文庫本を連れて
菊池武雄は、意固地で孤独な中年男性である。
『六〇歳定年・プラス再雇用制度で五年継続雇用』…………そんなものはクソ喰らえ、とばかりにスッパリ退職して、菊池は旅に出た。
別れた妻とは…………旅行くらい、人並みに行っていた。今度の旅は一人旅、いや独り旅。自由気ままに、記念でも目的もなく、好きにするさ。妻には不評だった、古いノッチバックセダンをピカピカにレストアして。
新調したのに出番の少なかったオーダーメイドのスーツ、気に入って買ったのに着る機会のなかった服、一度も使われなかった探検用のマグライト。もう防災用だと、つまらぬ言い訳は要らないのだ。
そうだ。…………書斎の本棚で、積んでいた本。話題の本や新刊じゃない、書店のワゴンセールで息を潜めていた、微睡み続ける古い文庫本。大して面白くはないのかもしれない。吃驚するような展開より、ブツ切れの幕引きな話かもしれない。居眠りしている期待の薄い本を何冊かパッキングして、ジップロックに詰めたら、鞄へ忍ばせる。
さぁ、出掛けるとしよう。
菊池武雄の旅『サウの白豚』
https://kakuyomu.jp/works/16818093084184636936
実況される菊池『読書実況①』
https://www.youtube.com/live/G1NEP61KA98?si=1-I78TLl8P0vDAKc
実況される菊池『読書実況②』
https://www.youtube.com/live/kdKg7VQK2Ts?si=UpxnS2bpP2oQ45tV
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