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ハロウィンナイトを楽しむぞ

「えええ、本当にエアとクローシェに変身の装飾品を外させて良いんですか?」
「ああ。だが今日のこの辺りだけだぞ」
「やったー!」
「ちょっと嬉しいですわね」

 十月三一日、渡たちは大阪の日本橋に来ていた。
 日本橋の裏通り、オタロードとも呼ばれる場所は、アニメグッズやパソコンパーツショップ、メイド喫茶などが建ち並ぶ一画だ。
 コスプレイベントが開催されたりと、オタク界隈の重要地点の一つだろう。

 今日はハロウィンということで、多くの人が仮装して集まっている。
 悪魔っぽいものやピエロっぽいものなど、ハロウィンにちなんだコスプレも多いが、中には全然関係がないコスプレも多く、ただ楽しめればよい、という緩い雰囲気だった。

 普段、エアとクローシェには変身の付与がかかった装身具を着けてもらっているとはいえ、人混みには連れ出しにくい、という問題は解決していなかった。
 耳はともかく、尻尾は見えなくできても存在をなかったことにはできないのだ。
 人との接触が増えれば増えるほど、存在が露見する可能性が高くなってしまう。

 当たり前の、素の自分を出しても大丈夫な場所が限られているのは、可哀想に思っていた。

 堂々と耳と尻尾を出したエアとクローシェは、その外見の美しさ、リアルさですぐさま注目を集めた。
 中には、うお、美人だ、ナンパしてえ、などという声も聞こえてくるし、あの尻尾動いてるけど、どうやって再現してるんだ、というコスプレイヤーの疑問の声も聞こえてきた。

 渡が一緒に歩いていなければ、あるいはその距離が密着するほどに近くなければ、すぐに声をかけられていただろう。
 エアが興味津々といった様子で、周りを見渡している。
 耳がぴょこぴょこと動いて、周りの音を沢山集めている。
 可愛いし、警戒もしていて偉い。

「なんか今日は変な格好の人が多いね」
「今日はハロウィンって言って、みんなが仮装したりして、集まる日なんだ」
「変わったお祭りですわね。どういう内容なのです?」
「元々は海外から来たお祭りだから、本当の意味で詳しく知ってる人はあまりいないな。こうして仮装して集まって、お祭り気分になるってのが一つ、元々はオバケに仮装した子どもが家を周って、イタズラされるか、お菓子をくれるか選べ、って周ったりもする」
「ああ、子どもたちにお菓子を配ったりする日なんですね」

 日本で七五三祝いにお菓子を配るように、恵まれない子どもたちを楽しませる、という風習は世界にあるのかもしれない。

「もしかしてグールとかに変身するんですの?」
「いや、幽霊になるって言った方がいいのかな」

 異世界にも実体のゾンビやグールといった存在の他に、霊体の幽霊、ゴーストという存在が通じるようだ。
 ところで吸血鬼はいるのだろうか。

 通りに出ている店を見てみれば、お菓子の販売をしているところがチラホラとあった。
 チョコバナナやトルコアイス、クレープなど、屋台で出しても違和感がまだ少ない洋菓子の屋台が並んでいる。

 せっかくだから色々と買ってみた。
 異世界では、日本ほど甘いものが発達していないから、どれもこれも珍しく美味しいのだろう。
 エアとクローシェが頬にチョコをつけながら、ムシャムシャと食べる。

「ん~! おいひー!!」
「エア、頬がチョコだらけだぞ」
「ニシシ、あるじー、チューして取って❤」
「なっ、おまっ! 人前だぞ」
「いいじゃん、はやくはやく!」
「し、仕方ないな……んっ……」
「わ、わたくしも着いてしまったようですわ! お、お姉様?」
「まったく、お前もか」
「んっ❤ もう、主様に言ったんじゃなかったのに」

 もごもごと何やら文句を言いながらも、まんざらではなさそうだ。
 そんなエアとクローシェの姿を、マリエルは微笑ましそうに見ている。

「マリエルは大丈夫そうだな」
「ええ。バナナのチョコは、んっ、こうやっへ、れろれろっへ、舐めひゃいまひたから」

 チロチロっと舌が艶めかしく蛇のようにバナナに絡むと、ぬっぷっと口腔に収まっていく。
 じゅるっと音がして、ゆっくりと原形そのままに抜け出された。
 ライトアップされているせいか、バナナの先端がテロテロと輝いた。

「んっ、甘くて美味しいっ❤」
「マリエルはコスプレはしてないけど、中身が淫魔そのものだな」
「まあ、ひどいです。イジワルしたくなっちゃいます」

 目を細めて渡の反応を楽しむマリエルは、傾国の美女と呼ばれてもおかしくないほどに妖艶で、淫蕩だった。
 これ以上はやめてくれ。
 ズボンの中で股間が膨らんで歩きづらくなってしまうじゃないか。

「ねえねえ、お姉さんたち、俺たちと一緒に飲まない?」
「結構です。行きましょう、ご主人様」
「ニシシ、ゴメンね。アタシたちもうお相手がいるの」
「おとといきやがれですわ」
「ごめんな。彼女たちは俺と遊ぶ約束なんだ」

 渡たちが一塊になって行動していてさえ、こうして話しかけられるのも、ひっきりなしだ。
 そして男連れだと分かると、恨めしい目で見てくるところも同じ。
 警備員や警察官が立っていなければ、もしかしたら絡んでくる者もいたかもしれない。

 オタロード自体はそれほど長くないが、ゆっくりと歩きながら、店を練り歩き、他の人のコスプレを見て楽しみながら、ゆっくりとした時間を過ごした。

 そして、その夜。

「私たち、あれから調べたんですよ」
「大人のハロウィン、はじめるぞー」
「うふふ、腰が立たなくなるぐらい、たっぷりイタズラしてさしあげますわ」

 メイド服を着たマリエル。
 猫娘ならぬ虎娘のエア。
 狼少女のクローシェが、目を光らせて渡の寝室に飛び込んできた。

 精力剤の備蓄がなくなるぐらいたっぷりイタズラされた夜だった。

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