「どぉもっ! 異端審問官リンゼイと」
「その護衛騎士のディーンでーす」
「「二人合わせて、『異端審問官リンゼイ&ディーン』! お前の原罪を数えろ!」」
「と、いうわけで、なんと三回目の登場!」
「いや、俺もびっくりだわ……。まさか、三回目……」
「今回はね、もうすぐそこまでやってきている『夏』を意識して……」
「意識して?」
「怖い話をテーマにしてみたいと思います!!」
「怖い話ねぇ。あんまり、俺、知らないや……」
「いいよね、夏と怖い話! 夏休みにさ。女の子と夜遅くまで遊んで……。
その帰り道、ちょっと怖い話なんかしてさ。
怖がる彼女がこう、僕にくっついてくるんだけど、夏だから薄着でさあ!
夏だから、薄着でさあ(二回目)!
肘にこう、胸が……。彼女の胸が……っ!!」
「いろいろ突っ込みどころ満載だぞ……。まず、お前にそんな彼女が存在するのか、ということとか、夜道で急に怖い話を始めた男とは、別れを決意するんじゃないか、とか、あと、お前の妄想が駄々洩れだ、ということとか」
「ということで、怖い話を知っているものは、夏を制する」
「……ふーん」
「まず、僕からするねー。これは、僕が住んでいる町営住宅のお話です」
「おお。コメント欄の件数が跳ね上がった、『町営住宅』な」
「うちの母のおしゃべり友達で……。仮にAさんとしようか。そのAさんの家の壁がね、とんとん、って鳴るんだってずっと。どうも、隣の部屋の人が、叩いているか、何かを当ててるみたいで」
「それは迷惑な話だな」
「そうなんだけど、Aさん結構我慢してたんだって。ほら、隣の人、でしょ? なんかこう、もめて人間関係悪くなったらさ。しんどいじゃん」
「わからなくもないけど……。Aさんもストレスたまるだろ」
「最初は夜の九時から数分だったから、終わると、ほっとしたし、そこまでストレスじゃなかったんだって……。なんか、掃除かな、って。掃除機の先が壁にこつこつ当たってるのかな、って。そしたら……」
「そしたら?」
「ある日、もう、ずーっと、こつこつ言ってるんだって。十分も二十分も」
「ふんふん」
「さすがに、もうこれは腹が立つ、って思って、Aさんは隣の家に苦情を言いに行ったんだけど……」
「うん」
「いないんだって、隣の家」
「ん?」
「留守で、電気も消えてて……。居留守とかじゃないんだって」
「……それで?」
「で、Aさん、自分の家に戻ったんだけど。音、やっぱり鳴ってるみたいで……」
「……どこから、鳴ってるんだ?」
「そこ重要っ!!」
「うわ、ビビったっ!! 急に大声出すなっ」
「Aさんもさ、これ、隣の家との壁が鳴ってるんだと思っていたけど、違う、ってようやく気付いてね。耳を澄ましてよく探ったら、わかったんだ。音が聞こえるところ……」
「……どこだよ」
「押し入れ。押し入れから鳴ってるんだって。で、そーっと開けたら……」
「良く開けるよな……。俺なら、開けない」
「見知らぬおじいさんが座ってて、『ようやく開けてくれた』って、にたーって笑ってたんだって」
「……確認するけど、町営住宅で行方不明になった徘徊の高齢者じゃないよな」
「違うよ。で、Aさん。うちのお母さんにね、『引っ越すことにしました』って挨拶に来て、この話をしてくれたってわけ」
「へぇ……。まぁ、怖いと言えば、怖い話かな……」
「じゃ、次はディーンね! なんかして!」
「俺? ……うーん。あんまり怖い話、知らないんだけど……」
「あるでしょ、なんか」
「そうだなぁ。あ、あれ怖かったな」
「はいはいっ。言って、言って!」
「王室主催の槍試合があったんだけど……。みんな、こう、防具をつけるんだよ。頭は、ヘルメットをかぶって……。まぁ、頭どころか、顔全面が覆われた、あの鉄仮面みたいなやつなんだけど」
「うんうん」
「で。次が俺の試合、ってときで……。見てたんだよ。槍試合、わかるか? 馬に乗ってさ。槍を水平に構えて、互いに突進して突いて。落馬したら負けなんだけど……」
「なんとなく、イメージはある」
「その試合で、Aという騎士が、Bという騎士のヘルメットの真ん前に槍をぶつけたんだ」
「……うん。え? でも、訓練用だから、尖端、鈍らせてるでしょ? ディーンだって、教練場じゃ、なまくら刀つかってるじゃん」
「そうそう。普通は、リング嵌めたり、尖端の丸い槍を使うんだけど」
「……ふ つ う は?」
「リングが途中で外れたのか、従者が間違って渡したのか……」
「……嫌な予感……」
「貫通。槍がヘルメットを貫通して、後頭部から先端が出てきて……」
「そんなえぐい話は違うよっ!」
「え? 怖いだろ? 俺達、めっちゃ武具を確認した。自分のも、相手のも」
「そんな怖さじゃなくてさっ!! ここでいうのは、『怪談』ってやつだよ! もう、ディーンはわかっちゃいないなっ! そんな話を女の子にしたら、『うわ、えぐっ』ってなって、僕の品格が疑われるじゃん!」
「さっきの、『とんとん押し入れ』もどうかと思うぞ」
「そんな略し方止めてっ! 『とんとん押し入れ』って……。ん……?」
「なんか、とんとん、ノックの音が……」
「……ここ、スタジオの貸し部屋なんだよね……。なんか、音が……」
「近づいてるよな……」
「ひぃ! とうとう、隣から聞こえるっ!!」
「ちょ、見てくる……」
「僕を一人にしないでえええええ」
「服を引っ張るな、服をっ!」
「ぎゃあ! 扉が開い……っ!? ……うん?」
「え……、っと。化学同好会の皆さん、ですよね……?」
「……あ。怪談だから、『ブロッケン現象』の実験を、準備してくれてたんですが……」
「いや、ちょっと、今……。もう、終わったところ、なんですが……」
「僕たち今から、『あっち』に戻るんで……。え。すぐ終わるから、見てけ、って?」
「……せ、せっかくだから。な。リンゼイ。見せてもらおう。な?」
「そう……、だね……。うん……。あ、向こうのスタジオ。……はい」
「じゃ、はい。あ。移動して……。行きます。ありがとうございます」
「ということで、今週の『異端審問官リンゼイ&ディーン』は終了です……」
「また、本編でお会いしましょう」
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