YouTubeの概要欄で小説を発表しています。オリジナルの純文学、恋愛小説、ボーイズラブを書いています。 タイトルは『百年経っても読まれる小説の書き方』 https://www.youtube.com/channel/UCRPUTEZPFUEvKSI2IAaHBjw トップ5ビデオが全部が観られるプレイリスト https://www.youtube.com/watch?v=7hkgxafSOAk&list=PL4gh5DQAT3fJscrYjXZ12zSAi85GcoJ7M 私の掌編を御紹介。 『そんなことしたら寂しくて死んでしまう』 女って馬鹿ね。まだ諦めない。祈ってる。神様なんて信じてないのに。和光の前で心臓がガクって跳ねて、うずくまりたくなって、でもそれはできなくて、レオナには行く所がある。死ぬ前に。 レオナが崇拝するデザイナー。最期に覗きたかった。銀座の本店。閉店してるのは知ってて、でも閉店してなくても、レオナは中に入らなかった。シャネルスーツの金色のボタン。そこにスポットライト。 発光する金色。その上をなにかが回っている。そんなわけないのに、そんなことがレオナには時々ある。死んだデザイナーに死んだら会えるのかな? 自殺だと違うとこに連れていかれるのかな? 時雄(ときお)に宣告した。もう一度したら終わりだって。 レオナの父と母は、私をプリンセスみたいに育てて、欲しくても自分のものにならなかったのは、時雄が初めてだった。 時雄がその人といるのを見た。私には見せたことない笑顔。終わりだって言ったでしょ? 胸の骨が痛むほど泣いた。なんで泣いてたの? 私、なんで泣いてたの? 欲しいものはなんでも手に入るはずだった。 どうやって死ぬ? 飛び降りるのは怖いし、鉄道も怖いし、薬をウォッカと一緒に飲む? そうだ! 川に飛び込む。東京の川は汚そう。太宰の頃はきっと綺麗だった。 地方に行く? まだ楽勝に電車はある。相当遠くに行けそう。なんでわざわざ地方に行くの? ビルだったら東京の方がいっぱいある。 そうだ、樹海! あそこに行こう! 馬鹿ね。そんなことしたら寂しくて死んでしまう。って、死にたいんじゃないの? 無理よね。銀座にいたってこんなに寂しい。 警備員を見たら、あっちもこっちを見ていた。若造だし、頭が悪そうだったから無視する。人生の最期に見たいものを見る権利がレオナにはある。まだ金色のボタンになにかが回っている。なんだろう? 顔がウィンドーに触れるくらいで、実際、額がガラスにぶつかって、冷たさにさっきみたいに心臓がガクって跳ねた。 小さな夜汽車が回っている。その窓は眩しくて、人が乗ってて、薄っすらと煙を吐いて。それは五個ついてるどのボタンにもいる。『銀河鉄道の夜』を思い出す。宮沢賢治好きじゃないのに。ごめんね、宮沢賢治。 ゆっくり回ってる汽車にはたくさん人が乗っている。煙ももっと吐いている。そうじゃないのは、乗客が一人か二人。凄い速さで回っている。これで採算が合うのかな? 変な心配をする。学校の遠足みたいな人達がいて、膝に風呂敷で包んだお弁当を抱えて、嬉しそうで。 「Nice legs!(いい足してんじゃん!)」 金色のオープンカー。どっかの白人が私に叫んで口笛を吹く。うるさい。死ぬ時くらい静かにして。 でもレオナは人のこと怒れない。死ぬ時くらいはお洒落にしようと思って、一番短いワンピースを着た。 もうたっぷり見たかな? 死んでも後悔しないかな? 信号は丁度青だ。レオナは道を渡る。ステップは意外と軽い。 百貨店のウィンドー。そこに短いワンピースの女が映る。いい感じ。髪も完璧。「Nice legs!」。銀座らしい美人。振り返っても誰もいない……。なんだ! ハイヒールでジャンプして、ウィンドーの自分を見る。笑う、笑う。誰か私の笑いを止めて!人々は憐れんで私を避けて通る。 レオナは生きてる。人生は始まったばかり。なんだ! なんだ! 馬鹿な時雄のことなんて捨てる。笑うと胸が痛い。あんなに泣くんじゃなかった。 もう一度信号を渡って和光の前に戻る。五人くらい待ち合わせしてる人達がいる。私もその人達の仲間に入る。誰かを待っている魅力的な私。誰を待ってるの? 私、誰を待ってるの? 金曜日で夜は始まったばかり。男が立ち止る。トレンチコートの男。 「今、何時ですか?」 レオナは和光ビルを見上げる。男も一緒になって見上げる。和光の前で時間を聞くってどういう馬鹿? って思ってその人の顔を見る。クラーク・ゲーブル級の頬笑み。 「そうじゃなくって、君、誰のこと待ってるの?」 なんて言っていいのか。とりあえず黙る。よくハーフか? って聞かれるから、日本語が分からない振りをする作戦。 そしたらまずいことに、あっちは英語で応戦してくる。 「Excuse me. Who are you waiting for?(誰のこと待ってるの?)」 「……ここにいると、いいことがありそうだな、って」 ほんとのこと言っちゃって、恥ずかしくて、男はレオナに腕を差し出して、私はそれにつかまって、腕を組んで少し歩いて、知らない人なのに変で、あのブティックに戻って、夜汽車はまだボタンの上にいて、くるくるして、窓がさっきよりもっと金色で、元気な汽笛がいっぱい鳴って、みんなが歓声をあげてレオナ達に手を振ってくれる。 (了)
カクヨム運営公式アカウントです。