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新作:転生したらレイスでした①

※本作品には、家に住んでいると稀に遭遇する家庭内害虫がモンスターとして登場します。(まあ、存在自体がモンスターみたいなものですが)苦手な方、食事中の方は読むのをお控え下さい。

(私の名は、(主人公名)、十八歳。私は大変なことに気付いてしまった。)

『嘘でしょ……これ……』

寝て起きたら、体が透けていたのだ。
決して寝ぼけている訳ではない。
本当に体が透けている。
試しに、つい先程まで寝ていた布団を触ろうとして見るも透過してしまい、触れない。

『もしかして……私、死んだの……?』

両手を見つめそう呟くと、視界の隅に謎の気配を感じる。
チラリと横を見ると、そこには、神々しい気配を纏った光の球が浮かんでいた。

『へっ?』

思わずそう呟くと、光の球から思念というべきだろうか、声が聞こえてくる。

『あなたは、熱中症でお亡くなりになりました』

酷く事務的な思念だ。
淡々と、死んだという事実だけを突き付けてくる。

『えっと、あなたは……』

光の球に『あなたはどなたですか?』と聞いてみる。しかし、その返答はまたもや酷く事務的だった。

『……私は神。まだ名はない』

どうやらこの神に名はないらしい。
生まれたばかりの神なのだろうか?
漠然とそんなことを考えていると、神は事務的に淡々と告げた。

『規定により二十歳未満の人間の死亡は、転生対象となります』
『転生?』

転生というと、あの転生だろうか?
人間が別の世界で生まれ変わるというあの……

『はい。転生です。いまから必要事項を確認致しますので、「はい」か「いいえ」で回答ください』
『わかりました』
『それでは、あなたはこの世界での転生を望みますか?』
『えっと、例えば「いいえ」と言ったらどうなるんですか?』

興味本位で、転生しなかった場合どうなるのか尋ねてみる。すると……

『回答は「いいえ」ですね。質問は以上となります』
『ち、ちょっと待っ……うっ!?』

質問を質問で返したら質問が終わってしまった。
いまのは質問であって回答ではない。そう訂正しようとすると、突如、周囲を囲うように魔法陣のようなものが展開され、うまく声が出せなくなる。

『この世界での輪廻転生を拒否したあなたには、その存在のまま、異世界ウィルザードに転生して頂きます』

(その存在のままって、全然、転生って言わないんですけど!?)

『では、よい来世を』

(ち、ちょっと、待ってぇぇぇぇ!)

神がそう告げると、周囲を覆う魔法陣に強い光が帯びていく。
そして、気付いた時には、薄暗い洞窟のような場所にいた。

『へっ? ここはどこ??』

暗闇の中、一人?混乱していると、どこからともなく声が聞こえてくる。

『――ピンポンパンポン♪ 異世界ウィルザードへの転生が無事完了しました。転生特典として、スキル「死の宣告」「デスドレイン」を与えます。詳細は、ステータス画面をご確認ください』
『へっ? ステータス?』

そう呟くと、目の前にゲームで見たことのあるステータス画面が現れた。

 ◆――――――――――――――――――◆
【名 前】主人公名 【レベル】‌1
【種 族】レイス  【状 態】消滅寸前
【スキル】死の宣告:F
     デスドレイン:F
【ステータス】体力:F  魔力:F
       攻撃:F  防御:F
       精神:B  運命:B
 ◆――――――――――――――――――◆

(どうやら、私は、レイスに転生してしまったらしい――って、そのままじゃん! 熱中症で死んで幽霊となり、日本からウィルザードとかいう異世界に飛ばされた。ただそれだけのことじゃん! そもそも、「【種 族】レイス」ってなによ?)

すると、ステータス画面に詳細が表示される。

 ◆――――――――――――――――――◆
【種 族】 レイス
魔術師が、幽体離脱に失敗した結果、肉体と魂が分離したままになった末に、変貌してしまった姿。その存在を維持するため、常に魔力を必要としており、既定の生体エネルギーを補充しなければ、霧散して消滅する。光が弱点。
 ◆――――――――――――――――――◆

(いや、全然、説明になってないんですけれどもっ! そもそも、私は魔術師じゃないし、既定の生体エネルギーを補充しなければ、霧散して消滅するって、どういうことっ!? って、【状 態】が既に消滅寸前になってるんですけどっ?? まずい。まずい。まずい。まずい。レイスに強制転生させられた上、消滅の危機。転生してすぐに死ぬなんて絶対に嫌だ! まあ、既に死んでいるようなものだけど!)

『どうすればいい。ねえ、どうすればいいの!? そ、そういえば、スキルが!』

すると、またもやステータス画面に詳細が表示される。

 ◆――――――――――――――――――◆
【スキル】 死の宣告
「死の宣告」をすることでカウントが始まり、カウントが零になると対象に「即死」効果を与える。
【カウント数】
A:  5秒 B: 10秒 C: 20秒
D: 40秒 E: 80秒 F:160秒
 ◆――――――――――――――――――◆
 ◆――――――――――――――――――◆
【スキル】 デスドレイン
「即死」効果を与えた対象から生体エネルギーを吸収する。「死の宣告」後に自動発動。
【吸収率】
A:100% B: 80% C: 60%
D: 40% E: 20% F: 10%
 ◆――――――――――――――――――◆

(つ、使えねー!)

「即死」効果は凄いが、いまのランクはF。
「死の宣告」を与える対象もいなければ、「即死」効果を与えるのに百六十秒かかる。その上、生体エネルギーの吸収率が十パーセント。

(これは死んだ。これは死んだわね。実に短い|レイス生《人生》だった……)

そんなことを考えていると、背後からカサカサとなにかが蠢く音がする。

――カサカサッ

振り向くと、そこにはたくさんのゴキブリが壁一杯に蠢いていた。

『うっぎゃああああっ!』

壁一杯に蠢くゴキブリ。見上げると、天井にも奴等が蠢いていた。
レイスに転生しようが、怖いものは怖い。
思い切り叫び声を上げると、天井を這っていた一部のゴキブリが(主人公名)に向かってに落下してきた。

『うっぎゃああああっ!』

(なんで、ゴキブリが落ちてくるの! なんで、ゴキブリが落ちてくるのっ!!)

(主人公名)は軽いパニックを起こし、ヒステリックに叫び声を上げる。
そして、叫び声を上げるたびに、ゴキブリが落下してくる。

『「【スキル】念動力」を獲得しました』

(いまはそんなのどうでもいい! ゴキブリをなんとかしてぇぇぇぇ!)

『うっぎゃああああっ! 死の宣告! 死の宣告! 死の宣告ぅぅぅぅ!』

壁、天井、地面に蠢くゴキブリ相手にパニック状態となった(主人公名)は、ゴキブリ相手に『死の宣告』を振り撒いた。すると、『死の宣告』を振り撒いたゴキブリの頭に百六十秒という数字が表示される。

160、159、158……

『死の宣告』のカウントダウンが始まるも、縦横無尽に蠢くゴキブリ。
(主人公名)が「念動力」という名の叫び声を上げるため、天井から降り続けるゴキブリのシャワー。

『うっぎゃああああっ! なんなのよ! なんなのよっ! なんなのよぉぉぉぉ! 死の宣告! 死の宣告! 死の宣告ぅぅぅぅ!』

(主人公名)は、ゴキブリが落ちてくる度に『死の宣告』を発動させていく。

5,4,3……

叫び声を上げ続ける(主人公名)。
ゴキブリのシャワーは止まらない。

2,1,0……

すると、突如として「カサカサ」というゴキブリの蠢く音が無くなり、辺りが静寂に包まれる。

『へっ?』

そして、恐る恐る天井を見上げると……
黒光りした無数のゴキブリがスコールのように降ってきた。

『うっぎゃああああっ……!?』

無数のゴキブリの雨に打たれた(主人公名)は、まるで心臓が押し潰されたような感覚に襲われる。不思議な高揚感にも……
気付けば、足の踏み場もない位、蠢いていたはずのゴキブリ消えていた。

『へっ?』

(主人公名)は意味がわからずそう呟く。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

『(主人公名)は、レベルアップしました』

『はっ? レベルアップ? どういうこと? ステータスが上がったの?』

(主人公名)がそう呟くと、すると、ステータス画面が表示された。

 ◆――――――――――――――――――◆
【名 前】主人公名 【レベル】‌21
【種 族】レイス  【状 態】良好
【スキル】死の宣告:B
     デスドレイン:B
     念動力:B
【ステータス】体力:E  魔力:E
       攻撃:F  防御:F
       精神:A  運命:A
 ◆――――――――――――――――――◆

(攻撃と防御は相変わらずだけど、それ以外のステータスが上がってる!? どういうことっ?? も、もしかしてだけど、RPGゲームみたいに、モンスター?を倒したからレベルが上がったの? っていうか、あのゴキブリ、モンスターだったのっ!?)

現状を見るにそうとしか思えない。
(主人公名)はゴキブリの消えた地面を見つめるとため息を吐く。

(一応、【状 態】は良好になっているし、消滅の危機から脱したと見て間違いない。そんなことより、ここはどこなのだろう?)

暗闇の中なのによく目が見える。
周囲を見渡すと、奥に階段が見えた。
警戒しながら暗闇の中を進んでいくと、そこには扉がある。
とりあえず、【スキル】念動力を使い扉を開けると、扉の隙間から僅かに光が漏れてきた。

『そ、外だぁあぎゃああああっ!? 目がっ! 目がぁああああっ!!』

僅かに漏れ出た光に霊体が触れると、霊体から煙が噴き出した。
外に出れると燥いだのが間違いだった。
ここは光の届かぬ闇の中。
レイスに転生した(主人公名)は、暗闇だからこそ生きていられる。
(主人公名)は【種 族】レイスのことを全然、よくわかっていなかった。

(し、死ぬ。このまま光を浴びていたら死んでしまう……)

(主人公名)は【スキル】念動力の力を使い、必死に扉を閉じ、光を遮るとステータスを開く。

 ◆――――――――――――――――――◆
【名 前】主人公名 【レベル】‌21
【種 族】レイス  【状 態】消滅寸前
【スキル】死の宣告:B
     デスドレイン:B
     念動力:B
【ステータス】体力:E  魔力:E
       攻撃:F  防御:F
       精神:A  運命:A
 ◆――――――――――――――――――◆

するとそこには、案の定、【状 態】消滅寸前と書かれたステータスがあった。

(やっぱりぃぃぃぃ!)

思った通り、霊体から噴き出した煙は体を構成する魔力だったようだ。
折角、ゴキブリの大群を倒し、生体エネルギーを補充したというのに、光を浴びたせいで、一気に生体エネルギーが無くなってしまった。
いまの(主人公名)は、生命エネルギーが枯渇寸前。消滅間近の悲しきレイスである。

(なにか、なんでもいい! なんでもいいから、生き物出てきてぇー!)

――カサカサッ

心の中でそう叫ぶと、またあいつが蠢く音が聞こえた。

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