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昨日見た夢の話

 勝者の泉と幸運の泉いう場所がある。
 その泉には不思議な加護があり、勝者の泉にはどんな者も勝者へ導く力があり、幸運の泉にはどんな者も幸運を与える力があるのだ。

 となり合ったこの泉にはそれぞれ泉を守る守護者がおり、それぞれ泉の加護を得ようとする人々が争いを行わないように管理している。

「なぜだ……」

 勝者の泉の守護者が独り呟く。

「なぜ我が泉には客が来ない」


 そう勝者と幸運の泉。それぞれ様々な客が訪れその加護を得ようとするのだがどういう訳か幸運の泉にばかり客が来る。ある者はいう「ここでガチャを引いたら10連でSSRが2枚出たと」またある者はいう。「ここでオンラインカジノをやったら勝てたと」

 そう幸運とは時に勝者を生む。それゆえ多くの者は幸運の泉を訪れているのだ。しかしそれを勝者の泉の守護者は面白くないと考える。


「どうにか客を増やせないだろうか」


 そうして思考錯誤が始まる。もっと美味い料理で客を釣ろうと以前から振舞っていた料理にさらに力を入れ、屋台を作った。出来るだけ過ごしやすい小屋を作ろうと日曜大工に励んだ。
 しかし一向に客はこない。勝者の泉だというのに、幸運の泉に負けている時点でもはや名前負けなのではないかと真剣に悩んでいた。そんな時だ。


「兄さん」
「弟か」


 幸運の泉の守護者だ。そう彼は勝者の泉の弟であり2人は兄弟である。

「もういいだろう。そんなに意地を張らないで一緒に力を合わせよう」
「そうもいかん。勝者の泉の守護者としてこのまま弟に負け続けるのは流石に納得できんのだ」


 以前より弟である幸運の泉の守護者は兄と一緒に泉の経営をしようと持ち掛けていた。
 そしてそれは決して一方的な搾取ではない。あくまで守護者は兄であるとし、弟である自分は料理番でもさせてくれればいいと言っているのだ。

 だが兄は納得できなかった。弟に負けているという事実を受け入れらずどうにか自分の力で失った客を取り戻そうとする。


 だがいくら試行をこらそうと離れた客は戻らない。がらんとした自らの泉を見て兄である守護者は静かに涙した。
 自分には決定的に才能がないのだと。もうすべてを弟に任せ自分はどこか誰も知らないところへ行こう。そう考えた時、必死に形相をした弟が止めにはいった。


「兄さん! 何を馬鹿なことをしようとしているんだ!?」
「離してくれ。この泉はお前に任せる。俺には向いてないんだ……」

 すべてを諦めた勝者の泉の守護者は達観した様子でその場を後にしようとした。だがそれでも弟は必死に止める。そして――幸運の泉の守護者は語りだした。兄にはどうしても話せなかった泉の秘密。


「聞いてくれ兄さん! 幸運の泉なんて……本当はないんだ」

 弟の突然の独白に兄は困惑する。何を急に言い出すのかと。震えている弟の肩に触れた。


「元々この場所にあるのは勝者の泉だけ。幸運の泉はただ勝者の泉の加護を受けているだけの場所に過ぎない」


 幸運の泉なんて存在しない。その言葉を何とか理解しそこでふと気づいた。客が消え、焦っていた兄は今まで気にしたこともなかったのだ。


 そう兄自身幸運の泉へ行ったことがないという事に。

 いやそれどころか自分は泉の守護者であるため泉から離れる事が出来ない。だからこそ次の守護者を弟に指名する事でその役割をやめようと思った。ではなぜ弟は自由にここへ来れるのか。


「なら何故客たちは皆そちらへ行くんだ?」
「落ち着いて聞いてほしい。これは兄さんには酷な話かもしれない。でも受け入れてほしいんだ。元々僕は兄さんの邪魔をしない程度にここから少し離れた場所で屋台を経営してたんだ」


 そうして語りだした弟の話は兄には信じがたいものであった。


 弟は屋台を経営し始めてから何故かすぐに客が列を出すようになったという。最初は喜んだ。だがあまりに異常な数の客がこちらに来ている。だからテーブルを作り椅子を作り、大人数の客をさばけるように努力した。

 そうして夢中で料理を作っていたある日、聞いてしまったのだ。



「兄さん。――勝者の泉で提供されている料理が不味すぎるんだ。だからみんな真面なご飯を食べたくてこちらに来てしまった。そして泉の加護が僕の方まで届いてしまったために、いつのまにか泉もないのに幸運の泉なんて呼び名が広まったんだ。だから兄さん。僕にそっちで料理をさせてくれ。そうすれば全部丸く収まる!」


 勝者の泉の守護者は自分の料理に自信があった。この泉に訪れる客に振舞い喜んでもらえるのが生きがいでもあった。まさかそれが足をひっぱり客足を遠ざけていた要因であったとしり、声を出して泣いた。






 という夢を見ました。
変な夢みたなぁ。

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