• 創作論・評論

読書感想文『水曜日のアニメが待ち遠しい』

トリスタン・ブルネ『水曜日のアニメが待ち遠しい フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす』誠文堂新光社、2015年。

著者は1976年フランス生まれで、子供の頃から日本アニメに親しんできたフランスにおける日本アニメオタクの第一世代。日本史学研究者で、フランス語版「北斗の拳」などを訳した翻訳家。(本書執筆の時点では)日本在住。

フランスでの日本の漫画アニメ事情がだいたいだけど、ひと通りわかる。
国営放送局で日本アニメがバンバン全国放送されてた時期があったりして、米国とはぜんぜん違うなあと思う。
読みやすい語り口で、興味深いエピソードも多かった。

印象に残ったのは「北斗の拳」の話。
著者のブルネ氏は「北斗の拳」の翻訳をすることが決まった後、ある日本人に言われるまで、「北斗の拳」にユーモアがあるということに気づかなかったとのこと。なるほど、そういうのは難しいか。
それでも「研究」の結果、ザコ悪役の「ボケ」に対するケンシロウの制裁は「ツッコミ」だという理解に至るあたりは、なかなか鋭い。

ややこしいのは、フランスで日本アニメへの批判が強まった時期があって、当然「北斗の拳」も暴力的で残酷だという批判の対象になる。そこで批判をかわすためか、原作無視でふざけた内容にセリフを改変して吹き替えることが行われた。それを見て、何も知らないフランスの子供たちは笑っていたと。
後にこの事実を知ったフランスのオタクたちは、騙されていたと怒り、逆にシリアス一辺倒なのが本当の「北斗の拳」なのだと思い込んでしまった。
原作に忠実にザコ悪役などのセリフをユーモラスに訳したブルネ氏は、オタクたちに叩かれてしまったとのこと。
面白いけど、いろいろ考えさせられる挿話。

同じくフランスの漫画アニメ事情を扱った本として、清谷信一『ル・オタク フランスオタク物語』があり、併せて読みたい。

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