「では逃げるぞっ」
「え?」
「え? じゃねえよ。暴れる彼奴の吹き飛ばす瓦礫に当たりたいのか? ほら、こっちだ」
……訝しむ俺、勇者の背を押し熟練戦士の彼は入り口付近まで逃げる。
敵である三つ首龍・ヒュドラは暫く暴れまわっていたが、段々と動きが鈍くなり、やがてドスンと音を立て、その場で痙攣し始めた。
「あ、あれ?何で……あっそうか、毒だ、毒を使ったのですね?」
「それならば楽だったのだがな、生憎依頼主はヒュドラの肉を所望だ。何に使うかは判らねえが毒を使うのは避けたかったしな」
「で、では何で奴は瀕死になったのですか? 首元を切りつけただけなのに」
「いや、そりゃ彼奴だって生物だ、首元の太い血管を切れば出血多量で死ぬだろ」
「それはそうなんでしょうけど、ヒュドラって首を全て斬らねば直ぐ生えて来るんじゃ」
「おいおい、どこの御伽話だよ。その辺の蜥蜴とかなら尻尾を切り落としてもまた生えて来るかもだが、あんなでかいのの首が生えてきたらホラーだわ。彼奴の首の太さを見ろ、1本があんな太い胴体の三分の一くらいの太さがある。切り落とすのも大変だが……一本切ったとしても人間だったら片腕を切り落とすようなもんだ。出血多量以前にショック死するかもな」
「うーん、常識で考えたらそうかもしれないけど……」
「むしろ人間だったら片手を切り落としてもすぐ布や紐で縛って止血出来るが、彼奴は見た目通り全て頭だしな。あの鋭い牙だ、切り口を押さえようと思っても逆に傷付けちまうだろうさ」
「うーん、でも俺の常識的に納得ががが」
「そういえばお前はこの間のランドタートルとの闘いでも、MPの無駄だっていうのに氷魔法を唱えてたな。そして俺がバトルハンマーで一撃で倒してるのを見てぶつぶつ言ってたが……」
「いやだって、亀系モンスターは物理に強くて氷魔法に弱いって思ってたから……」
「そりゃ亀に限らずどんな生物でも寒けりゃ動きも鈍るけどな……そりゃいくら固いからって思いっきりぶん殴れば脳震盪も起こすだろうし内臓も破裂するだろ? 人間が動けるギリギリの重装甲をしてても、あの重さ3キロはあるバトルハンマーでぶん殴って無事ですむと思うか?」
「うーん、うーん」
「後お前、この間のメデューサの時も目を伏せながら戦ってたな。駄目だぞ、いくら上半身が裸の女だからってちゃんと敵を見ながら戦わないと」
「だって……目を合わせたら石化するって……」
「だからどこのおとぎ話だよ。ずっと対峙していた俺はどこも固くなってないぞ、下半身の一部以外はな、ガハハ! ……まあそれはともかく、視線で相手を石化出来るとかが本当なら余程運がよくねえと勝てないだろ。そもそも迷宮にいないで、もっと見通しの良い所にいるべきだ。そもそも何で石化するんだ? 相手を倒す為だろ? そんな強力な技能が目線などという日常生活に必須な所にあるのなら仲間とだって一緒に暮らせんわ。あれは上半身の人間部分で相手を篭絡しつつ下半身の蛇部分で巻き付いて絞め殺すただの物理モンスターだよ……おっと、ヒュドラが息絶えた様だ。持てるだけの肉を持って凱旋だ」
「うーん、判る、判るんだけどさぁ! なんて説明したらいいんだ、このモヤモヤ感っ!!」
……
久々に、明日の更新はありますん^p^