本日は『おっさん』の本編と同時に、こちらの近況ノートも更新しています。つまり、二話分投稿しているわけですね。すごい!(自画自賛)
それはともかく、時系列としては第二章「渦中の街 イナカーン」に当たります。まだ第一章をお読みでない方はご注意くださいませ。
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リンム・ゼロガードはイナカーンの街の外れの平地で孤児院の子供たちと一緒に|球蹴り《サッカー》をしていた。
それは帝国の祖を築いた英雄ヘーロスが本土から持ち込んで、この大陸で普及させた球技《スポーツ》の一つで、冒険者がパーティーを組む際に連携を高める為のちょっとした遊びとして親しまれてきた。
だから、冒険者を目指すことの多い孤児院の子供たちには、球《ボール》一つで楽しめるので人気があったし、今も男子と女子に分かれて、受付嬢のパイ・トレランスが審判を務めながら試合形式で遊んでいた。
ちなみに、ヘーロスは野球にも詳しかったものの……なぜかそちらは|人死に《・・・》が多いことから忌避されたらしい……
「あーあ! リンムおじさん! 強く蹴りすぎー!」
しばらくして、子供たちの罵声が平地に響いた――
とて、とて、ごろごろ、と。球がずいぶんと転がっていって、遠くにいた二人組の足もとに落ち着く。
法国の第七聖女ティナ・セプタオラクルと、王国の神聖騎士団長スーシー・フォーサイトだ。どうやらリンムが子供たちと遊んでいると聞いて、街外れまで一緒にやって来たらしい。
もちろん、孤児院出身のスーシーにとって球蹴りはよく知ったものだったので、
「返すよー!」
と、声を上げて、球を蹴り上げた。
直後、バナナのように鋭いカーブを描いた球が――受付嬢、もとい審判パイの足もとにピタッと収まると、子供たちは一斉に歓声を上げた。
「すっげー!」
「スーシー姉ちゃんも一緒にやろ! 俺たちのチームね!」
「あ、ずっこい! 姉さんはわたしたちのチームよ。男子は男子同士、リンムおじさんと一緒にやればいいじゃない」
「えー! おじさんより、姉さんに教えてもらたいよおおお! ぶー! ぶー!」
そんなこんなでスーシーは大人気となって、すぐに取り合いが始まったわけだが……ブーイングを受けてしょんぼりとなったリンムのもとには、すかさずティナが近づいた。
「安心してください。おじ様のチームには私《わたくし》が馳せ参じますわ」
「それはとてもありがたいのだが……そもそも、ティナは球蹴りをやったことがあるのかね?」
「もちのろんですわ!」
ティナはそう言って、胸をぽんと叩いて目を輝かせたものの、すぐにスーシーが「ダメダメダメ!」とやって来た。どうやらティナに球蹴りをやらせたくないようだ。
「いったい……どういうことだね?」
当然、リンムがこっそりとスーシーに尋ねると、
「この娘《こ》が『全ての男根の殲滅者』の二つ名を持っていることは義父《とう》さんだって知っているわよね?」
「ああ、もちろんだとも……だが、それは社交界で第四王子様をぐーで殴ったときに広まった誤解だったはずではなかったかね?」
「実は、そうとも言い切れないところがあるの」
「ま、まさか……」
「ええ。そのまさかよ。ティナにとって球蹴りとは文字通りの玉《・》蹴りなのよ!」
その瞬間、リンムは股間のあたりがひゅんとなった気がして、つい身悶《みもだ》えた。
「とりあえず、ティナに球を蹴らしたらダメよ。そうね……やらせるなら、せいぜいゴールキーパーあたりがいいんじゃないかしら?」
「ついでに男子チームに入れておこうか。相手が女子ならば、さすがに玉は蹴らんだろう?」
こうしてリンム率いる男子チームと、スーシー率いる女子チームに分かれて、試合が続行されることになった。
さすがに男子が圧倒するかと思いきや、まだ子供たちの体格ということであまり差は出ずに、むしろエースのスーシーの活躍もあって、鋭いシュートがすぐにゴールを襲った。
が。
「聖防御陣!」
ティナはよりにもよって最高位法術を展開してゴールを守った。
直後、ピイッと審判パイの笛が鳴る。パイは懐からイエローカードを取り出しかけたが、リンムが急いで駆けよって嘆願する。
「待ってくれ、パイ。カードならば俺に出してくれ」
「しかし、法術を使ったのはキーパーのティナさんです」
「いや。これは……説明をしっかりとしていなかった俺の責任だ」
当然、リンムだけでなく、男の子たちもパイのもとに集まってきて、
「そうだ。リンムおじさんがわるい」
「うん。ティナ様は悪くないよ。そもそも、頭がおかしいんだからさ」
「そうだそうだ! むしろ、いきなりそんな聖女様に向けてあんな凶悪なシュートを放ったスーシー姉ちゃんだって十分に悪い」
「とりあえず、リンムおじさんとスーシー姉さんにカードだよな」
そんなふうにわらわらと意味不明な責任転嫁を求めてきた。
女の子たちはスーシーを庇ったものの、当のスーシーが「仕方ないわね」と、リンムと一緒にカードをもらって喧嘩両成敗とし、改めてティナのもとに行って最初は口頭で……最終的には羊皮紙の束に幾つかルールを記して渡してあげた。
「理解しましたわ。これからは十分に注意いたします」
ティナはそう言って、皆にしっかりと頭を下げたことで事なきを得た。
とはいっても、さすがに女子側にフリーキックが与えられた。キッカーはスーシーだ。先ほどのバナナみたいな曲がりでもって、蹴られた球はティナの守るゴールに襲いかかったわけだが――
「とうっ!」
ティナはゴールポストに三角飛びをして止めてみせた。
これには男の子たちも大盛り上がりだ。しかも、ティナはリンムに向けてパントキックをするかと思いきや、いきなりキーパー自らがドリブルを始めた。
果たしてこれが本当に初心者のドリブルかと見紛うほどの重戦車スタイルでもって、迫りくる女の子たちを次々に宙に飛ばしていく。さらに、ティナは球――もとい玉に向けて積年の思いを乗せたかのような勢いでもって、
「いざ! いきます! ドライ〇シュート!」
と、『殲滅者』の二つ名に恥じないシュートを放った。
これにはまたリンムも股のあたりがひゅんとなったわけだが……そんなドライブのかかった球をキーパー役の女の子が止められるはずもなく、スーシーはすぐさま駆けつけて、「ふんぬっ!」と、顔面ブロックで弾いてみせた。
そのこぼれ球をリンムがかっさらって、ゴールの隅にさらっと流し込もうとしたところ、
「おじ様! パス! 私にパスパスパアアアス!」
えらい剣幕で指示を出されたので、リンムは思わず、ティナに球を渡した――
「行くわよ、スーシー! 今度はカミ△リシュート!」
「くっ!」
もっとも、スーシーは何とか自らの足で防いだ。そのこぼれ球をティナは拾って、次々と、
「タ□ガーショット!」
「むう!」
「フ◇イヤーショット!」
「ちい!」
「ツイ#シュート!」
「まだよ!」
「スカ☆ラブハリケーン!」
「はあっ!」
などと、最後にはリンムまで無理やり参加させられてシュートを放ったわけだが、その全てがスーシーの肉体言語によって止められた。伊達に『王国の盾』を誇る、神聖騎士団長ではないのだ。
もっとも、ティナはさらに図に乗って、「流〇ブレード!」とか、「エターナル△リザード!」とか、「イ□ズマブレイク!」とか、果たしてどこで覚えてきたのか、そんな必殺技まで繰り出していたら、さすがにスーシーも観念したのか、ティナはついにゴールを奪った。
「やったあああ! 一点取ったわあああ!」
もっとも、その頃にはさすがにむきになった大人たちに白けたのか、子供たちは別の遊びをやる為にどこかに解散していた。仕方なく付き合っていたのは、審判のパイだけだ。
後日、子供たちはまた球蹴りをしたのだが――ティナが出禁になったのは言うまでもない。
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冒頭に出てくる「野球は人死に多い」という話は、『トマト畑』の第311話「スポーツの日」(本日更新分)に詳細を載せています。近況限定ノート分をあえて本編に投稿したSSですので、独立して楽しめる内容になっています。
なお、このSSのほとんどのネタは『キャプテン翼』と『イナズマイレブン』からきています。
次回の近況限定ノートはハロウィンの話になります。ちょうど月末頃ですね。よろしくお願いいたします。