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8話 俺だけレベルという概念のある世界

「――はぁはぁはぁはぁ……。し、しんどすぎるわ、これ……」
「身体能力のチェックも兼ねてのランニングだったけど……。ドラゴンってあんまりスタミナ無い感じか?」
「朝7時から、今は、10時、かしら? それをこんなスピードでずっとなんて……これだけ走れれば十分でしょ……。それに私は戦う時飛んでることがほとんどなんだから、スタミナなんて……」
「スタミナは重要だ。だってスタミナがあればあるだけ特訓の時間も増やせるだろ?」
「それはそうだけど……」
「休みが終わって仕事が始まっても毎日同じだけの距離をできれば今以上のスピードでこなすように」
「えぇ……。そんなの無、理」
「そんなこと言いながらもう息が整い始めてるじゃないか。スピードに関しては見たところ無駄な脂肪が多いようだから、それが絞れ始めれば問題なくクリアできるはずだ」

 特訓その1。朝のランニング。というか持久走。
 
 昨晩家に帰ってきてから魔法で地面の修繕、そしてこの特訓メニューを作った。
 正直なところ、俺だって今日くらいは一日中ごろごろしていたかったけど、課長のことを思えばそんな選択肢は簡単に排除できた。

 それに、俺のスキルのせいで家が悲惨な目に合って姉ちゃんのイライラはピークに達して……どう考えても家にずっといるのはあんまり利口な選択じゃない。

「心肺能力、スタミナ、それに急なダッシュにも対応できていたし、敏捷性も悪くはなさそうだな。となれば、一先ず身体強化系のスキルはいらないし、今回のスキル選択は思念会話でいいな」
「待って待って! これはまたドラゴンが来た時用の特訓でしょ! 硬化にしてよ!」
「今後の特訓で便利なのは間違いなく思念会話だ。強敵に挑んで挑んで……ヤバい時でも俺にアイから連絡ができれば直ぐに助けられる。そうすれば安心して戦闘をこなせるだろ?」
「それはそうだけど……。でも昨日みたいに咄嗟にあいつらが現れたら……」
「それなら大丈夫だろ。あの悲惨な状況を見て十分な準備もせず突っ込んでくるのであればそれはただの馬鹿だ。お前の旦那候補はそんなに馬鹿なのか?」
「……。狡猾。爺は私にご執心なんて言っていたけど、本当のところどうなのか……。ずる賢いところがあって、私苦手なの」
「なら安心だな。さて、おしゃべり休憩も終わったことだし、今度は筋力を見てみ――」
「待って! さっきの人間が家に誰か来るみたいなこと言ってたでしょ? そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
「……確かに」

 アイはランクが上がったからなのか、ドラゴニュート時の姿だけでなく人間の姿まで変化を見せて……身体がなんというか、ボリューミーで艶やかになった。
 特に今のアイは汗だくで……早めに家に戻ってなんかそういう勘違いをさせないような服装にしてやらないと。

 課長ってああ見えて性的な話題だと中高生みたいな反応するからな。

「それじゃあ家に戻るとして、課長に会う前にスキルの取得だけしておくか。ちょっと触れるぞ」
「……ん」

 スキルの選択枠で『思念会話』をタップ。
 これで言葉を発しなくてもアイとは簡単に会話が――

『昨日と違って……。なんか触られるのが……。でもそうか、私も適齢期で――』
『思考を伝える場合と、思考を巡らせる場合の切り替えができるぞ。だから、さっさと慣れてくれ』

「え? きゃ、きゃあああっ! えっち!」
「おまっ! 今度は声に出てるから! 違うんですこれは……。あーもうさっさと家に帰るぞ! そうだ! 昨日レベルが上がって……神話級魔法『帰巣転移(ワープ)』!」



「え? ここって? まさか一瞬で移動、した?」
「お前らの仲間も似たようなことをしていただろ? 俺もやっとそういった魔法を覚えれたんだ。それはそうとして、思いから降りてくれないか?」

 覚えたての魔法で家に転移すると、アイが俺に馬乗り状態。
 玄関で横たわらせているから背中が痛くてしょうがな――

「その、すみませーん……」
「あ、そのいらっしゃい課長」

 とんでもないタイミングで開かれた玄関の扉。
 そして俺の前にはおしゃれをした課長……というか派手な下着が映った。

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