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【KAC20248】レンズの奥に見えるもの SS②

SS書いてたら楽しくなっちゃったので、勝手に第二弾書きます!

~前回のSSの先輩目線~
――これは、名前も知らない男の子にした、小さな初恋の物語。


業間休みのあとは、3時間目。
私のクラスの金曜日の3時間目は、図工。
図工室は教室と反対側の1階にある。
だから、3階を教室から図書室まで歩いて、階段を降りるという経路で、いつも行っている。
小学4年生になった春のある金曜日、私はいつも通り図工室へ向かった。
友達と一緒に行く。
「ねーねーカオ、今日絵描くらしいね。よかったじゃん!」
カオというのは、本名ではなくて、私の名前を少しいじった愛称だった。私のクラスに、同じ名前の男の子がいたからだと思う。
「うんうん、そうだよね! 先生が言ってたよね! めっちゃ楽しみ!」
言われた通り、私は図工がものすごく好きだった。今日も、絵の具セットを手からゆらゆら揺らして、にっこにこの笑顔。
「あ…」
絵の具セットに目を落として、視線を戻そうとしたときに、ある人と目が合った。
あれは…4年生?
男の子だった。
めがねをかけていて、正直…似合っては、いないって言わない方がいいんだろうけど。
でも、その奥の顔はすごく整っていた。
鼻が高くて、アーモンド形の瞳に、先っちょが少し上がっている唇。
一目惚れだった。
4年生で、こんなに整っててかっこいい人っているのっ?
「あれっ、カオ? 大丈夫~?」
と言われた時、どちらからともなく目を逸らした。
「あっ、ごめん。大丈夫!」
すぐに友達の方に向き直って、そう返した。
…また、会えたらいいな…。

次の金曜日、ドキドキしながら廊下を歩く。
絵の具セットは嬉しそうには揺れていなくて、後ろの方で私の太ももに、されるがままに当たっている。私の気持ちの表れだろうか。
図書室の前に差し掛かると、
「いたっ…」
と思わず呟いてしまう。
「えっ、カオ? どっか痛いの?」
私の『居たっ』が、『痛っ』に聞こえたらしく、友達が心配そうにのぞき込んできた。
「あっ、ごめん! 独り言だから気にしないで!」
「ならいいけど…」
友達が他のこと話している間に、チラッと男の子を盗み見る。
今日も整った顔だ…本を立ち読みする姿が似合ってる。
また目が合って、今度は男の子の方から逸らされた。
逸らされたのは悲しいけど、横顔もかっこいいな…。
きっと、来週も会えるよね…?

そんなこんなで、ほぼ毎回、男の子と目が合っていたけど、今日は違う。
元気なうちのクラスの男子が、一緒に移動教室に来ていた。私と同じ名前の男子だ。
元気だから色んなところを走り回るし、やんちゃだから邪魔をしようとして急に前に出てきたり。そんなに好きではないタイプだけど、席が隣だし、仕方ない。っていうか、コイツは今までの移動教室以外、移動するときは大体私と一緒に移動していた。
「カオ! なんだよ、この先に見たいもんでもあるのか?」
今日も目の前に立ちはだかれる。
図書室の前なのに…。
きっと、そこに、男の子がいるのに…。
でも、右とか左から勢い良く見るのも男の子がびっくりしちゃうから、できない。何より、私が恥ずかしい。
男の子のいるはずの方向を見ていたけど、コイツに立ちはだかれて、今日は見ることができなかった。

ある冬の日。
図書室の前で、友達が言った。
「修了式で転校するなんて、寂しいなー」
そう、私は修了式を持って、この学校を転校する。
移動教室の時に同クラのアイツが付きまとい始めたくらいの時から、お母さんに言われていた。
正直、やっぱり悲しかった。あの男の子が見られないから。
だけど、しょうがない。これは、お父さんの転勤が原因らしい。
「大丈夫、手紙もちゃんと送るし!」
と明るく答える。
「えっ本当? うれしー!」
今日も男の子はいた。
私と目が合うと、悲しい顔をして、そそくさに逃げていく。
もしかして…今の会話、聞こえてた?

次の金曜日は、いつも通り、男の子がいた。ほっとした。
「おいおい、何また見てんだよ?」
コイツが、私に対して恋心を抱いているだなんて気づいたのは、何年もあとの話。
だから、コイツのことなんて気にもせず、今日も男の子を盗み見た。

そしてやって来た、修了式の日。
修了式が終わった時から、ずっと泣いていた。
下校をしたら、すぐに引っ越す予定だったから、もう会えない。友達にも、男の子にも。
今日は金曜日だけど、図工はない。
でも、もしかしたら…。
もしかしたら、この休み時間に、男の子がいるかもしれない。
「最後に学校をぐるって周りたいな!」
そう友達に言って、図書室の前を通る口実を作った。
もちろん、あのクラスメートは呼ばずに。

やってきた、図書室の前。
顔を上げるのが恐ろしかったけど、いてもいなくても、これが最後。
勇気を出して、顔を上げた。
――そこには、男の子が、いた。
今日も自然と目が合った。
何をしていいか分からない。
きっと、男の子だって、私の転校を知っている。だから、私と目が合うのは、今回が最後だって、お互いに分かってる。
最後なんだから、何かやらないと。もうすぐ階段に差し掛かっちゃう。
そう焦っていると。
ふっ。
男の子が、私に向かってほほ笑んだ。
えっ、今の、私に向けて? え?
びっくりしている間に、階段になってしまい、男の子から目を逸らさざるを得なかった。

あの男の子は…私に、勇気を与えようとしてくれたのかな。
転校するって分かったうえで、応援してくれたのかな。
それなら、ものすごく嬉しい。
いつか…この恩を、返したいな。
高校の卒業式の日…あの子に、恩を返せたなら、一生の財産だ。

4件のコメント

  • 大好きな人って、どうしても、目で追ってしまうんですよね。これは、私も、そうでしたね。小学生高学年の頃、好きな子を目で追ってましたねー。その子僅か六年生の時に、一年居ただけで転校しちゃったけどね。
  • 本当に分かります。友達によく分かりやすいって言われてました(笑)
    一年…悲しいですよね。
    私も他の人と違う学校に行くので、まぁ転校したも同然です。会えないし。
    好きな人と離れるのも辛いです。
  • お互いのことを書いてくれてありがとうございます♪
  • 私が書きたくて書いただけです!
    それが良かったのなら嬉しいです(*'▽')
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