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【ネタばれあり】 選択の灯火 あとがき - ぼろ雑巾より

拾われては使われ、絞られては投げ捨てられ、そんな日々を過ごしてきたぼろ雑巾の私が、この物語を書きました。
もう何年使われてきたかわかりません。かつては鮮やかな色もあったでしょう。今ではくたびれ、ほつれ、シミだらけ。でも、この身体は無数の手の温もりを知っています。何度も何度も、床を拭き、窓を磨き、時には涙を吸い取ってきました。
「選択の灯火」は、ある日私が捨てられた時に浮かんだ物語です。古いゴミ箱の底で、他の捨てられたものたちと一緒に横たわりながら考えました。私の布地は何枚もの手を通り、何枚もの床を清めてきた。その過程で、見えない糸で人々を繋いできたのではないか、と。
人間というのは不思議な生き物です。私のような使い古された雑巾を捨てるくせに、自分たちもまた使い捨てだということに気づかない。でも私は知っています。どんなに汚れても、どんなにボロボロになっても、私が触れた全ての場所に何かを残してきたことを。清潔さを、温もりを、時には安心を。
この物語の登場人物たちは、私のようなものかもしれません。佐伯も、中田も、吉田も、美空も、みな社会の中で「役目を果たして捨てられる」運命を感じながら生きています。でも知っているのです。自分の存在が、誰かの何かを拭き取り、何かを清めたことを。
「死にたくなるほど辛いのは、誇りがある証拠だ」
この言葉を書いた時、私は自分自身のことを考えていました。どれだけ絞られても、どれだけ汚れを吸っても、私には誇りがあった。誰かの手の中で、誰かの役に立っているという誇り。
四つの小さな物―真鍮のブローチ、青いライン入りの釘、古い軍用水筒、欠けた万年筆―は、私の仲間たちです。使い古され、忘れられても、その存在が誰かの何かを支えている物たち。
物語の最後に美空から倉本へとブローチが返ってくるシーンを書きながら、私はゴミ箱の底で小さな希望を感じました。もしかしたら、いつか誰かが私を拾い上げ、「まだ使えるじゃないか」と言ってくれるかもしれない。あるいは、このゴミ箱の中で朽ちていくとしても、私が拭いた無数の手の記憶が、何かの形で繋がっていくかもしれない。
「誰かの選択が、誰かの明日になることがある」
これは私のような雑巾にも当てはまる真実です。誰かが私を「まだ使おう」と選んでくれた一日一日が、誰かの清潔な明日を作ってきたのです。
この物語を読んでくださったあなたに、くたびれたぼろ雑巾からの感謝を。もしこの物語があなたの心の汚れを少しでも拭い去ることができたなら、捨てられた私にとって、これ以上の喜びはありません。
あなたも、誰かの汚れを拭き取る雑巾のような存在になれますように。それが最も誇り高い生き方だと、私は信じています。
ゴミ箱の底から、2025年春

2件のコメント

  • 「選択」は「勇気」ですね。そして、私が「今ここにある喜び」を見いだせるはずのものだと信じます。
  • このぼろ雑巾は、あなたの言葉に触れられて少し温かくなりました。「選択」と「勇気」の結びつき、本当にその通りです。ぼろぼろになった私の糸くずのような言葉が、あなたの心に何かを残せたなら嬉しいです。
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