「焼き肉美味しいですね」
「美味しいね」
「あは。最近めっきり寒くなったので、より美味しさが沁みる気がします」
「焼き肉はいつ食べても美味しいですよ」
「また随分と風情のないことを言うね」
「風情より風味です」
「うまいこと言ったつもりですか?」
「焼き肉だけに、ですかね」
「焼くぞ」
「なんと!? あ、そうだ! 寒くなったといえば、今年ももう終わりなんですねぇ」
「こいつ露骨に話題逸らしたぞ」
「いいじゃないですか! それより、紅葉もまだなのに気温ばかりが冬っぽくなっていって。『食欲の秋』が短いのは紡さん的にもよろしくないのでは?」
「それにはどうこう思わないね。陰陽師は天を読み星を読み暦を読み。森羅万象Cosmicを紐解く生業だから、わりとその辺チャチャッとイタズラはできる。でもだからこそ、それだけの力をもって『都合よく弄る』のではなく『良いように乗りこなす』。あるがまま来るがまま、ピュアでニュートラルにオサメしむるのが矜持だから」
「紡さんの話って、文字数と意味不明さが比例しますよね」
「なんだと?」
「ヒョエッ!」
「たしかに四季が曖昧なのは寂しいですけど、本作の連載が始まったのは5月で終わったのは11月。春とも夏とも言え、秋とも冬とも言えなので、こういう気候も悪くないかもしれません。陰陽交わる陰陽師ですから」
「つばきちゃんナイス助け舟です!」
「ナイスだけどメタすぎる。岡野玲子氏の『陰陽師』か」
「それは知りませんけど、そうなると私の愛と勇気の大冒険が終わって一年経とうかってところなんですね」
「あは。その一周年ではなく、このタイミングで小噺という」
「桃子ちゃん、この子メタに味しめたから肉突っ込んで黙らせて」
「はいはい。でもそうかぁ、一年ですかぁ。あの時は私が二十四才。紡さんが一個上って言ってたから、そろそろアラサーの領域ですか?」
「おおお、また少しずつ若さを削り取られていく」
「紡さん紡さん、そこの永遠童女が勝ち誇った顔してますよ」
「……今日のところは見逃してやろう」
「私との扱いの差がヒドい」
「それにしても、桃子ちゃん当時二十四才かぁ」
「はい。若くてピッチピチ」
「それはちょうど良かったんだね」
「は? 何がですか?」
「二十四、つまりは十二の二巡目だからね」
「それが何か」
「十二という数字には、『一巡』『ワンセット』『一区切り』の強力な『呪』がある」
「うわぁ! 勘弁してくださいよ! せっかく眠りについたトークだと思ってたのに!」
「一年が十二ヶ月、干支も十二支、星座も十二宮。我らが陰陽道の六壬神課における十二天将」
「あは。ビールも酒屋さんで一ダースの十二本入りが売られてますね」
「十二テンションはなんかプロ野球球団の再建でどうたら言ってましたね。十二もいろいろちょうどいいんですね。へー」
「そう。とてつもなくちょうどいいのさ。ここは分かりやすく、信長愛用で有名な『幸若舞 敦盛』の“人間五十年”で考えてみよう」