『異世界会計士』を読んでいただき、ありがとうございます。
本日、第3章「高報酬クエストほどパーティが貧乏になる件について」を完結まで投稿しました。
※第3章の内容に軽いネタバレを含みますのでご注意ください。
▼作品ページはこちら
https://kakuyomu.jp/works/822139841882681628■金貨30枚の討伐が、「飲み代ちょっと」に化けるのはなぜ?
第3章の出発点は、かなり単純です。
「金貨30枚の高報酬クエストを成功させたのに、財布に残るのは小銭だけ」
売上(報酬)は派手なのに、なぜか資金繰りはいつもギリギリ。
実際にもよくある話ですが、原因は“出ていくお金の構造”が見えていないからです。
そこでアラタが持ち込んだのが、管理会計の基本――
・固定費(息をするだけで消える金)
・変動費(仕事をすると増える出費)
という分け方でした。
■固定費と変動費:まずは「息をするだけで消える金」を可視化する
まず、グラスホークの毎月の支出をざっくり分解します。
・部屋代・宿代(毎月必ず)
・倉庫代や装備置き場
・ギルド登録料・年会費の月割り
・最低限の食費・雑費
大事なのは、「クエストを受けたかどうかに関係なく」出ていくお金。
これが固定費です。
第3章では、ざっくり月に金貨15枚分、というところまで数字で出しました。
逆に、
・ポーション
・矢・ボルト・投げナイフ
・遠征の追加消耗品
・修理費
みたいに、「戦えば戦うほど増えるお金」が変動費です。
■「儲け」を出す式は1行で足りる:限界利益(=残り)を見る
ここからが、第3章の核心です。
クエストの儲け = 報酬 -(その仕事のために増えた出費=変動費)
この「報酬 - 変動費」の部分を、管理会計では「限界利益(contribution margin)」と呼びます。
(作中では読者の読みやすさ優先で「残り」と表現しています)
たとえばロックリザード討伐。
・報酬:金貨30枚
・変動費:ポーション・修理・移動費など合計で金貨27枚
・残り(限界利益):金貨3枚
30 - 27 = 3
数字にすると残酷ですが、「一発当てた!」の実態が見えてしまいます。
一方で、地味な仕事。
・薬草採取:報酬 金貨1枚/変動費0 → 残り(限界利益):金貨1枚
・村への護衛:報酬 金貨3枚/変動費銀貨5枚 → 残り(限界利益):金貨2枚半
(※本作では銀貨10枚=金貨1枚換算)
ここで言いたいのは、シンプルに以下の内容です。
「報酬が高い仕事」と「手元に残る仕事」は一致しない。
大事なのは見た目の売上ではなく、限界利益(残り)。
■CVP(損益分岐点)的に考える:固定費15枚を超えないと“詰む”
固定費が月15枚あるなら、まずは
「月に限界利益(残り)を15枚以上」
を作れないと、理屈の上でも現実の上でも詰みます。
これがCVP(Cost-Volume-Profit)でいう“損益分岐点っぽい発想”です。
第3章では、「派手だけど残りが少ない討伐を全部やめろ」ではなく、現実的にこう整理しました。
・まずは護衛・採取など、変動費の小さい仕事で固定費15枚を確実に確保する
・その上で、討伐系の大仕事は月に件数を決めて受ける
(名誉・ランク上げ・宣伝費=必要経費として割り切る)
■1か月後:数字で見て、ちゃんと“残った”
そして実験の結果。
グラスホークの1か月の総まとめは――
売上:金貨45枚
- 変動費:金貨20枚
= 残り(限界利益):金貨25枚
- 固定費:金貨15枚
= 手元に残るお金:金貨10枚
さらに前借り返済(“感謝の上乗せ”込み)をしても、袋には金貨が残り、
「新たな前借りなしで月を越えた」という小さな勝利につながりました。
派手な一発ではなく、来月も戦える余裕を残す。
第3章で描きたかった「管理会計の面白さ」は、まさにここです。
会計は“過去の記録”だけでなく、生き延びるための意思決定の道具にもなるのです。
次回からは新章「忙しいのに儲からない工房」が始まります。
忙しく働いているのに金庫の金が減る――現場あるあるを、別の角度から掘り下げます。
引き続き、応援よろしくお願いします!
(画像)
リーダーの女戦士アイナ、盾役のバルグ、弓のメリス、魔術師リオットの4人組冒険者パーティ「グラスホーク」