この『人の死を悼むにはあまりに美しい日』は伽藍さんの「T企画」のお題「読めない本」にそって書きいたものです、
企画に参加しようとは思っていましたが、このお題を見た時、「難しいな。書くのやめようかな」と正直思いました。だって「読めない本」というお題から想像できる話は限られている。
私の思いついた「中身が白い本、その正体は自分で物語を作り上げる本だった」というオチも、他の誰かが絶対に思いついているだろうし、被るだろうなと思いました。
そんな時、お題に「読めない本」を押したハニヒロさんの文が目に留まりました。
”自分と同じ疑問、つまり『共通のテーマ』を使って書かれた「他の物語」が、「自分の物語」と一体どれくらい違っているのか・・・・・・その「違い」が自分のと比較して分かると、自分の、そして相手の持っている『個性』というべきものが分かるようになると思うからです”
なるほど、テーマは同じでも、テーマが同じだからこそ、そこに自分の個性があればそれが際立つというわけです。つまりは例えオチが一緒でも、書き方によって自分の味が出せるということ。
そこで私は考えました。自分の個性を出すにはどうしたらいいだろうということです。
そして思ったのは、例えストーリー展開が同じになったとしても、キャラクターの個性、ストーリーの構成、会話文や地の文の言い回し。その辺りにセンスが出るかな、ということ。
とりあえず話の概要を書き終えた私は、それを元にいろいろ考えました。まずはキャラの個性。私はこの家族の設定をとにかく練ることにしました。
例えば本文中には全く出てきませんでしたが、お母さんの名前は「早川レイコ」で37歳。茶髪のボブカットで身長162cm、ホームヘルパーとして働いていて、ハーフなので若干派手な顔立ちだけどメイクは薄い。仕事にも家庭にも一定のポリシーを持って向きあう教育熱心な人、みたいな感じです。ちなみにお父さんは「早川ミノル」です。
後は文の節回しを色々変えました。最初は「ある日のことです。兄弟が留守番をしていると、お婆さんの遺品整理に出かけていたお母さんが帰ってきました」
という出だしだったのですが、平凡だと思ったので色々弄って今の形に変えました。
タイトルも初めは「白い絵本」だったのですが、推敲している内に出てきた「それは人の死を悼むにはあまりに美しすぎる日でした」という一文が気に入ったのでそれをタイトルにしました。
こんなに真剣に自分の文を見直したのは初めてだったので良い勉強になりました。
今までは奇抜なアイディアや人の考えつかないようなオチを付けようと頑張っていましたが、題材が普通でも、やり方次第で個性が出せるのだと分かり、今回の企画に感謝しています。
※追記
「T企画」の他の作品を読んでみましたが、みんな驚くほど内容がバラバラでびっくりしました。少しはオチが被るかなーとか思っていたんですが……人間の脳ってすごいですね。同じ「読めない本」というテーマでこんなにも違う作品が出てくるなんて!