「骸骨と姫」
本当のあとがき。
わたしは、わたしが書いた小説は、すべて読んで下さった方のものだと思っております。解釈は、人それぞれ。もしそれがわたしの意図したものでないとしても、それは伝える力の無かった自分のせいだと思っております。
そして実に良く、「ふうむ・・・」と唸るような感想を頂きます。この話はそう捉えることができるのか、そう読めるのか、と・・・。それはとても面白くまた興味深いです。わたしが文字にして表せなかった雰囲気ですら感じ取って下さったりして頂けるのが皆様本当にすごいと思います。感想を書くのが苦手な身としては、とても尊敬します。また、わたしが暗喩しているものをズバリ当てて下さると、それもすごい!と思います。わたしの語彙の少なさ、文章の未熟さでよくぞ・・・。頭が下がります。
ええと、つまり何が言いたいかと申しますと・・・。
この「骸骨と姫」は、特に皆様一人一人の受け取るものが違うようでした。
わたしは、それが正しいのだと思います。上手く言えませんが・・・わたしが書いたものであっても、それがわたしの手を離れ、誰かの目に触れて「読まれ」た時に初めてそれは唯一無二のその人だけの「物語」となるのです。だから同じものを読んでいても、同じ「物語」など絶対にないのです。わたしはそう考えます。
前置きが長くなりましたが・・・だからわたしが今から書くことは、あくまで「わたしの物語」であって、皆様の物語ではありません。ふーん、といった体で読んで頂ければと思います。もしくは、このお話を気に入って頂いているのなら、以下はいっそ読まれない方が良いかと思います。
「骸骨と姫」より「さめない夢」の方を先に書きました。のほほんなお話が楽しかった。シリーズものとして、真面目な執事と純粋な姫の話を続けようとも思いましたが、わたしは物語を長編にしてしまうクセがあるので、潔くやめました。それにこの二つのお話は同時に公開したかった。喋れる骸骨と、喋れない骸骨、その二つのお話の違い。さめない夢が連載になっていたら、「骸骨と姫」の方はお蔵入りになっていましたね。
連載になっても、「さめない夢」の最期は、『おやすみなさい』で終わることにしていました。あれは、覚めることのない「夢」の話ですから。物語はおやすみなさいと終わっても、夢は永遠に続く。夢はいいものです。本人の望むままにうつる。現実として、姫と骸骨は、塔で手を重ね合ったまま、目覚めることはないにも関わらず。それは、姫が望んだうたかたの夢かもしれない。骸骨が切望した夢かもしれない。でもきっと、ふたりが共にみている夢なのでしょう。そういう心持ちで、わたしは「さめない夢」を書きました。
「骸骨と姫」は、姫が王子様じゃなくて、骸骨を選ぶところを書きたかった。わたしは王道よりずれた話が好きですから。姫と王子様が結婚してめでたしめでたしな話はもうお腹いっぱいです。骸骨側でも話を書きたかったんですけれど、それは本当に蛇足になるのでやめました。沢山考えたんですけれどね。
骸骨も姫のことをとてもとても大切に思っています。しかし骸骨であるが故に喋ることが出来なかった。姫が自分を邪険にされるのも、仕方が無いと思っていた。骨でしかない自分など、気持ち悪がられても仕方が無いと。慰めようにも上手くいかない。その涙を拭ってやることもできない。その美しい身に触れるなど以ての外です。お姫様のジレンマをわかりつつも、どうしょうもなかった。そんなある日、お姫様は青々とした空を見上げながら言います。「外に、いきたい」と。骸骨はそれを静かに聞いていました。お姫様が塔に幽閉されていたのはその身を守るためでした。しかしお姫様の身を狙うものももうありません。なによりこれから先お姫様を大事に守ってくれる隣の国の王子が、お姫様の居場所を探し当て、何度目かの開門に訪れているのを知っておりました。骸骨は自分の役目が終わったことを知りました。塔は絶対に王子には開きません。骸骨しか開けられないのです。しかして、門はひらきました。王子が逸る気持ちもそのままに、塔を駆け上がっていくのを、骸骨は見ておりました。姫が王子に連れられて、きょろきょろとあたりを見回しながら、塔から出て行くのを、骸骨は見ておりました。そうして日は落ちていきました。骸骨は、重い足を引きずるようにしながら、慣れ親しんだ塔の階段を昇ります。終わりは見えていました。塔を守っていた薔薇は見る見る間に茶色く枯れ果てていきます。鮮やかだったその花の色も、色褪せて頭を垂れます。しかし骸骨は満足していました。お姫様を無事に守り切り、そしてこの先、お姫様は塔に閉じ込められていたぶんも、王子によって幸せに暮らしていけると確信していたからでした。骸骨は、姫の部屋に入ると、どさりと腰を下ろしました。もう一歩も動くことはできません。勝手に姫の部屋に入ったことがわかれば姫は怒るかもしれませんが、もう姫がこの塔に帰ってくることは二度と無いでしょうし、自らの終わりを知っていた骸骨にとって、最期ぐらい望むところにいても、バチは当たらないだろうと考えたからでした。姫が好きでした。まだ骸骨が人間だった頃、姫がくれた花輪をとりに行こうとも考えたのですが、もうそれは骸骨には無理なことでした。ただ、ただ幸せであって欲しいと、願いながら、骸骨は二度と動かなくなりました。
・・・なんだかもうひとつお話かけそうですが、骸骨側はこんなお話でした。乱文ですがご容赦を。しかし姫は舞い戻り、ふたりはさめない夢を見続けるのです。
ふたりには、それ以上の言葉がいらない気もします。