空気がすっかり冷たくなり
木々も赤や茶色、オレンジ色に衣替えをする季節。
私も首もとが寒くなってきたのでマフラーを身につけています。
「さて、もうすぐですね…」
彼女は魔女であり旅人、いろいろな国や人と出会いながら
長い長い旅を続けています。
年齢はまだ若く、二十代前半。
灰色の髪は風に揺らされ、
瑠璃色の瞳は次の国へ向けられています
黒の三角帽子に黒のローブ、
星をかたどったブローチを身につけている
彼女は、広大な草原の上を草花を散らせながら
ほうきを走らせていました。
そこに人がいれば誰もが振り向いてしまう
美貌を兼ね備えた彼女は誕生日なのでした。
ところで、そんな特別な日に心を躍らせ、
頬をほころばせてる彼女は一体誰か、
そう……私です。イレイナです。
私、灰の魔女イレイナは友人に手紙を貰い、
ある国に来てほしいと頼まれ、
そこへほうきを向かわせていたのです。
さて、その友人とは?
1人は黒髪黒目の黒のマントを身につけ、
そして、私とまったく同じ黒の三角帽子にネックレス、
月をかたどったブローチを身につけている魔女。
もう一人は、1日で記憶を忘れてしまう過去をもつ、
さらりとした白い髪を肩のあたりまで伸ばし、
黒のカチューシャをつけ、翡翠色の瞳をしています。
格好は、白のローブに、黒のスカート、ロングブーツ。
腰にはサーベルを添えている女剣士。
そう、サヤさんとアムネシアさんでした!
ついでに、二人の妹、ミナさんとアヴィリアさんもいます。
国の門の前で待っているようで、
私も彼女らのところへ急ぎ、ほうきを降りました。
「お久しぶりです…皆さん」
私は帽子を取り再会を喜びました。
「イレイナさ~ん、早く会いたくてこの日が待ち遠しかったですぅ…」
「私もですよ、サヤさん。お元気そうで何よりです」
私はサヤさんと握手をし、次はアムネシアさんと思い
そちらへ向こうと…
「イレイナさん、姉さんは私の…」ぐいっ
そちらを振り向くと
サヤさんがミナさんの口を手で塞いでました
なにやってるんですか…。
「イレイナさん、久しぶり、早速だけど国の中へ入りましょうか」
アムネシアさんとも握手を交わし「そうですねぇ」と
足を進めようと…
「イレイナさん、お姉ちゃんは私の…」バチィッ
そちらを振り向くと
アムネシアさんがアヴィリアさんの顔に
手袋を思い切り投げつけていました
仲がいいですねぇ…。
ーーーーー五人で国に入り、大きな学校に来ています。
実はここ、一度来たことがあります。
王立セレステリア、王立魔法学校です。
この学校といえば…
「イレイナ、待っていましたよ、大きくなりましたね」
私の師匠、フラン先生でした。
「先生、お久しぶりです!」
「えぇ、胸はちっとも変わらな…」バシィッ
雑草を投げつけて差し上げました、はい。
「イレイナ、なにをするんです?」
「いえ、ちょっと戯れ言が聞こえたので…」
学校の中には今まで知り合った方々がいました。
筋肉さんにその妹、清潔さん、不潔さんと手品師の兄弟。
ミラロゼさん、ロベルト王子、ショコラ王女にロザミアさん
エリーゼさん、エイヘミアさん、ローグレドさん、ルシエさん
シャルロッテさん、ローズマリーちゃん、サビーネさん、
ゴブリンっぽいチワワさん、エステルさん、シーラさん、
ユーリィさん、マリーさん、アトリさんにヴィオラさん
クチナシさん、プリメリア王女にアヤメさん、アイリスさん
アネモネさん、ドロシーさんにシェリーさん、
こーくんと呼ばれる男とその母親、
マシューさんにローリーさん、フランクさん
ユースティアさんにジュリオさん、プリシラさん
インキュバスさん、アリアドネさんにセラさん、ヴィヴィアンさん
シャロンさん、ルイスさんにエルフリーデさん
ナターシャさんにルシェーラさん、アルテさんにリナリアさん
本当に懐かしさを感じる方々がそこにはいました。
「あ、お主ー、まっておったぞー」ルシェーラさん
「待ってたかも」アネモネさん
「王女さま!」「ロザミア!」ショコラ王女にロザミアさん
そして…。
「イレイナ、お元気でしたか?」
「はい、お母さん、相変わらずですねぇ…」
私の目には涙が浮かんでました
「イレイナ、おかえり」
「お父さん…ただいま戻りました」
私は家族と再会し抱き合いました
今日くらい涙を流してもいいですよね。
「それでは、皆さん揃いましたので、はじめさせていただきます!」
サヤさんとアムネシアさんがイベントの進行係だそうです
「では皆さん、カウントダウン10秒前!」
9…8…7…
全員がカウントダウンを数えます
6…5…4…
会場が一気に暗くなり
3…2…1…
スポットライトが私一人を照らし
0!の合図の直後
「イレイナ!お誕生日おめでとう!」
と拍手や口笛と共に一斉に言いました
「ありがとうございます…!」
渡しは一礼し手を皆さんに向けて振りました
さあ!イベントが始まりました。
本番はこれからです
2
何十人という方が、またはどなたが作ったのか…
高さ5mを超える7段ホールケーキに
一人ずつ火のついた蝋燭を順に差していきます
全員が差し終わると私はサヤさんとアムネシアさんに
連れられ、ケーキの前に立ちます。
「ではイレイナさん、火を息で吹き消しちゃってください!」
「はい」と言おうとしたのですが1つ疑問が
「こんな大きなケーキ。どうやって消すんですか。」
すると、アムネシアさんが
「いいから、だまされたと思ってその場で息を吹いてみて」
私は深く息を吸い込んで言われた通りその場で吹きました
すると、ケーキが回転してました
どうやら、台が回る仕様になっておりました
ちなみに回している人は筋肉さんでした。はい
もちろん1人で。
魔法でケーキを人数分に切り分け配ります。
「大きい…」
と唖然としながらもいただきますと言い
一口食べてみます
その瞬間仄かな生クリームの甘さが
苺の酸味と交わり口の中が幸せに満たされます
「美味しい…!」
どうやら話を聞くとこのケーキを作ったのは
こーくんのお母さんと私のお母さんと
アリアドネさんだそうです
3人でですか…凄すぎません?
そして時間はあっという間に過ぎていきます。
「それでイレイナさんは私とサヤさんどっちを選ぶの?」
アムネシアさんはぷくうと頬を膨らませました
「もちろん私ですよねイレイナさん!」
サヤさんは自信満々で言います
そして私は二人に言いました
「さあどうでしょうね、二人とも私の大切な友人ですから」
多少恥ずかしさを隠しながら二人に私の思いを告げます
「私もお二人のこと大好きですよ」
きっと私は今までにないくらい顔を赤面させていたことでしょう
さやさんとアムネシアさんは鼻血を出しながらそのまま後ろに倒れました
どうしましょう。
二人はそれぞれの妹に連れられその場を去りました
さて明日になったらまた旅を再開させないとですね
次はどんな国が待っているのでしょうか
次の日の朝
「イレイナさぁぁぁん!行かないでください!うわぁぁん」
やだと涙を流しながら抱きつこうとしてきたので避けて差し上げました。
バタン
そのまま地面に倒れました。はい
「イレイナさん、ここでお別れになるわね」
とアムネシアさん
「そうですね…」
「きっとまた手紙を出すから…読んでね?」
「ええ…」
「大好き」
「ええ…えっ」
いきなり何言い出すんですか
後ろでは二人の妹が羨ましそうにこちらを見ていました
他の皆さんとは少し話した後
それぞれ行くべき場所へ
帰るべきところへ…。
「それじゃあ、またねイレイナさん」
アムネシアさんはアヴィリアさんと手を繋ぎ
もう片方の手で私に手を振ります
私も手を振り返し
二人が遠いどこかへ飛んでいくのを見届けます
「ほら、あなたもミナさんとシーラさんが待っていますよ」
地面に伏せたままのサヤさんは「うぅ…」とうめきながら
たちあがります
「また会いましょうね!イレイナさん、絶対絶対また会いましょうね!」
「ええ…もちろんです、それまでのお別れです」
私はサヤさんの故郷の風習を見習ってサヤさんと小指を絡めます
それを最後にサヤさんはミナさんとシーラさんの元へ行きました
「さて、それでは私もいきますね」
残った3人の方へ振り向き言います
「ええ、またいつか帰ってきなさい」
「気をつけ…うぐっ…おぉぉぉぉ…」
お父さんは泣きだしてしまいました
「あなた、イレイナがお嫁に行くとき死にそうね」
「やめろ!今娘の結婚の話をするんじゃない!」
お母さんはお父さんの頭を撫でました
「先生もお元気で」
「ええ、イレイナもお元気で…私達はあなたの旅を心から応援していますよ」
フラン先生は私の肩にポンと手を置き言いました
「はい!」
そうして私たちは元の生活に戻っていきました
果てなく続く広大な草原を一人の魔女がほうきを走らせています
彼女は魔女であり旅人でした
年齢は二十代前半
昨日誕生日を迎えたばかりの少女。
灰色の髪は風に揺れ瑠璃色の瞳は
空と草原の境界線の向こう側へ受けられています
まだ見ぬ世界がある方向へとほうき向けて
次はどんな国でしょう?どんな人と出会うでしょう?
魔法使いの国でしょうか?
もしかしたら物価がやたら高いかもしれません
もしくは国自体が滅んでいるかも
そんなことを考えながら旅人は飛び続けました
そんな旅人とは、一体誰か
そう...私なのでした