こんばんはジュウゴです。
風邪です…風邪を引きました…タイトルの通り本日の更新はお休みさせてください。
まだ3000字もいってないのです。
あれこれ考えているうちに思考がぐるぐる回り始めておや?と思ったら発熱ですよわはー北国は寒暖差がえげつない。養生します。
下に触りだけ上げとこうかと思います。まあ大幅に書き換える可能性もありますが。やべぇところで次回に続く!をしてるのはまあある程度意図したところではあるので、なんていうのか取り急ぎ…
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降り注ぐ無数の降魔の光が目の前の魔王を貫いていった。彼女の真白い肌に突き刺さる度、あざやかな真紅が視界を染め上げる。腕を、脚を、肩を腹を。貫き、穿ち、肉を裂く。まるで静止画のように流れていく光景。噛み殺した声が唇から漏れ出る、長くつややかな黒髪の間から覗く苦悶の表情、きつく噛み締められた赤い唇。
「ルーシェルさま!」
ナハシュ・ザハヴを両手で掴み、膝をついた魔王にリーネンが泣きながら駆け寄る。ぼたぼたと彼女から流れ出る血は血溜まりを作り、周囲を赤く染め上げていく。じわじわと足元に広がる朱色にぞわりと。肌が粟立った。
「防壁を張ったか」
酷薄にさえ聞こえる男の声。
真白い翼を背に、長い銀髪の天使が無感動に無表情に宙に佇んでいる。その手には今なお光の礫が揺蕩っていた。アンカーからの座標指定による正規のルートでやって来た彼は、自分達と違い通常通りの力が使える筈だ。周囲に満ち溢れる霊力、紡がれる強力な術式。霊力の高さ故に誰も歯が立たなかったルーシェルだったが、今の彼女なら、彼の持つ霊力なら。容易く殺すことが出来るだろう。
受けた傷からぼとぼとと音を立てて流れ続ける血潮、回復霊術が使えない彼女には致命傷だ。痛みに震える細い身体、小さくむせて、べっ、と血を吐き出していた。乱暴に拭われる口元、こすれた血の痕が手の甲を汚している。立ち上がることもままならないだろうに、ルーシェルはなおも銀色の天使から目を逸らさない。蒼白の頬、額に滲む汗。奥歯を嚙み締め耐えている。一目見ただけでも先日襲撃を受けた時より遥かに深い傷だとわかる。泣きながらリーネンが必死にルーシェルの傷を癒そうとしているが、低級魔族の回復霊術など程度が知れている。
流れ続ける命の色。
視界は狭隘。
縫い止められたように動けない。
背後からばん、と扉の閉まる音がした。
はっとして振り返れば小屋の扉が固く閉ざされていた。ぱたぱたと窓も閉められていく、ルアードや隼人達は室内に立て籠もったらしい。天使が人間に危害を加える事などありえないが、万が一という事もある。彼らの咄嗟の判断に感謝しながら、は、と。ひとつ息をついて現れた天使の前へと進む。
「やめなさいサンダルフォン」
ルーシェルとリーネンの前に立ち塞がるようにして名を呼べば、サンダルフォンは怖気の走る程凍り付いた眼差しでこちらを見据える。見開かれたそこには燃えるような憎悪と怒りとを湛えている。
ひ、と背後でリーネンが息を呑む音がした。にゃんで天界のナンバーツーが、零れ落ちた言葉はしかし地に落ちず霧散する。美しい銀の髪、紅い瞳をした熾天使サンダルフォン、……自分の右腕ともいえる副官。
「そこをおどき下さい」
押し潰したかのような、唸るような声での要請にしかし応じられない。怒りという怒り、憎悪という憎悪。厭悪。憤怒。今にもルーシェルに飛びかからんばかりの彼へ、駄目だとゆるく頭を振る。
「いけません殺しては、」
「何故でしょう」
制止に返ってくるのは怒声混じりの疑問の声。心底理解できないと言わんばかりにふわりと地に降り立つ。きりきりと突き刺さらんばかりの眼差しに、明確な殺意に。向けられる怒気に肌が焼かれるようだった。
「……今ここで争っても仕方がないと言っているのです」
つとめて冷静に。
短く告げて、怒りに戦慄くサンダルフォンに背を向けてルーシェルと向かい合う。出血は止まらない、しとど流れ落ちる血、声もなくこちらを睨みつける彼女の側にそろりと膝をついてその頬に指を伸ばした。
「何を、」
「喋らないでください、……出血が酷い」
血色を無くしているというのに、噛みつかんばかりに唸る彼女にゆっくりと治癒の力を使う。
己の霊力を増幅装置、細かな文様の刻まれた幅広の腕輪へと流し込む。右腕に嵌めたそれは鈍く発光しながら霊力を編み込み、指先からふうわりと柔らかな風が生まれて柔らかくルーシェルの頬を撫でていった。頬を、肩を、噴き出す血に指先を濡らしながら直接回復霊術を肌の上に滑らせていく。ゆっくりと、けれど確実に裂けた皮膚を塞ぐ。もっと強力なものが使えれば触れる必要もないのだが、制限のかかったこの身では一度に使える量には限度があった。
指先が彼女の肌を撫でる度に、固く食いしばったルーシェルの口元が徐々に緩んでいく。強張った身体から力が抜けていく。折角回復気味だった頬がまた蒼白になっているが、それでも苦痛に引きつれた表情から、は、と。漏れ出た呼気に安堵した。生きている。失血は如何ともしがたいが、それでもひとまずは大丈夫だろう。
「……絆されたか」
荒い口調。見ずとも解る鋭い眼差しが背中に突き刺さる。
ゆっくりと立ち上がって振り返れば、ぎ、と。はたしてサンダルフォンの赤い瞳がこちらを射抜いていた。赫怒。激昂。霊力を怒りに震わせて、その長い銀の髪がざわりと揺れる。彼の指先に残る光の矢、礫、ぐしゃりと握りしめ弾け飛ぶ。飛び散った粒が霧散して霧のように掻き消える。
「悪魔は甘美な言葉で他者を欺く。籠絡する。情に絆されて正常な判断が出来ていない」
「違います、話を、」
「何が違う!」
吼える。
「悪魔を助け、何が違うと言うのか!」
ごう、と音を立ててサンダルフォンを中心に風が巻き起こる。肌を劈くような怒りの感情が周囲に満ち満ちる。激情が凝って彼の周囲に吹き出す霊力が小さく爆ぜる。
「あの日! 破壊の限りを尽くした悪魔を何故殺していない! 何故傷を癒す! 助ける!」
ばちんと一際大きな音を立てて力が弾けた。弾けた細かな光が無数の矢となり、一斉にこちらへと向かってくるのを静かに見ていた。煌めく虹色のプリズム。
「――穢らわしい悪魔に何をされた」
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続きはまた来週。
ここまでお読みいただきありがとうございました。