「おう、待てや」
「へえ、なんだっか社長」
「オマエ、今週の土曜は空いてるな」
「まあ、そりゃ台風が来まっさかい現場も動きやしまへんが」
「ほんだらアレや、海開きの祈願祭行ってこい」
「アホいいなや、どこの世界に台風のさなか海を開くヤツがおんねん」
「それがおるんやな。行って好きなだけ眺めてきたらええわ」
「嫌ですわ、そんなもん。大体、行った所で給料は出るンでッか」
「アホいえ、どこの世界に祭りに顔出して金貰う土木屋がおんねん」
「おりますやんか。うちの顧問なんかは祭りに顔出して銭貰うんでしょ」
「……そら、顧問はあっちの筋の人やからな。とにかくオマエはボランティアで行ってこい」
「だから嫌ですって。オレ、なんも関係ありませんやん」
「そない言うな。あっこの河土砂な、浚渫してるやんか。あれが美味しいねん。オマエのボーナスが出るのもあの仕事があるからやぞ!」
「ほったらその現場のモンやればよろしいやん。なんでオレやねん」
「あそこから誰を出すいうねん。余所から借りてる代理人以外ベトナム人しかおらんぞ。来られた方も困るやろ」
「知らんって。現在進行形で困ってんのオレやん。もう帰りたいんやけどそろそろいいですかね」
「行く、言うまで帰すかい」
「ほな、残業申請しまっせ。社長が帰さんのやから」
「細かいやっちゃの。そんなもん認められるかい!」
「ほなオレかてボランティア命令みたいなふざけたもん聞けるかい!」
「なんじゃい、その口の利き方は。クビにしたるぞ!」
「おう、バッサリ切ってみいや。このご時世土木屋が仕事に困ることあるかい!」
「ホンマ、口ばかり立ちくさって。オドレを海に投げ入れて安全祈願したろか!」
「そんな気概があるんやったら最初から自分で行けや!」
みたいな会話は一切なく明後日、最寄りの海岸で安全祈願祭に参加してきます。
波にさらわれないように祈っていてください。