※できれば「最悪の魔女1」を読んでからご覧ください
〇月×日
書いても書いても気に入らずに消す。それを何年も繰り返している。一度だけ有名な賞で二次選考を通過して雑誌に名前が載った。当時はそれを喜んだけれど、そのせいで逆に何も書けなくなった。あの時の作品より良いものをと思うとなかなか最後まで書き上げられない。おまけに色々あって気分が落ち込みっぱなしだ。希望に燃えていた頃の自分に縋ってみようと昔のネタ帳を読み返してみる。
すると「本気で信じたことがなんでも実現する少年と、子供に化けて幼馴染として育ち、少年が天敵とならないよう監視を続ける極悪人の魔女」というネタがあった。当時は現代物として考えていたけども、これをファンタジー世界にしたら書けそうな気がする。
よし、今度はこれを書いてみよう。最近暗い話しか思いつかなかったから、これで気分を上向きにしよう。
〇月△日
久しぶりに快調に筆が進む。今回は最後まで書き上げられるかもしれない。このまま基本的にはギャグでいこう。
しかし気になることもある。このヒメツルの友人として登場したクルクマとは誰だろう? こんなキャラを考えた覚えが無い。たしかヒメツルは元々予知能力を持っている設定にしたはず。なのに、いつの間にか魔導書を解読して覚えることになっていた。そのキッカケを作るキャラ……記憶には無いが、多分調子が良くて久しぶりに徹夜したからハイになっていた間にでも思いついたのだろう。こっちの方が面白い気もするし、このままでいいか。
結局クルクマはすぐに退場した。再登場させるとしてもラストの方になる予定。
○月□日
また病気が再発した。気に入らない。この設定もストーリーも気に入らない。書き直し、書き直しだ。
最初から? いや、途中……クルクマと別れた直後からでいい。
あれこれ書き直していくうちに、なんだかコメディではなくなってしまった。スズランの両親は適当に調達した若い男女の死体をアンデッドとして蘇らせて作った偽の両親だったはず。なのにいつの間にか普通の村人になっている。スズランの正体のヒメツルも根っからの極悪人だったのに、今や普通の良い子ちゃんだ。
おかしい。どうしてこうなった? でも今の設定やストーリーが嫌いなわけではない。これはこれで気に入ったし、せっかく調子良く書けてはいるのだから、このまま続けてみよう。今は一本でも最後まで書ききることが大事だ。
〇月〇日
やはり何かがおかしい。ラストに再登場予定だったクルクマが何故か中盤で早くも再登場した。スズラン達に水遊びさせていたら無意識に奴を登場させていた。引き寄せられるように。
しかも戦闘力はほとんど無い設定だったのに、いきなり実は強キャラでしたとか言い始めた。馬鹿な……しかも虫使い? 僕は虫嫌いなのになんで奴等が大量に出てくる戦闘シーンを書かねばならんのだ。想像すると鳥肌が立つ。
読み返してみると、また知らない設定が……なんだ「悪の三大魔女」って? 三大魔女はヒメツル、ゲッケイ、ロウバイという設定にしたはず。いつの間にか善悪合わせて六人いることになってしまっている。あとの二人はどうするつもりだ、なんにも考えてないぞ。おまけにしれっとクルクマが悪の方の一角に紛れ込んでいる。「さいていさいあくでセットみた〜い」じゃないよ。だからいつそんな話になったんだ。
こいつ、とうとう殺人まで……このままほのぼの路線で行きたかったのに……オマエハイッタイ、ナンナンダ……。
☆月◇日
書き始めてからおよそ二ヶ月。ようやく「最悪の魔女」が完成した。実は一ヶ月前に一度書き上げていたのだが、どうしても後半の展開が気に入らず、またしても書き直す羽目になった。
元の展開ではクルクマとスズランがタッグを組み、ロウバイの肉体を乗っ取った大きいゲッケイとスズランの姿をコピーしたホムンクルス体の小さいゲッケイを相手に戦うという展開だった。村全体が人質に取られたり、モモハルの活躍でそれを救出したりして、最終的にはスズランとクルクマのコンビプレーで二人のゲッケイを撃破する。しかしクルクマの仕留め損なった方が怪物化して村人達やモモハルも参加しての真のラストバトル。そんな流れだった。
書き直した理由は、単純に無理のある展開だと気が付いたから。そもそもスズランの姿をコピーしたホムンクルスなんて作らなくても繰糸魔法を使えばスズラン本人の肉体を乗っ取れるわけで、そんなことをする意味が無い。
だから大幅に書き換えた。書き換え後の展開には自分では納得している。読んでくれた人がどう思うかはわからないが。
そして、やっぱりクルクマの活躍が書き換え前に比べて増えている気がした。
ともかく久しぶりに最後まで書き上げることはできた。後は推敲を済ませてから、この作品をどうすべきか考えよう。せっかくだしどこかの賞にでも応募を。数年ぶりだから今はどんなところがどんな形式で作品を募集しているのかわからない。調べなく
☆月凸日
何が起きた? 急に眠くなって寝落ちしたと思ったら、目を覚ますと小説投稿サイトのアカウントができていた。しかも「最悪の魔女」を投稿済みとは。
いかん、睡眠時間を削り過ぎて本格的に駄目になっている。もう少し休もう。幸いこのサイトから応募できる賞もあるようだ。今回はこれに応募してみることとする。
しかし、本当に最初に考えていた話からは遠くかけ離れたものになってしまった。書き上げられたことは気分が良いが、疑念は晴れない。僕は本当にこの話を自分で考えたのだろうか? 馬鹿げた話だが、まるで誰かに書かされていたような気がす
「駄目ですよ、気がついちゃ」
「うぐッ!?」
▼月→日
また いつのまにか ねむつていた。
おくすりが ある これをのもう。
らべるに くまのえが かかれている。
くま? くま、くま……そうだ、思い出した。全て奴の仕業だった。僕を操り、自分の出番を増やし、スズランを初期設定より可愛い人格にして信者を増やさせようと……。
クソッ、もう気付かれた。まだ監視されていたんだ。虫達が部屋に入って来ようとしている。誰か、これを読んでいる人間がいたらみんなに伝えて欲しい。奴に騙されないでくれ。真の最悪の魔女はスズランじゃない。奴の名は
(全文、削除……と)
冗談です。でも最初の「最悪の魔女」執筆中から時々クルクマに動かされているような気がするのは本当です。
よく「キャラが勝手に動き出す」なんてことを言いますし、僕は元々それをアテにして書いているスタイルなんですが、自分の生んだキャラクターに欺かれて良いように使われていると感じたのは初めてなので今回のこれを書いてみました。
そんなクルクマですが僕の中ではスズランと並んでお気に入りのキャラです。この発言も奴に言わされている可能性がありますが、僕の認識では本心ですよ。本性を出した時の彼女のことは「狂クマ」で、仮面を被っている時は「クルクマ」と頭の中で呼んでいます。読み方同じですけど。狂クマの時だけ想像の中の絵もヘ○シングみたいになってます。
初期設定の雑魚キャラから作中最強角にまでいつの間にか上り詰めていた彼女が季節のせいで元の雑魚キャラに戻ってしまっている「四季の帰り路 クルクマ編」は現在執筆中です。今まで通り一ヶ月くらいかかるだろうと思ったんですが、何故かもう七割方出来てしまいました。やっぱりクルクマに操られている気がしてなりません。
さて、息抜きも終わったので作業に戻ります。また気分転換したくなったらナスベリ編・スズラン編の時の思い出も同じ形式で書くかもしれません。
それでは、また次回。