続きまして、奨励賞の発表です。
こちらは審査委員長の相坂に一任しております。……といっても、ちゃんと相談しましたが。
大賞に選ばれなかった作品の中から優れたものを選んでくださってます。
というわけで、全参加作品の中から、見事奨励賞に輝いた作品は……!?
ななななんと!2作品✨
☆奨励賞
宵町いつか様作『黎明に落ちる』
https://kakuyomu.jp/works/16818093077669876832おめでとうございます!!
以下、相坂より選評になります。
最初読んだとき、厳密には物語とすら呼べないような作りをしていると感じた。
ただの日常を切り取り、主人公の独白が物語を進めていく。
恋人と別れた彼女は、その喪失に落ちていた。他の女に目移り、とあるので、振られたのは主人公なのだろう。
恋人がいなくなった。恋人ではなくなった。ただそれだけの変化だ。何の変哲もない、ただそれだけの日常。その中のワンシーンを切り取っている。
これがもし、起承転結に富んだ話なら、恋人に対する気持ちを払拭して綺麗に終わることができたのだろう。しかし、この物語はそう単純ではなかった。
ただ切り取っているのだ。日常のワンシーンを平坦に切り取る。それが「何の変哲もない日常」であることを示すかのように、ただ平坦に切り抜いているのだ。
恋人がいるのが日常なら、別れることも日常だ。だとしたら、恋人のいない生活も日常で、恋人がいる日常は、ただ恋人がいただけの日常になる。
日常は常に何の変哲もないものだ。
物語のラストで、少女はその日常を逸脱し感情的になる。
その感情さえ行方不明なのだ。だから、この物語は、厳密には物語とすら呼べないような気がした。人は、ただの日常を物語と呼ぶだろうか。おそらく大多数が呼ばないだろう。
だから私も、この小説を物語とは呼べない。
巨大な自嘲、とでもいうべきなのだろうか。どちらにせよ、評価に困る作品であり、個人的には最も評価したい小説であった。
☆奨励賞
坂口青様作『ゼロイチ』
https://kakuyomu.jp/works/16818093082072908912おめでとうございます!!
以下、相坂より選評になります。
個人的に、大賞を選出するにあたって、それが物語であるかどうか、という指標を中心に据えていた。例えば黎明に落ちるなら、前述した通り厳密には物語とも呼べないような作りをしていると感じた。そしてこのゼロイチも同じく、他の作品と比べるとあまりにも単調だった。
その単調さが、むしろこの物語を引き立てている。単調である方がよいのだ。人外が主人公で、かつ一人称。ならば、感情的に描かれては返って物語に入り込めなくなる。
だがどうしても、短編であり人間ではない物が主人公であるという箇所が溶けきれず残ってしまった。
故の奨励賞だ。
おめでとうございます!!
どちらの作品も、本当に素晴らしい作品でした。
大賞にするか最後の最後まで迷ったほど……。
以下、審査員長の相坂より所感です。
奨励賞の選出は、私に一任されていた。
そして、選出するにあたっての個人的な尺度は、大賞候補作の中から、「大賞に出すにはテイストが違う作品かつ完成度が高いもの」であった。
黎明に落ちるもゼロイチも、今回の全体的に完成度の高い複数作の中でも、大賞に選べるほど評価が高かった。それでも、物語単位で見た時に、どちらも大賞とはテイストが違うのだ。
エッセイとフィクション小説を並べて、同じ尺度で評価できないのと同じように、この二つの作品の評価にはかなり難儀した。全体的に、「やりたいこと」に対するアプローチとその結果は綺麗で、完成度が高く読後感は良かった。それでも大賞には、フィクションであり、起承転結に富み、設定ややりたいことに対するアプローチが正しくまとまっていて、物語としての深みがある物、を選びたかった。
それが、この二つを奨励賞に選ぼうと思った理由だ。
黎明に落ちるは、物語として読むにはあまりにも起承転結が弱い。日常のワンシーンを切り取る、という作りにおいてはそれが良い箇所だ。しかし、大賞に選ぶには、その箇所が枷になった。
ゼロイチは、その独特な主人公の視点から、感情量が少なく、また言及されなかった。それは、無機物視点ではむしろ良い箇所に成り得る。だが、大賞に選ぶには、その箇所が枷になった。
正直どちらも大賞と遜色ないと思う。それらを分けたのは、小説としてのテイストの違いそれだけだった。
今回選考に時間がかかったのは、そうした物をうまく咀嚼することができなかったという事もあるだろう。
何にせよ、全てよい作品であった。大賞や奨励賞と名前がついているからといって、そこに優劣があるわけではない事を語っておきたかった。