僕は数少ない友人と共に近所の山の探索へと出かける。一体幾つ位だったかも忘却する程の過去だが、まぁその様な探索をするという事自体小中学生、精々高校生位だろう。山は其れなりに鬱蒼とし、薄暗い視界とガサガサと歩き難い足元、飛び交う虻等の所為で子供時代の体力でも疲労困憊となっていた。
特に目ぼしい物も見つからず、でもクワガタ等の収穫物はあり、そろそろどちらともなく帰ろうと言い出そうとする時……其の穴を見つけた。
大きさは子供だった当時でも屈んで入れるかどうかな横穴で、奥は見通せない。だが何かが居る……僕達は緊張した感じで覗き込む。すると暗闇がガサゴソと動き出した。大きさ的に羆の穴ではないし安心していたが、其れでも其れなりに緊張した。
ゆっくりと出て来たのは……狸だ。北狐はよく目にするし何なら雌鹿とその子も頻繁に目撃する地域ではあるが、狸は珍しい……僕は持っていたデジタルカメラを慌てて構え、吃驚しつつも其の場から逃げ出そうとする彼奴の写真を撮った。暈けつつも其れなりに良い写真が取れ満足していると、急に友人が声を上げる。すわ何事か、と彼の方向を見る。
先程の先程の穴を覗き込む友人。視界の先には何と、一見土竜の様な平たい身体、でも大型の猫、小型犬程もある。四肢の爪は鋭く尖り、引っかかれると猫の爪の比ではないだろう。そして何より特徴的な、其の平べったい嘴と、同じく平たい尻尾……
そう、カモノハシが居たのである。
僕は勿論初めて見たし、友人も多分にそうだろう。そんな田舎町の山に相応しくない珍妙な生物はのそりのそりと、先程の狸程ではないが思ったよりも素早い動きで穴から這い出し、蛇行しつつ逃げて行った。僕は狸が霞む程の衝撃に興奮し必死にカメラのシャッターを切っていた。
時間にして僅か数十秒ほどの出来事ではあるが、其の興奮は数十年経過した今も、同じく夢のような体験をした友人と話せるほど思い起こせる。残念ながら写真データは紛失してしまった為証拠を見せる事は出来ないが、その夢の様な体験は何時までも心に残るだろう。