「防御用の魔法? ……あなたそんなことまでできるの?」
「この魔法は強度が低い代わりに内側にいる人たちの外の見え方をコントロールできる。だから街がすぐ混乱に陥るみたいなことはないと思うが……。とにかく移動は高速で頼むな。自衛隊が動き始めると騒ぎが大きくなって不安に思う人も出てくるし、何より課長に色々悟られたくはないから」
「それは分かるけど……私があいつらをここから移動させたすぐに駆けつけてくれないと困――」
「それは大丈夫だから! いいから早く! 視界はどうにか出来てもこの熱気を長時間誤魔化すのは無理だ。それに――」
アイとの会話中、ついにドラゴンたちの攻撃が開始された。
そして勢い良く吐き出された炎が『透明防御壁(クリスタルウォール)』を焼きつくそうとする音が不自然に響き渡り、家の窓から街の人たちが顔を出し始めた。
こんなにうるさいんじゃ、きっと姉ちゃんも寝れない。
最悪家から出てきなんてことも……。
「姉ちゃんが起きてきてダル絡みされるのはお前だって嫌だろ?」
「……。確かにね。私からかうのは好きだけど、からかわれるのは嫌い。多分戦うことよりもずっと……。信じてるからできるだけ急いで来てよね」
ドラゴニュート姿に戻ったアイ。その体は以前よりもたくましく変わっていたように思えた。
だが、そんな俺の感想とは反対に、柔らかい表情を見せたアイは、その翼を広げるとあっという間に 『透明防御壁(クリスタルウォール)』を潜ってドラゴンたちのもとへ。
この防御魔法は普通の人には殆んど視認できない上、内から外に出るのが自由。
こっそりと戦うには本当にもってこいだよ。
「もうこの作戦に舵を切ったから……しばらくはあいつに任せるだけか。なんか1人でずっと戦ってきたから違和感が凄いな。……。あ、一応確認はしておかないと。『観察眼』」
『――一体何なんだあの障壁は……。まさかあの人間が《神子》か?そんな見た目には見えんが……』
『あなたたち。よくもまぁ変な魔法を仕組んでくれたわね』
『おお! 姫様ご無事でしたか!』
『ええ。この通りぴんぴんしてるわ。だから1度攻撃を止めなさい』
『……。かしこまりました。全員攻撃を中止しろ』
お、本当に攻撃が止まった。
情報の共有でなんとなく察してはいたけど、一国の姫ねぇ……。
人はというかドラゴニュートは見かけに依らないな。
そのうち移動が始まるだろうし、俺も観察眼を使いながら準備しておくか、『形態変化・翼』……『強化・脚』lv1から、スタート。
『――ふぅ。まさかこんな用意をしているなんて思わなかったわ』
『姫様の婚約者様は姫様にご執心のようでして。いい殿方と巡り会えましたね姫様』
『犯人はあれか……。まぁいいわ。とにかく、勝手に《神子》探しに出たことは謝る、けど私は人間に対する報復を望んでもいないし、帰るつもりもない。もしこのまま攻撃を続けたいって言うならまず場所を変えて正々堂々、人間に迷惑のかからないところで喧嘩をしましょう』
『人間に迷惑……。姫様はそんなものを気にされるようになってしまったのですか? まさかとは思いますが、我らの攻撃を防いだあの人間……。あれに絆されたのでは……』
『あの人は……なんというか協力関係、みたいな感じで……。あの人が手を貸してくれれば《神子》がいなくても国の発展が――』
『やはり絆されているようですね。そもそもそのつもりでもありましたが、連れ帰るついでにその沸いた頭を冷やして差し上げます』
『なにか勘違いされてるみたいだけど……。喧嘩の誘いに乗ってくれるならなんでもいいわ。……ついてきなさいあなたち』
『言われずとも』
緊迫した雰囲気の中移動が開始された。
アイは高く高く、そしてできるだけ人の気配のない海上を選んだようだ。
確かにその移動速度はとんでもなく速い。
……だけどまぁ到着予定場所を考えれば全然俺ができる高速移動の許容範囲。
本当は遠距離から魔法を使いたいけど……今日はもうしんどいしなぁ。
それにアイを巻き込む可能性を考えるとやっぱり俺も移動しないと。
「といこうことで早速……とはいかないんだよね。準備はもう少し掛かるし……また燃費が悪いんだよね、この魔法。だから仕方ない、もうしばらくは様子見させて――」
『――くっ!』
『大分力を付けたようですが、この数相手では時間の問題ですよ。お前たち炎を絶やすな!』
なんでもう始めてるのさ……。
俺が到着するまでもう少し話とかで引っ張ればいいのに。
「家出女子は反抗期で手が出ちゃった、ってとこか? まぁ、ちゃんと炎を回避できてるだけ上等――」
『【強化・脚】lv10到達しました』
ドラゴンたちと対峙するアイの姿を見ていると、目的のレベル到達のアナウンスが流れた。
このスキルはギアを上げていかないといけないという面倒な仕様があるものの……
「待った分かなりの性能になる。久々のlv10は流石にわくわくが100倍になるかも」