(※第二部 3-4話あたりのタイムライン上にありますが、ギャグなので整合性は微妙です)
早朝の練兵場にて。
「なに?」
デイミオンは、はっとして声を低めた。「タナスタス卿から返事が来た?」
「はあ」ハダルクは防具の手入れに気を取られていたが、いちおう上官である男に返答した。
「ですが、繁殖期(シーズン)の申し込みはお断りするようにと、先日言っておられましたでしょう? それで……」
「ば……馬鹿! タナスタス卿のお誘いをお断りする男があるか!」デイミオンは怒鳴った。
「急いで謝罪と取り消しの手紙を――いや、直接行ってきたほうが」
目に見えてそわそわする上官に、ハダルクはあきれたまなざしを送った。
「よろしいですけど、陛下にバレるとまずいのでは? それでなくても、繁殖期(シーズン)のことであまり心証がよくないようですし」
黒竜大公の目に動揺が走った。
「……私の〈呼ばい〉対策は完璧だ、おまえが黙っていれば済むことだ」
「浮気は感心しませんな」
「人聞きの悪いことを言うな。これは……視察だ」
*
こちらは、王の謁見室。
「なるほどね」
ふつふつと怒りを沸きたたせながら、リアナはひざまずく密告者を見下ろした。「デイミオンが。タナスタス卿と。デートと」
密告者、つまりテオは、いちおう善意の忠告をした。
「あんま追い詰めちゃダメっすよ陛下、そゆことすると、男は逃げたくなっちゃうもんスから……」
が、そんな男の都合に耳を傾けるリアナではない。午後の謁見予定を無理くりに午前に振り分け、さっそくデートを尾行する算段を立てはじめた。隣では、護衛(としか言いようのない役職)のフィルバートが、にこにこと事務作業を手伝っている。
不毛な調査はやめておいたほうがいいのでは、と言おうとしたテオだが、かつての上官の視線に凍りついた。戦場ではその目ひとつが突撃の合図ともなった、言葉よりも多くを語る目が、「よけいなことを口に出したらおまえの然るべき関節をはずすが、雨の日がわかるようになりたいか?」と言っていた。
いいえ、なりたくありません。ふるふる(首を振る音)。
そんな男の本性など知らないオンブリアの王は、
「言っておくけど。別に気になるからとかじゃないから」
と捨て台詞を残して自室に引きあげていった。
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