12/24
冬の早朝は、寒い。
僕____桜坂風磨はポストに新聞を入れながら思った。
吐いた息が白く、目の前を霞ませる。
潮風は容赦なく僕の赤いフードを靡かせた。
「そろそろコート…欲しいな…」
僕はぼやきながら借りた自転車にまたがる。
……正直、普段の格好だと凄く寒いのだ。
コートが欲しいけれど、安物でも高いのが現実。
マフラーか手袋でも十分あったかいはず。
それだったら買えるよな……。
またがった自転車の後ろのカゴには、まだ大量の朝刊。
___そう、今僕がしているのは、新聞配達のバイトだ。
地方バイト誌から申し込んだ朝刊配達の短期バイト。
僕は今とある目的でバイトをしているのだ。
そして、今日はバイトの最終日。
「よし、頑張らなきゃ!」
僕はペダルに乗せた足に力を込めた。
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「一万三千円……」
それが、僕が最終的にもらえた総額だった。
一週間の朝刊配達で、10000円ちょっと。
5で割ると、2500円くらい。
1日の労働時間も短いから、そこまで高い給金ではない。
けれども、僕にとっては結構なお金だ。
……少なくとも、“目的”は果たせるか。
お金の入った封筒をポケットに入れた僕は、町の中心部につま先を向けた。
目指すは洋服屋。
___そう、僕の目的は。
“サンタさんになること”だ。
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「よし、これで大丈夫……な、はず」
僕は5個の赤い靴下に、それぞれマフラーを入れた。
無論、それは僕の給金から買ったものだ。
「……あとは、夜中に配るだけ」
バレないように、それぞれの部屋の前に置いておく。
___コンコン。
準備が終わって気を緩めていた僕は、ドアのノック音に肩を震わせる。
「___風磨くん、夜ご飯の準備できましたよ~」
「は、はーい…」
ドアの向こうからしたのは、玲衣さんの声。
夕飯に呼びにきてくれたのだろう。
僕は靴下をベッドの下に隠すと、慌てて部屋の扉を開けた。
扉の前では、玲衣さんが手を擦り合わせて待っている。
……待っててくれたんだ。
「お待たせしました…遅くなっちゃって、すみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。
……でも、何してたんですか?」
彼女が首を傾げる。
「えっと……その……」
いきなり核心をつく質問。
僕は思いっきり目を逸らした。
そんな僕を彼女が覗き込む。
だが、すぐに小さな声を上げた。
「分かった、風磨さんもしかして、サンタさんに___」
あ、やばい……バレたかな?
観念した僕は目をつぶって、彼女の言葉の続きを待つ。
……だが。
「___お手紙書いてたんですね!」
「……ん?」
だが、彼女の発した言葉は、僕の予想の斜め上にすっ飛んでいった。
「手紙……?」
思わず聞き返した僕に、彼女は頷く。
「はい、今日はクリスマスイブですもんね!
欲しいプレゼントを書いてたんじゃないですか?」
「えっ、あ……え?」
もしかして玲衣さん___サンタさんをまだ信じてるのか!?
まるでその証拠のように、キラキラと輝く純粋な彼女の瞳。
「……玲衣さん、サンタさんは……」
「知ってますよ!
良い子のところに来るんですよね!」
少々食い気味な、彼女の言葉。
サンタさんの正体を言うこともできず、自分の目的を言うこともできず………僕は、ただ曖昧に笑うしかなかったのだった。
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12/25に続く。