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【ご当地怪談企画不参加作品】『懐古堂のカイコさん』

 ふとした思い付きで、Twitter(現X(って書いてみたかっただけ))に6ツイートで綴ってみたものです。


『懐古堂のカイコさん』

 名古屋は大須、商店街のメインストリートを逸れた一画に、潰れて久しい骨董店がある。
 煤けたようなモルタルの外壁に『懐古堂』という屋号も掠れた、その古い無人の店内からは、時おり女の忍び笑いが漏れ聞こえてくるという。


 大学生風の若者が一人、店をきっちり閉ざす錆び付いたシャッターをすり抜けて、どこかへ消えてしまったらしい。
 かと思えば小一時間後、彼は両手に何かの包みを抱えて同じ場所から姿を現したそうだ。
 不審に思った人が問いかけると、彼はこう答えた。「ただのバイトのお遣いです」と。


 包みの中身を訊ねれば、古い本なのだと言う。
「処分を頼まれて。いえ、薄いものが多いんですよ。多少分厚いのもありますけど。紙が随分と擦り切れて…いや、割と初めから腐ったものだったみたいです。僕には価値が分からないんで…」
 いまいち要領を得ない説明を残して、若者は行ってしまったらしい。


 噂によれば、その店の奥には腐敗したナニカが棲みついているという。
 真相を確かめるため足を運ぶと、小径の端に和服の女がひとり佇んでいる。
「『カイコさん』に気に入られんようにね」女はひそやかに咲う。「あんたも腐ってまうよ」
 わずかに目を離した隙、女は忽然と姿を消してしまった。


 今度は長身の男がやってきた。彼はこちらに気付き、大仰に肩をすくめる。
「やれやれ、好奇心は猫をも殺す。『カイコさん』に会いたければ、正当な手順を踏むべきだ」
 どういうことかと問おうにも。

「【君は何も見なかった】。いいね」

 気付けばひとり小径の端。手の中には見覚えのない名刺が一枚。


 そこにはレトロなフォントでこう印字されている。
『樹神探偵事務所』
 検索すれば、怪異関係の困り事を専門に調べる探偵らしい。
 ……。
 なぜ自分はここにいるのだろう。こんな【誰も通らない道】に。
 『カイコさん』という名前だけが頭の中にある。
 立ち去る背中で、女の忍び笑いを聞いた気がした。




 はい。
 どうもこんばんは、4年ぶりに子連れで市民プールに行ってヘトヘトの陽澄すずめです。猛暑がひどすぎて子供が学校から持ち帰ったミニトマトも瀕死です。

 さて、今ちょうど公式自主企画でやっているイベントからヒントを得て、Twitter(現X)で書き散らしたものを載せました。敢えて作品として出すほどのものでもないので、ここで。これだけじゃ、さしてご当地感もないしな。
 1ツイート140字のまとまりで簡潔にストーリーを書くの、なかなか難しいですね。
 この語り手の人が『樹神探偵事務所』の扉を叩くかどうかは、また別の話です。


 新作は、現在第2稿を75%くらいまで完了しました。
 例年と同じように9月半ばごろから連載スタートして、そのままカクヨムコンに突っ込むことになろうかと思います。

 新作は、なご幻シリーズと同じ世界線の話です。樹神先生と同業者の女性を主人公にしています。
 ジャンルも形式も同じですし、まぁ同じ感じで読んでいただけるんじゃないかなーと思います。
 何より、久々の女主人公。いかにも私の作品らしい強い女に仕上がってきています。
 Twitter(現X)では先んじてイラストも出しましたが、今度は男女バディです。イケメンお姉さんと可愛いチャラ男くんの組み合わせです。

 また連載の準備が整いましたら、こちらでお知らせしますね。

 まだまだ暑い日が続きますので、みなさまご自愛くださいませ。

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