」
その後も勝者にとっての当たり前な権利を主張し続けたが結局話は平行線。
いつの間にか日も落ち始め、キリがないということで折衷案を取ることになった。
オレは捕虜の胸元をガン見しながら帰った。
取り逃した山賊たちの記憶は、捕虜の谷間で塗り潰されたのだった。
「くっころっ!!!」