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雪姫ヘアアレンジ沼SS

 そう、これは俺が初配信をする前の話――

 俺がTSしたその日のことだ。

 TS解除の情報収集のためにダンジョン配信活動をすると決め、自己紹介動画を撮る準備をしている途中、月音がこんなことを言い出した。

「お兄ちゃんの髪型、どうしようね?」

「髪型? このままじゃ駄目なのか?」

「駄目ってことはないけど……ダンジョン配信者ともなると、外見が大事だからね。似合うかどうかはもちろん最重要だけど、個性もあればなおよしって感じではあるよね」

「個性ねえ……」

 まあ、タレントみたいなものだと考えればそういうのも重要……なのか?

 漫画のキャラクターとかに近い考え方なのかもしれない。

 今の俺は後ろに流しただけの状態だ。鏡を見た感じ似合っているとは思うが、確かに個性的とは言えないかもしれない。

「というわけで、ここにリボンとゴムと髪留めその他もろもろがございます」

「準備早っ」

「さあお兄ちゃん、ヘアアレンジの時間だよ! まずはお嬢様風ハーフアップからいってみよう!」

「……まあ、月音に任せるって言ったのは俺だからな。で、
ハーフアップか。確か――」

 余談だが俺はヘアアレンジの経験がある。俺じゃなく月音の髪で、だが。月音はあまり器用ではないので、俺がやってあげていたのだ。そのうち何となく覚えてしまった。

 髪の上のほうを後ろで結んで、ちょっと崩す。耳の横のあたりの髪をねじりながら後ろにもっていってこれも結ぶ。後者で輪っかを作り、前者を外側に通して……

「こんな感じでどうだ?」

 自分でやるのは感覚が違うから不安だなぁ……

「か……」

 月音が固まったまま口から声を漏らした。

「か? あ、もしかして左右で結び目が傾いてたりとか――」

「可愛ぃいいいいいいいい――――!」

「可愛いって言うな。ちょっ、にじり寄ってくるな!」

「え、やばい可愛い。無理、直視できないかも。可愛すぎて後光が差してる。不安そうに髪さわさわしてるのも含めて天使すぎない?」

「天使じゃない! っていうかちゃんと見ろ! お前がやれって言うから恥を忍んでやったんだぞ!? きゃあきゃあ騒いでないでちゃんと判断してくれ!」

「ごめんほんと近づかないで! ハグしたくなるから! 抱っこしてベッドまで連れて行って朝まで一緒に寝たくなるから! あっ写真撮ろう! 一生残そう!」

「人の話を聞け!」

 パシャパシャパシャッ!

「勝手に撮るな! このっ、片手で俺を抑えるなー!」

 写真を撮られた。今の俺の体格ではスマホを奪えないので写真を消すことができない。

「はぁ……役得……」

「ぜぇ……はぁ……こ、この体弱すぎるぞ……」

「お兄ちゃん、疲れてるところ悪いけど次はツインテールでいこう?」

「……次はちゃんとジャッジしてくれよ」

 ツインテールはハーフアップほど難しくない。高さがどのへんがいいのか迷うくらいだな。

 髪を後ろで分けて、左右それぞれ結ぶ。……高い位置だと子供っぽいか? いやでも今の俺の外見ならむしろそっちのほうがいいのか? 昔月音にやってあげた時を思い出して、黄色のリボンを使って高い位置で結んでみる。

「とりあえずこのくらいで」

「可愛いぃいい――――!」

「だから可愛いって言うな。その場で飛び跳ねて喜ぶんじゃない!」

「何そのあざといツインテ! 初音〇クじゃん! 柊か〇みじゃん! 澤村・ス〇ンサー・英梨々じゃん! こんなの平成のオタク大歓喜でしかないよ!」

 さっきとリアクション一緒じゃないか? こいつ本当に優劣つけられてるのか?

「もういい、次だ。次いこう。あとでちゃんとどれがいいか聞くからな。他は?」

「一旦お団子いっとく?」

「お団子ね」

 夏はちょこちょこ月音にやってあげていたので一番手慣れているかもしれない。正面から見えないとよくないか? とりあえず上のほうに作ってみるかな。

「これで」

「かっわいい……夏っぽくていい……浴衣着てわたあめ持ってほしい……ブルーハワイかき氷食べてからちっちゃな舌べーってやって見せてほしい……」

 震えながらそんなことを言う月音。俺には言葉の意味が半分もわからない。

「次は?」

「ま、待って。もうちょっと鑑賞させて!」

 写真を撮ったりしみじみと息を吐く月音の心の準備が整うの待ち、次のリクエストへ。

 その後も低めのツインテールやら三つ編み+伊達めがねやらポニーテールやら編み込みやら色々試していく。つ、疲れる……!

 で、結局どうなったかというと――

「はー満足した。あ、お兄ちゃんの髪型は別に何も工夫しなくて大丈夫だと思うよ。銀髪ってだけで十分個性になってるし」

「は!?」

「いやー画像フォルダが潤ったなぁ……心の中のオタクが今年一番くらい盛り上がったよ……」

「……月音」

「なにー?」

「お前もしかして、ただ俺に色んな髪型をさせて遊びたかっただけか……?」

「うん!」

「お、お前……ッ!」

 満面の笑みで頷く月音。この妹、やりたい放題にもほどがあるだろ。




 ……結局もとの髪型のまま自己紹介動画を撮り終わったあと。

 自室に戻った俺は、ふと部屋の隅にある姿見を眺めた。

「月音、すごい騒いでたよな……」

 なんとなく、一番やり慣れているお団子ヘアを作ってみる。

 鏡を見る。

「……う、うーん」

 我ながら可愛い。
 そして困ったことに、ヘアアレンジがかなり楽しいのだ。

 髪型を変えるだけで、自分の印象ががらっと変わる。しかも今の俺は超美少女なのでどの髪型も似合ってしまう。

 俺は葛藤しながらもスマホで髪型の作り方を検索する。
 その中でまだやったことのないものを見つけ、やってみることに。

「…………違うから。これは月音がしてほしいって言った時の練習のためだから……」

 その後俺は自室で色んなヘアアレンジを試す癖がついていくことになり、数日後にそれが月音にバレて赤面するほどからかわれることになるのだが――それはまた別の話。

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