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 自主企画の、NTR小説フェスタに参加したいなと思い、最初に書いていたやつがあるんですけど、書いていてなんだか、これNTRなのかなと疑問になってきて没にしやした。
 供養がてら、下にどん。

◆◆◆

 あんたってゆたくん? と電話越しに訊かれ、少し迷ってから、はいそうですと答えた。

 僕のことをそう呼ぶ相手は、スマホの画面に表示された名前の主のみだけれど、耳に届く声は聞き慣れた女のものではなく、まるで知らない男のものだった。
『あ、本当にそう呼ばれてるんだ。あつあつだね』
 低く、どことなく甘い声。好きなやつはとことん好きな声だろうな、なんて考えていたせいか、返事を忘れていた。相手は特に気にならなかったようで、それでさ、なんて話し始める。
『……えっと、名前訊いてなかったな。あんたの彼女って名前何?』
「……みか、です」
 御門蓮《みかどれん》が、僕の彼女の名前だ。本人はあまり自分の名前が好きではないから、みかと呼ぶように言われていた。日頃からそんなもんだから咄嗟にそう口にしたけれど、素性も知れない相手に彼女の本名を告げるのもどうかと……。
 いや、そもそも誰だ、こいつ。
「そのスマホ、彼女のものだと思うんですけど、貴方は」
『あーうん。俺ね、俺、気になるよね、うん』
 彼氏だもんね、なんて、どこかふざけた調子で相手は言うと、俺はコウジ、と相手は名乗る。
「ではコウジさん、どうして貴方は、みかのスマホで僕に電話してきているんですか? みかは……みかに何か、あったんですか?」
 偶然みかのスマホを拾って、着信履歴の中にあった僕の番号に電話を掛けた。恋人からの電話で知らない男の声が聞こえてきた時、そうであったらいいと願うべきなのかもしれない。
 だけど僕は、ゆっくりと僕らの未来について、諦め始めていた。
『あった』
 それで電話したんだよねと、コウジの笑い声がしばらく続いた。どこか壊れたようなその笑い声は不快で、少し不気味だった。

 取り敢えず来てごらんよと言われ、彼女の部屋に向かう。

 場所が場所なだけに、もう、そういうことだろう。電車に乗っている間に、渡されていた合鍵からキーホルダーを取り外して、改札を出る前にそっちは捨てた。鍵は……コウジに渡せばいいか。
 そろそろ、日付が変わる。
 駅の周囲は人気もなく、街灯も少ない。彼女の家に着くまで徒歩で十五分掛かる。女の子が夜に一人で歩くのは不安だな、なんて、一緒に彼女の家に向かっている時にそう口にしたら、ゆたくんがいれば大丈夫だよと言われたっけ。ゆたくん呼び、正直恥ずかしいからやめてほしかった。
 静かに足を動かしていき、彼女の家に着く。
 三階建てアパートの一番上。三部屋ある内の一番奥。
 時間も時間なせいか、部屋の明かりは少なく生活音も聞こえない。自分の心臓の音も、耳に届かない。
 踏み慣れた階段をいつものように上がり、廊下を進み、彼女の部屋の前。台所の窓から明かりがもれていた。特に躊躇することなく、鍵を突っ込んで回し、扉を開ける。
「……」
 六畳一間の彼女の部屋。開けてすぐに花柄ピンクの布団が目に入る。中に何かあるのか、若干盛り上がっていた。ぼんやりとそれを眺めた後、何も言わずに上がり込み、布団に近付く。

「あんたがゆたくん?」

 玄関のすぐ横にある台所の方から、男の声がした。電話で聞いた声だ。
 ゆっくりと視線をそちらに向ければ、見知らぬ男が胡座をかいてそこにいる。派手な灰色の髪をした、三十半ばくらいの、僕より年上と思しき男。そいつはうっすら笑みを浮かべて僕を見ている。
「……塚田です」
 親しくもない男にそんな甘ったるい呼ばれ方をされたくなかったから、苗字だけ告げた。
「塚田ゆたくん、おーけい?」
 そう訊いておきながら、こちらが返事をする前に、どっちでもいいけどちゃんと鍵閉めてくんない? なんて命じてきた。
「いえ、鍵渡したらすぐに帰るんで」
 布団に向かっていた足を男、いやコウジに向けて動かす。見た感じ、襟の伸びきったシャツにジーンズと、コウジは衣類を身に纏っていた。見苦しいものを見ずに済んで良かった。
 有言実行、みかは寝ているのか狸寝入りか知らないが、もう話すこともない。渡すものを渡してさっさと帰りたい。
 懐から鍵を取り出し、コウジに突き出す。
「これ、使ってください」
「何で?」
 コウジから笑みが消え、はてと首を傾げる。僕も傾げたい。
「今後は貴方が使うから」
「俺が? 何で?」
「何でって、みかと付き合うんでしょう?」
「まっさかー」
 ないないと、コウジはゆっくり首を振る。
「みかちゃん、みかちゃんだっけね、楽しい夜だったからそれでも良かったけど、もうないよ、ないない」
「は?」
 ちょっと見てみと、コウジは布団を指差した。いつの間にか浮かべていた笑みは、どことなく困っているようにも見える。
「つい」

 布団の中のみかは、息をしていなかった。

◆◆◆

 この後、二人で北海道までドライブして、死体を埋める予定でした。

2件のコメント

  • ええええ、意外なオチでビックリしました><;
  • えへ(;A´▽`A

    どんな風に寝取ったか教えながら、お前もある意味共犯なんだよ? みたいに謎に追い詰め、間男の車でドライブ、みたいなのを想定してやした。
    「いい山知ってるからさ」
    みたいな。
    (`・ω・´)ゞ
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